第8話 最もお客を集めるタイトルが欲しいか?だがそれは罠だ!

「ボツ」


「ええええええッ!」


 電子タバコを突きつけ、そう宣言すると、

 目の前で崩れ落ちる火村君。

 相変わらずオーバーアクションなことだ。

 こいつは、小説家よりリアクション芸人を目指したほうがいいと私は信じてやまない。



「全然ダメ」



 ちなみに今日のタバコは一味かえてメロン味である。

 ストロベリー味よりも、甘みが強い。んん、ちょっと強すぎるかな。


「えぇ~~!

 何がダメなんですか、師匠!」


「それと師匠はよせ」

「いやです!そんなことより、この設定の何がダメなんですか!?」

「……。外では呼ぶなよ。

 それと、この作品のダメなところだが……」


「はい!」


「タイトルがダメだ。ついでにあらすじも」


「えぇー……。なんでですかあ~?

 俺、これ結構真剣に考えたっすよ。かなり思い入れも強いっす!

 もう、これはズバっときてる感じで!

 いくら師匠の意見といえど、そう簡単に引きませんからね!」


「ふむ、自分の頭で考えたことに、芯をもつのは良いことだ。

 だが、それも時と場合によるな。

 そこまでいうなら、もう一度草案をみせてもらおう」


「はい!何度でも見て下さい!」


 威勢よく返事すると、火村君は自信満々にテキストを広げた。

 ちなみに私も彼もノートパソコンで書くタイプである。

 そこには、こう書かれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 『The Irregular- Revolutionary』


――――――――――――――――――――――――――――――


「まずタイトルが、パッと見で読めないんだが」


「あれぇ?師匠、英語弱いですかぁ?

 『ザ イレギュラー レボリューショナリー』ですよ!

 意味分かります?」


「分からん」


「しょうがないなあ!これはですね!」


 なんで「分からん」と返してるのにウッキウキなんだ。

 テストでいったら0点つけられたようなもんだぞ。

 そんなに私に説明できるのが嬉しいのか。可愛いヤツめ。

 しかしWeb上では説明の機会はないぞ。可哀想なヤツ。


「直訳すると、イレギュラーな革命児……というタイトルです。

 主人公はですね!これ学校ごと異世界に転移した中の1人なんですよ!

 そして、学園の一生徒でありながら、最初は学園に対してバトってくんですが……


 最後にこれは、物語最終盤になると、学校でバトってたのから抜け出して、その監視者と戦うっす。

 監視者は、実は自分の娯楽のために、学校を呼び寄せて戦わせてたすね!

 全部ここまで、監視者の手のひらだったんですよ!彼らは別世界の人間のことを、イレギュラーとよんでました。

 ここでタイトルが回収されます!迫りくる敵!でも、そこでですね、さらに主人公が超強いスキルで逆襲します。

 ここで明かされる衝撃の真実……主人公は、イレギュラーの中の、さらにイレギュラーだったのです!


 そして、世界を革命する……そこでラスボス打倒!

 タイトル回収し、ラスボス倒してジエンド!めでたしめでたし!

 っていう話なんです!

 どうっすか?よくないすか!?」


「ボツ。というか半分聞き流した」


「酷ゥイ!せっかく熱く説明したのに!何がダメなんすか、一体!

