第15話 結婚記念日②
「ママ! ママはどーやってパパとケッコンしたのー?」
「あー! サヤも気になるー!」
その早朝、家族で朝ごはんを囲んでいる時だった。お姉ちゃんであるサキが唐突に聞いてくる。
「おっ! そんなに気になるの!?」
ーーと、ここで食い気味に反応する嫁である真白だ。
「うんっ! だって、ママとパパのことだもん!」
「いっぱいイチャイチャして、けっこんしたんだよね!」
「そ、それより……ご飯のことについて話さないか?」
蓮は冷や汗を流しながらどうにかこの話題を逸らそうとする……。それは真白のことが嫌いなどというわけではなく、ただ単に恥ずかしいからである。
自分たちの子に聞かせるというのは、毎日のようにからかわれる可能性だってあるのだから。
「蓮くんは静かにしてくださいっ!」
「パパうるさいー!」
「しずかにする!」
「敵だらけかよ……」
真白は我が子にどうしても伝えたいのか、蓮に向かって『シー』とのジェスチャーを取った。
そのジェスチャーを真似するサヤとサキ。完全に1体3という構図が出来ていた。
「んー、何から話そうかなぁ……。あれにしようかなぁー、これにしようかなぁー」
「もー! 早く知りたいー!」
「サヤもー!」
「えへへ……。いっぱいあって困るなあー」
『めちゃくちゃ』そんな表現が似合うほど嬉しそう微笑んでいる真白に、蓮も思わず笑みを浮かべそうになる。
だが……今朝のことを思い出し、ハッと面様を戻す。
「真白、頼むからアッチ路線はやめろよ。可憐にも言われてるんだし」
『アッチ路線』というのは、
「アッチろせん……? もしかして、ママがすっぽんぽんでパパの上にいたことー?」
「おー、おうまさんごっこだ!」
「れ、蓮くんっ!? なんでここでそんなことを言うのっ!?」
「い、いや、俺は濁して言ったぞ!?」
蓮の子及び、真白の子は本当に凄かった。知識がない状態でそこまで掴むことが出来るのだから。
蓮と真白は偏差値63の高校を卒業している。二人の地頭は良く、上手く引き継いでいるのは間違いない。
そして、『アッチ路線』からこの話題に結び付けられるのも、ある者の血を引き継いでいるからに違いなかった。
「……はぁ。どんだけ真白の血が強いんだよ……。普通ありえんだろこんなの」
「そ、それはわたしに失礼じゃないかなぁっ!? わ、わたしはそこまでエッチじゃないもん! 普通だよっ!」
蓮の呟きをきちんと耳に入れた真白は、ぷんっと怒りながら反抗をする。
ただ……真白を知る者にとってその反抗は浅はかなものと言える。なにせ今までの行動から説得力のカケラもないのだから……。
「ふ、普通!? どこをどう見ればそう言えるんだ!?」
「ちゃ、ちゃんと我慢出来てる…………じゃん!」
「毎日俺を襲ってきておいてなにが我慢出来てるってどう言う意味だよ!? それに、自信なさそうに言ってる時点でアウトだ!」
「す、好きで襲ってる部分もあるけど、一番は3人目の子どもを産む準備をしてるだけなのっ!」
「欲求を満たしたいって理由を、子どもを産む準備に置き換えるな!」
内容が内容だからこそお互いに言い合ってしまうのだ。
これは決して本気の喧嘩などではない。仲が良いからこそ起こるもので、サキとサヤも当然分かっていること。
「お馬さんごっこって、えっちなこと……なんだ?」
「こどもをうむ? おうまさんごっこで?」
蓮と真白の会話を冷静に傍観し、疑問に思ったことをバッサリと突っ込むサキとサヤ。
「え、エッチなことじゃないよ!? それはもう健全だからねっ!?」
「あー! ママがうそついてるー! 慌ててるもん!」
「うそつきはドロボーのはじまり!」
真白は嘘を付くことが本当に下手だ。……サヤとサキに簡単に看破されてしまうくらいに。
だが、この件に関しては家族の問題である。この家の大黒柱である蓮が無視出来る話ではない。
「よく分かったなサキ、サヤ。二人はママみたいに嘘をつかないようなー」
「うんっ! ママはいじわるだー!」
「うん! ままはいじわるー!」
蓮はこれで話の流れを変えようとしたのだ。ーーしかし、これが一つの間違いだった。
嘘を見破られ、冷静さを失っていた真白は蓮の言葉を真に受けてしまったのだから……。
「むぅぅ……っ! もういいっ! もう蓮くんは毎日寝かせないからねっ! お仕事に影響すればいいんだから!」
「そ、そこで専業主婦の利点を使うなって! ただ話を逸らそうとしただけなんだから」
「……あっ、でもこれで毎日出来るよぉ、えへへへ」
「おいッ! 可憐の件を忘れんなって!」
両手で口元を抑えて、抑えきれない笑顔を浮かべる真白に、『ソレが目的かよ!』と、鋭い視線で訴える蓮。
真白からすれば『夫公認! 襲ってもOK!』という偶然の産物を得たと言ってもいい。えへへと微笑んでしまうのは当たり前のことだろう……。
「ママはいつもパパがほんと大好きだよねー! パパはママのこと大好き?」
「だいすきだよねー?」
「にやにやぁ……」
「ど、どうしてそんなこと聞くんだよ……。って、真白はニヤニヤすんな!」
サヤとサキのキラーパスに、真白はニヤニヤ顔で蓮に視線を送ってくる。
我が子からの質問……。しかもその質問は真白が大好きかどうかだ。
この流れを止める、もしくは逸らす方法は絶対に無い……。答えなければサキとサヤは蓮に対して不信感を抱いてしまうのだから……。
「だってね、ママは『パパが大好きー!』って言うけど、パパはぜんぜん言わないんだもん!」
「聞いたことないー!」
「わたしも聞いたことないなあ」
1体3の構図から、そして蓮に『大好き』だと言わせたいのだろう、真白はサヤとサキの波に乗るように強気に出ている。
……こうなれば逃げ道は無い。……蓮は恥ずかしさを我慢し、反撃するように正面からぶつかることにする。
箸を止め、ゆっくりと真白に視線を合わせた後にーー言う。
「大好きだよ。真白のこと……ママのこと」
「おぉおおおおおお!!!」
「わぁああああああ!!!」
その告白に、サヤとサキは何故か椅子から立ち上がって大きな歓声をあげた。
「ぅ、〜〜っっ。蓮くんっ、て、照れるよっ!!」
「なんなんだよこれ……」
そして何故かこの言葉を言わせようとした張本人ーー真白は顔をものっすごく真っ赤にしている。
結婚記念日の朝は、そんな風にして終えたのであった……。
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