 ストーリーすか!熱くないすか!?」


「いや、ストーリーは別にいい。いいというか、この際置いておこう。

 私が問題にしてるのは、タイトルだ。

 なんだこのタイトルは」

「めっちゃ作品の情報がこもった、良いタイトルじゃないですか!」

「良くない。しかもこもってない。これではタイトルから中身が何ひとつ分からない。

 いっそVRゲームにすら見える。あるいは、内政、政治ものかもしれない。

 ロボものかもしれんし、SFかもしれん」


「ええ……でも、俺の想いはめっちゃこもってますよ!」

「そんなもん捨てろ」

「酷ゥイ!」


「ここだけじゃないぞ。さらに、なんだこのダメダメなあらすじは」

「あらすじですか?普通に書いただけっすが……」


――――――――――――――――――――――――――――――

 『The Irregular- Revolutionary』


 どこにでもいる平凡な男。皇琉殺。

 皇琉殺 はダークインパルサー事件に巻き込まれ、カタストロフの真実を知っていく。

 クラインにより明かされる絶望。テクナを失い閉ざされる希望。

 しかし、それは再度の希望の扉

 そんな世界で、彼は何を想い、何をなすのか……

 友情の尊さを未だ彼は知らない

――――――――――――――――――――――――――――――


「皇……こう?これなんて読むんだ」

「『すめらぎ りゅうき』ですよ。格好よくないですか?」

「これ誰」

「主人公です。超クールなアウトローです。学生ですけど」

「君平凡って書いてなかった?」

「平凡の仮面をかぶっていたんです!」

「……。ダークインパルサー事件ってなに。カタストロフってなに。

 クラインて何。テグナって何。希望の扉って何」

「序盤の、クラスメート転移事件のことです!カタストロフは、この国の名前です」

 クラインは、仲間ポジなんですけど、実は監視者側のやつっす。

 テクナは、転移した友人の1人ですね。物語のキーを握ってる友人っす」

「何ひとつわからないんだが!」

「うーん。半分は序盤で出てくるんですけどね」

「本文読まないと分からんもんを、煽り文にもってくるな!」

「ええ……ダメですか?でもやってる人結構いますよ!」

「それは彼らが間違ってるのだ……」


「しかも最後もなんだ。何を想い、何をなすのか……って何。

 何この何の感慨ももてない文章。何万回見たか分からんくて、何の気持ちものらんわ」

「いや、あんまりネタバレするわけにいかないし。

 それに、場合によっては長く続きますから、色々含みもたせようと……」

「今更ネタバレ気にするのか!?じゃあ友情の尊さを知らないってなんなんだ」

「あ、これは友情の尊さを知るってのが作品テーマなんで」

「作品テーマを直接書く!?もうね。色々ダメだこれは!」

「そ、そこまでいうほどっすかね……」


 くぅぅ。なんということだ。

 火村くんがここまで残念な感じだったとは……

 知ってたけど。超がつくほど。

 

「んーむ。そんなにダメですかねこれ?

 くっそう、やっぱ流行ってなさそうだからか?

 もう一つのタイトル候補にすべきだったか……。

 書き直してきます!」


「いや、しなくていい。もう一つのタイトル候補とやらも、これじゃレベルが知れるからな。

 この次元で考えてたら同じことだ。見るまでもない」


「酷いッ!つーか、アレですか師匠!

 これがダメってことは、やっぱり師匠も、

 いわゆる『長文系タイトル』推し派なんですか?

 やっぱ人気取りには長文!みたいな……」


「まあ、これよりはずっとマシだな」


「えー師匠もアレやってれば売れるって考えなんですかー?」


「いや、別にあれならなんでも売れるとは言わん。

 だが、あれが良いと言うのに理由があるのもまた確かだ。

 そもそも君。

 『なんで長文だと人気でやすいのか?』

 それを考えたことはあるか?」


「え、なんで長文だと……すか?

 流行ってるから……じゃないんですか?」


「違う。流行ってるから、ではない。結果としては流行ってるが、

 長文系が人気が出るのは、至極当然の理由がある。

 それは、優れたタイトルとは何か?という答えの本質に、長文系が近いからだ。

 いい機会だ。私のタイトル論を……。

 コピーライターの視点でよければ、それを伝えようじゃないか」


 長くなりそうだな……。

 一息つくために、電子タバコをつける。

 今度は勿論ストロベリー味だ。


 んんっ。微妙な酸味がちょうどよい。

 やはりこれぐらいがベストだな。

 

 水蒸気の煙を吸い、そして吐き出す。


「おお!師匠のタイトル論すか!?

 聞きたい!是非聞きたいっす!

 勿論、小説にも活かせるから、喋ってくれるってわけですよね?」


「無論だ。

 なんせコピーライターは、その名の通り、キャッチコピーに一番心血を注ぐ。

 タイトルやキャッチコピーの理論とは無縁ではいられない。

 そしてその論理は間違いなく、小説にも活かせるぞ。

 というか、店の名前や、メニューの名前にも活かせる。

 実際、最近そういう長文系の店名の店とか増えてるからな」


「ええっ、店とかでも増えてるんすか?」


「増えてるよ。そして大体売り上げがとても良い。本質を理解してるとこはな。

 そうだな……どんなタイトルが良いか?の前に、ほむほむくんに一つ聞くとしよう。

 ほむほむくん。君は『タイトルやあらすじの主な役目は一体何だと思う?』」


「や、役割?役割って言われると……。

 うーん。あんま考えたことなかったすけど。

 やっぱ『作者の想いを伝えること』……じゃないんすか?

 あるいは……『作品のテーマが込められてる』とか……って思うんすけど、

 でも、さっきの師匠のダメだしからすると、これ違うってことすか?」


「うむ。実に作家らしい答えだな。

 だがその通り。違う。

 『作品への想いなどタイトルにはいらん』」


「うぇえ?そうなんすか……?で、でもでも、それしてる人結構多いっすよ?」


「多いことが常に正解とは限らない。

 まあ理由は簡単にいうなら、実はお客の方を向いていない答えだからだ。詳しくはあとで話す。

 それよりも、タイトルの役割だ。想いじゃないならなんだ?

 それらは、商売基準で考えたときは、そこらの要素は二の次三の次になる。

 私が前に話したこともあわせて、

 その基準で考えてみるんだ」


「商売基準……ですか。うーん。

 確かにその視点だと、俺のタイトルは商売っぽくはないっすね……。

 師匠、前何いってたっけか……。

 あ、あれか。わかった。『見つけてもらう』ってやつっすか」


「む」


「そうだ!じゃあ、つまり『目立つ』ってことですね!

 一番目立つのが、一番良いタイトルです!

 一番目立てば、お客さんも一番くる!つまり、ポイントとかも一番もらえる!

 長文は目立つ!だから長文が流行る!どうすか!?」


「素晴らしい。いい視点だ。

 だけど、目立てばそれでいいのか?

 『ああああああああああああああああああああああああああああああああ

  ああああああああああああああああああああああああああああああああ

  ああああああああああああああああああああああああああああああああ』

  みたいなタイトルは、相当目立つけど、良いタイトルか?」


「いや……よくないっすね。読む気しないっす。

 そっか、実際にお客こないと意味ないのか。

 じゃあ、『お客を呼ぶ』これが一番大事っす!間違いないっす!」


「ふむ。いい視点だ。

 言葉を言い換えると、ライター風に言えば、『集客できる』ということになる」


「集客!それっすよそれ!やったぜ!じゃあつまり

 『一番お客さんを集めれるのが、一番いいタイトル』なんですね!?」


「そのとおりだといいたいが……、 そ れ は 違 う 」


 ここは大事だからな。

 ゆっくりと、煙をたゆたせながら、私は返した。


「えっ……?いや、だって『集客』がタイトルの役目なんすよね?」

「そうだ」

「じゃあ、一番人を集めれるタイトルが、一番いいタイトルでは?」

「 違 う 」


「意味わかんないっす!」


「そうだな。正確には、まだ足りない、といったところだ。半分正解だな」

「足りない!?人集めて、読んでもらえれば、それがゴールじゃないんすか?

 後は本文の役目で、タイトルの役目は終わってると思うんですけど」

「いいや、終わってない。タイトルに大事な役目は、実は『もう一つある』」

「それは、なんなんすか?」


「そうだな。いい機会だから教えよう。

 レッスン6だ」


「おお!数字つきレッスン!段々実用的な響きに!」 



「これは、なろうに限らない、集客の大事な概念だしな。

 君も、私の弟子を自称するなら覚えておくんだな。

 いいかい。コピーライトの世界では

 『最も優れた集客術とは、最大人数をとることではない』」


「最大人数を取るのが最もよい集客ではない……?ば、バカな!」


「そうだ。それはベストではない。

 ベストとは、100人中、100人を呼ぶことではない。そこは理想ではない。

 最も優れた集客とは……


 レッスン6だ。

 『それを必要な人だけを呼んで、必要でない人は一切呼ばない』


 というものだ。私の弟子を名乗るなら、絶対に覚えておきたまえ。

 ここはコピーライターの集客術の理論の中ですら、かなり高度な考えだ。

 だが、ここを間違えると、集客は何をやってもうまくいかない」


「必要な人だけを呼ぶ……?たくさん呼ぶのがいいってわけじゃないんすか?」


「そうだ。これがレッスン6『必要な人だけ呼べ』だ。

 それが分かってないと、『とにかく人を呼ぶのが良い』となる」


「ダメなんすか?」


「ダメだな。チラシ1000枚ばらまいたやつより、1万枚のほうが強い、みたいな陳腐な発想になり

 宣伝競争で金や手間が無限に増えていくし、手法だって詐欺ったほうが良しとなる。

 だがこんなのは明らかに、今しか見えていない発想だ。

 コピーライターは先を見据えなければいけない。我々は利益を産むためにいるのだ」


 今勝っていても、次に繋がらなければ意味はない。

 次のための今だ。

 今勝たないと次はないという話もあるが、今も次も勝つのが最良に決まっている


「そうだな……なろうでいうと、異世界だの転生だのチートだの

 『流行りワードをとにかくぶち込めばいい』という発想になってしまう。

 君のもう一つのタイトル候補とやらも、実はこの手なんじゃないのか?

 しかし、それは大いに間違いだ」


「ウッぐゥッ……!な、何故それを知って……。

 俺、実は師匠にタイトル却下された時、そういうタイトルにしようかと考えてたっす!

 や……やはり師匠はエスパー!!」


 そんなわけあるか。

 タバコの煙を、静かに吐き出す。

 エスパーならこの煙も操れるのだろうが……。


「君が単純なだけだ。

 話を戻すぞ。何度もいうが、必要な人だけを呼ぶ。

 これこそが、一番すぐれた集客だ。

 つまり、優れた集客は、集客も兼ねているが同時に『選別』も兼ねている。

 というより『選別』が先にあり、『選別』する中で最大に『集客』する、という順番が実は正しい。

 では、何故選別が大事かを話そう」

「選別……ですか」


「そうだ。例えば、なろうにおいて作者が呼びたい人とは誰か?ほむほむ君、それが分かるかな」

「えっと……そうっすね。呼びたい人……つまり、理想のお客ってことっすか?」

「いい質問だ。そのとおりだな」


「じゃあ、ブクマと評価ポイントくれる人っすね!ランキングあがりますから!

 ブラウザブクマのお客さんより、アカウントとってポイントくれるお客さんのほうが100倍ありがたいっす!

 というか、ブラウザブクマのお客さんはそもそも存在に気づけないっす。

 んで評価も5:5とかだと最高ですね!あ、好意的なレビューも欲しいかも!

 レビューで爆発した作品って山のようにありますもんね!

 そんで、元気がでるような感想とか、ああ、読み込んでるなって感じの感想くれるとよりいいっす!

 で、俺の作品を続きまだー?って待ってくれて、応援してくれて、何度も読んでくれるような人ですかねえ!

 さらに口コミまでしてくれたら、最高&最高っす!読者の神っす!神isGOD!」


「おお、そこまで言語化できるとは素晴らしいな。

 万雷の拍手をあげよう。ぱちぱちぱち」


 気のない拍手を送る。まあ、ここまでキレイに夢見れるなら、

 それは一種の才能だ。素晴らしくはあるだろう。


「全然万雷感ないっすけど!ありがとっす!もっと褒めて!」

「調子にのるな」

「はう」


 タバコで頭を小突くと、話に戻る。


「さて、そうだな。なろうのシステムだと、ポイントをくれないファンは作家からは認知できない。

 単なるPV1として通り過ぎるだけのデータ。巡回BOTと見分けはつかんし、いないも同然だ」

「本当です……アカウントブクマか評価ほしいですマジで。別に5:5とかじゃなくてもいいんで」

「切実だな」

「切実です」

「1:1でもいいのか」

「1:1でもっす。最後まで読んでくれたご祝儀でいいんで」

「切実だな」

「切実です」


「まあ話をもどそう。彼らを商売的な用語でいうと。

 『リピーター』だね。リピーターが進化するとファンになる。

 何度も利用してくれる人。また読みたい、また買いたい、そう思ってくれる人のことだ。

 これが、なろうにおいて、いや商売において『呼ぶべきお客』だよ。

 そして『直接声をかけれるリピーターを増やすこと』……これが作者の生涯のゴールなのだ」


 このゴールに関してはまた今度話すとしよう。


「また来るよって言ってくれるお客……。確かに、一番欲しいっす!」

「そう『また』というのは一番いい評価だよ。どんな褒め言葉も、これにはかなわない。

 そして、『また』には全ての評価が出る。

 本音が出る。口でどんなに褒め称えようと、『もう来ない』という行動以上に正直なものはない。

 一度読んだらいいやっていうのは、所詮その程度さ」

「そっかー。言われてみれば、確かに!」


「では次だ。それが最高だとしたら、来てほしくないお客は?」

「そりゃあ、読むんじゃなかった。とか、全然合いませんでしたってお客っすよ!

 それと全然読まずになんか言ってる人とか!

 あと、とにかく口やマナーの悪い奴っす。これほんといやっす」

「そのとおりだ。だから、みんな『これは異世界転生です』とか書いたり、タグが大事になってくるのさ。

 転生です。って書いてあれば、「読んだら転生でした!不愉快です!」とか、

 まあ、よほどの変人以外ならないだろう?」

「そっか。段々分かってきたっすよ師匠。

 だから、みんなそういうことを前書きで書いてたりしたんすね。あれは選別なんすね」

「そうだ。予防線という言い方をする人がいるが、正確には選別だ。

 みんな、選別の正しさを無意識に知っている」


「そっかー。数があればいいってもんじゃないんすねえ。

 パッと考えると『数が正義』に感じるっすけどね。集客って言葉からは」


「集客を勉強してないと陥りやすい罠だな」



「うーん。でもなんで集客まではみーんな考えても、選別までは考えない人が多いんすかね?

 無意識にできてる人もいるみたいっすけど」


「そうだな……色々理由はあるが『幻想』に浸ってる人が多いからかな」


「『幻想』……ですか?どんな?」


「『自分の作品は万人に受ける』という幻想だ。

 皆にうける可能性がある……という考えだな。

 100%受けない読者の存在をかんがえていない。

 書き始めの初心者にありがちだが……

 だが、そんな作品は人類の歴史上存在しない。

 全てには『合う合わない』がある。万人への名作などない」


「うッ……!何故か心をエグるッ!」


「万人に合うわけではない。とわかってたら、自然と『選別』を行うはずだ。

 逆にいうと、選別を行わない人は、自分の作品は誰にでも合うはず、

 というある意味自信満々な人と言える。

 だが、明らかに合わない人に作品を勧めても、お互いに傷つくだけだ。

 作品の属性を示し、選別を行うことは作者の親切であり、むしろ義務とまで私は考える」 


「作者の義務!!」


 例えばもし私が、作者向けのエッセイを書いたら、

 基本的に、作者にだけ響くようにタイトルを書くだろうな。

 タイトルで選別とはそういうことだ。


「そもそも、親切抜きにしても、選別しないと実害もあるからな」


「実害……っすか?」


「ああ。選別しないで集客するとだな。

 数さえあればいい方向に行くと『何しても合わない人』まで大量に呼び寄せてしまう。

 でも例え数があっても、呼ぶべきでない人を絶対に呼ぶべきではない」


「絶対に……すか?」


「そうだ。合わないと分かってる人は最初から呼んではいけない。

 そして、それはありとあらゆる作品に存在するのだ」

「ふむぅ……?」


「……そうだな。例えばだよ。君がバンドマンだとする。100人入るライブ会場がある。

 君はライブをする。君は以下の集客方法のどちらかを選ぶことが出来る。


 1.50人の、君のファンで、君の音楽が大好きなお客だけを呼ぶ

 2.20人の、君のファンと。80人の、君の音楽を聞きたくもない人を呼ぶ。

        というか音楽ファンですらない人を呼ぶ


 どっちがいい?」


「いや、そんなの絶対1がいいっすよ!

 2とかどう考えても会場冷えっ冷えじゃないっすか!

 しかもファンもその空気じゃ絶対楽しめないすよ!

 主催者に文句いいながら、LINEで友達に『ライブ空気悪いからこなくていいよ』って

 メッセ送ってるとこまで想像できたっす!二度とライブ来なそう!

 つーか俺なら、悪口言いふらすまであるっすよ!」


「そうだな。下手したらファンをやめてしまうだろう。

『ファン以外を呼び込んだことによって』だ。

 逆に1はどうだい?」


「超楽しそうっす!何度でもやりたいっす!ファンも絶対次もこよう!ってぐらい

 盛り上げる自信ありますよ!」


「つまりそういうことだ。これは例え、一方通行の度合いが高いWeb小説や本でも同じことさ。

 選別した集客をするしないでは『今後の盛り上がり』が圧倒的に違うのだ。

 褒め感想が10あっても、批判が100あったら、集客しないほうがマシだって思わないか?」

「思うっす。絶対嫌っす。つか、褒め10対批判1でも正直嫌なぐらいっす」


「まあ、そんなもんさ。誰だって批判は嫌なもんだ。だから、選別が必要になる。

 実際、悪影響だしね。アマゾンでも、★5が10だけの商品は買ってもいいけど、

 ★5が10で、★1が100だったら買いたくないだろう」


「絶対買わないっす!」


「そして、★5が10は、今後売上が伸びる可能性が大いにあるが、

 ★1が100のほうがもう伸びる未来は一切みえないな。そういうことだ」

「今は口コミが強い時代っすもんねー」

「レビューや、口コミの強さをバカにしてはいけない。

 集客の数は正義ではないが、口コミの数は正義だからな」


 「ふぃー」と煙を吐き出して、言葉をつなぐ。


「ちなみに心理学的にいうと、1の否定意見は、7の肯定意見を相殺する。

 アマゾンレビューでいうと、☆5が7つあってようやく、☆1の意見1つを取り消せるのさ。

 ☆5が3つ、☆1が3つは、否定意見のイメージのほうが圧倒的に強くなり、

 警戒するのが人の心理だ。実験で立証されている。これも知っておいたほうがいい」


「ああ……それ、確かにそうかも……。

 1個否定意見あると、メチャクチャ目立つっす。

 確かに7倍ぐらいないと、この否定の人がたまたまかな?とか思わないかも」



「だから、響く人だけ呼ぶ、というのが大事なのさ。

 『誰を呼びたいのか?』というのは超大事なんだ。集客においてはね。

 その一瞬だけ呼べばいいなら、この話は成り立たない。

 だが大抵は『今後も呼び続けなければいけない』。そのためには、合わない人をよんではいけない。

 『次の集客』に大幅なブレーキがかかるからな」


「あ、一瞬だけ呼ぶなら、選別しなくていいんすか」

「まあな。そんな状況などまずないが」


 100話あるけど、1話だけ読んでもらって、残り99話読まなくていいとか。

 1作書いたけど、2作目以降は読まなくていいとか。

 ……まあないな。

 だから、リピーター重視の集客が大事なのだ。


「それに、作家のモチベーション的にも、センス的にも非常に大事だ。

 合わない客をよぶと作者のセンスとモチベが腐る」


「合わない客をよぶと、感想が荒れてモチベが大変なことになるのは分かるっすけど……

 センスもっすか?」


「そうだ。例えば、Tさんという作者がいる。いちゃいちゃハーレムな作品を書きたくて、書いてたとする。

 そしてTさんには30人の、いちゃハーレム好きな読者がいたとする。

 だが、意味のない集客を頑張った結果、70人の属性外の読者がふえた。

 つまり、100人中、いちゃハーレム好きが30人で。

 70人が、エログロバイオレンス好きだとする。

 

 ここで、Tさんがいちゃハーレムな作品を続けて投稿する……。

 すると、感想欄では7割が反発し、3割が絶賛するわけだ。

 あるいは、PVやブクマで7割消滅するわけだ。

 するとTさんはこう思う……

 『あれ?これウケない?絶対当たると思ったのに……

  イチャイチャ減らして、もっとバイオレンスがいいのかな……』」


「こわッ!

 師匠、それ怖いっす!」


「ふふん。この怖さがわかるか。

 そう、これを続けていくと、自分のセンスがぐらつき始めるのだ。

 いいかい、本当のデータとしては、100%当たると思った話が、ちゃんと100%当たっている。

 30人のイチャイチャ好き読者は、ちゃんと満足している。

 なのに、現象としては3割しかあたっていない。

 ここで、Tさんは『俺のセンスずれてきた?』と考える……

 そして、万一70人のほうの意見を採用しようものなら……」


「ズレてない、ズレてないっすよTさん!戻ってきて!いかないで!」


「ああ、30人中の読者の中でやってれば、センスが崩れることもなかったのに……

 そのままいけばその30人がクチコミを行い、

 いずれそれが40人、50人、100人の絶賛に変わってただろうに……。

 70人のほうを向いたばかりに、哀れAさんは、元々の読者も失い、

 かといってエログロに興味ないので、新しい読者に応えることもできず、

 自分の作品の何がいいのか、何が悪いかよくわからなくなり、

 ついには自分のセンスへの自信も失い……」


「怖いっす!マジで!リアルで怖いっす!生々しいっす!」


「ちなみにこれは、『集客を無意味に頑張る』場合だけにとどまらないぞ。

 『集客を一切しなかった場合』も根本的に同じ問題を含んでいる。

 客を選ぶ行為を行ってないわけだからな。

 『集客なんてダサい』という気取った態度の人もいるが……

 それはつまり、選別しないわけだから、上のようなケースが繰り返され、

 そんなことを言ってる間に徐々にセンスが腐って……」


「よくわかりました!集客を誰でも呼べばいいってもんじゃないってことが!

 あるいは何も考えてないってのがダメだってのが!」



「理解が速くて結構。

 今までの話をまとめて、小説用に言い直すとこうなる……。


 『作品が合う人だけを最大限に呼び寄せ、作品が合わない人を、一切呼び寄せない』


 これが、一番すぐれたタイトルあらすじということになるな。

 勿論、作品の質が低品質だと、合う人が誰もいないとかになりかねないが……

 例えそれが最高傑作だとしても、合わない人を呼んだらどうしようもないからな」


 如何に最高傑作だろうと、ジャンルが合わなければそれは合わない人はでるからな。


「そっかー……なんとなく分かってきました師匠!

 『誰を呼びたいか?』を明確にした上での、

 『集客』と『選別』これが大事なんですね!」


「そうだ。まとめると『リピーター候補客の集客』だな。

 これが、ライター的にいうと『タイトルやキャッチコピーの本質的な役割』であり……

 なろう的にいうと『タイトルやあらすじの役割』だ。


 そしてこの『誰を呼びたいか?』こそ真のターゲッティングであり、

 ここがない商品は、連鎖的にその後も全て失敗するだろう。

 それぐらい大事なところだ」



「そっかー!ありがとうございます師匠!よし、これで俺も……」

「……」

「俺も……」

「……」

「あれ?師匠……。ちょっと疑問があるんだけど、いいすか?」


「なんだ?質の高い質問ならいつでも歓迎だが」

「うっ……いや、そう言われるとプレッシャーっすけど……

 師匠って質問の質をよく気にしてるっすよね」


「質問力は大事だよ。質問にはその人のレベルやセンスが全てでるからな。

 ま、気にしなくていい。君は素直な分、本質をついた質問が多い。

 とりあえず話を続けたまえ」


「タイトルの役割が『集客』と『選別』だって言うのはわかりました。

 『誰を呼びたいか』で、自分の作品にハマってくれそうな人を呼ぶってのが大事ってのもわかりました。

 でも『実際どんな何を意識すれば』そういうタイトルになるのかが、全然ピンと思い浮かばないっす!

 どうすればお客が集まって、かつ選別も行えるタイトルになるんすか?」

「ふむ……」



「つまり……具体的なやり方が全然わかりません!」


 ほむほむくんが、なんか餌にギリギリ手がとどかない猫みたいな顔をしている。

 まあ、理論だけ伝えたらこうなるのも当然か。


 

「うう……どうすればいいんすか?

 なんか結局、異世界とかTUEEEとか人気ワードぶちこんで、

 「ファンだけ読んでね!」とかが集客と選別を同時に兼ねるってことになるんすか?

 それ新人とか無理ですよね?

 っていうか、そもそも選別の前に、集客要素は結局必要っすよね?」


「必要だな」


「じゃあ結局人気ワードぶち込みが大正義なんすか!?

 あと、人気ワードぶち込みまくりも、詐欺じゃなきゃ別にいいんすよね?

これが結局答えなんですか?」


「勿論違う」


「ですよねー!でもわかんないす!人気ワードに頼るのがダメなんすか?」

「いや、人気ワードをぶち込むのはいい。だが、考えなしにぶち込めばいい、というのではないだけだ」


「ぐう……結局具体的な話が、わかんないっす!自分のバカさが恨めしいッ!」


「気落ちするんじゃない。君がバカであることを否定したいわけではないが、今回に限っては普通だ」

「それフォローしてなくないすか?」

「まあなんせ、まだ役割しか話してないからな。

 これから、それを具体的に落とし込むための、ノウハウを話そう。

 あくまでライター視点だが、きっと小説にも活かせるだろう」


「おおっ!本題はこれからだったんすね!

 早速聞かせてくださいっす!」


「うん。じゃあ答えを言おうか。

 誰を呼びたいかも決まった。集客の役割もわかった。

 その上での、正しいキャッチコピーの付け方とは何か?

 キーワードを、教えよう。ヒントは○○感、だ」


「ヒント……○○感?」


「そうだ。分かるか?」

 

 電子タバコをペンのように回し、ほむほむくんの思考を促す。


「なんすか?人気感?流行感?でも選別しろって言われたし……。

 説明感?いやつまらないか。面白感?煽り感?んん?」


「お、どれも悪くないな。特に最後は良い。

 ちょっとだけ違うがな」


「煽り感が……?でもちょっち違う……。ぐぬぬ……わからないっす!

 正解はなんすか?」


「正解は……『期待』感、だ。それがタイトルに求められるものだ」


 



――――――――――――――――――――――――――――――

今回のレッスン……

 レッスン「合う人だけを呼べ」

 最高の集客とは、合う人だけを呼び、合わない人を一切呼ばないもの

 リピーターの追求こそ至上        



裏話

「師匠って、質問好きっすよね」

「いきなり答えを教えても身になるまい?

 君が教えたこと絶対忘れない大天才マンなら、直接答えでもいいが。

 その代わり二度と同じ質問するなよ」

「非天才コースでお願いします」


1万1700文字

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