第8話 番外⑧ 学園編 始 ←新話です
教材などが入った手
早朝、職員室に顔を出した蓮だがなにもイジられることなく、この時間まで過ごす事が出来た。
(もしかしたら、情報はあまり広がってないのかもしれないな……)
なんて安堵した気持ちは教室の扉を開けた瞬間に消え去った。
「ヒヒィィィィン!!!」
「パカラッ、パカラッ!!」
「はぁあああ〜〜ドッキングッ!!!」
「ンァアアアア……!!!!」
『ガラッ!』
一瞬にして扉を閉める蓮。今見た光景は言葉にならないほどだ……。
「ちょっ!? 蓮先生逃げたよ!?」
「あははははははっっ! やばい、超ウケる!」
「先生が可哀想……」
「いやぁ、お祭りであんな騒ぎになれば仕方がないよねー。クラスのグループでも、学園のグループでも、その話題で持ちきりだったしー」
「あれは悲惨だよ……。子どもの純粋さって怖いね……」
そんな光景に動じることもないクラスメイト。また、そんな会話をされてることも知らない蓮は……少しの時間を開けて再び教室の扉を開ける。
「……おはよう」
「あ、先生入って来た!」
「ねぇ、もうやめとこ……? 蓮先生の顔、死んでるよ……」
「死んだ魚の目してる……」
「あはははっ、もうやばい……っ、腹がよじれるって!」
そんな蓮を見て、受け持つ生徒達は二種の反応があった。
一つ、心配してくれる生徒。そして逆に腹を抱えて笑う生徒だ。
「え、えっと……まずは、何をするんだっけ……。えっと……」
「せ、先生倒れそうじゃん……」
「いや、多分あれ奥さんとヤって疲れてるんだろ。なんか5人でするとか言ってたらしいし」
「子どもさんも参戦するって話だったよな……?」
「もうやめてって、その話…………あははははっ!」
生徒達の発した言葉は当然、蓮の耳に届いている。その生徒達の言葉は蓮のメンタルを……精神をエグるもの……。
蓮は崩れ落ちるようにして教卓前に置かれている椅子に腰を下ろした。
「……もういやだ」
そんな呟きは誰も聞いてはいない。
「先生……」
「な、なんか椅子に座ったぞ……?」
「いや、多分あれは腰を使い過ぎて疲れたんだろ。なんか5人でするとか言ってたらしいし」
「子どもさんも参加するって話だったよな……?」
「その無限ループやめてって! ……かはははははっ!」
思春期の子どもは本当に凄い。なんでもかんでもこうした会話に結びつけてくるのだから。しかも、この手の話題に限って話の繋ぎ方が上手いのである。
「もういい……もういいよ……。イジるならイジってくれ……」
「おいって、やり過ぎだぞお前ら……。先生しょげてるだろ……」
「一番最初に『ひひぃいいん!!!』って言ったやつが言うセリフじゃねえだろ」
「でも、先生の夜テクニック凄そうだな……。大人のテクニック……」
「多分、すげぇの持ってると思うぜ……? あの真白さんを満足させてるんだから……」
生徒達は想像も出来ていないだろう。その夜の餌食になってるのは蓮だと言うことに。真白は旦那を襲う習性があると……。寝ている隙に本気で襲ってくる習性があると……。
「……お前ら、一つだけ教えてくれ。……その情報はどこまで広がってるんだ?」
「全部でーす!」
「先生の子どもさんが言った最後の台詞を聞いた人がいますから……」
「『今度カレンお姉ちゃんもパパの上に乗ろうねー!』 『はぁはぁって言おーねー!』ですよね!
「 そのカレンお姉ちゃんって人もすげぇ美人だったらしいぞ!!」
「真白さんって人がいながら、5人だぞ……。ヤバいだろ……」
「性欲すげぇな……。流石先生だぜ……」
蓮はどうしても言いたかった。『それは真白に言ってくれ!』……と。
しかし、夫として……真白を一番に想う者として……それだけは言うわけにはいかない。
それ以前に、こんな話は教師としてしてはいけないことなのだ。
「でも、なんで先生は教えてくれなかったんですか? あの真白さんが奥さんだって!」
「そうですよっ! 普通言いたくなりませんっ!? あの伝説の真白さんなんですよ!?」
「その真白さんを落として結婚までしてるんだからなぁ……」
「違うよー! 真白さんが蓮せんせーにアタックをかけたんだよ! これは真白さんから聞いたから間違いないっ!!」
「「「はぁああああああ!?!?」」」
真白の話を直に聞いた一人の女子生徒がアッサリとバラしてくる。
教室の中はもうお祭り騒ぎ。……この時点で蓮は数ヶ月分の英気を失ったも同然だった。
「先生ッ! 真白さんはどうやってアタックをかけてきたんですか!?」
「マジそれ気になります!」
「わ、わたしも気になるかも……」
「あの伝説の真白さんが掛けてきたアタック……」
「……もう俺をからかわないなら教えてもいい」
蓮にとって、この状況を打開する策は一つ。真白がしてきたアタックの数々を暴露するのみだ。
「「「教えてくださいッッ!!」」」
一致団結する生徒達に、蓮は渋々教えていく。
「いきなり手を握られたり、いきなり腕組まれたり、いきなりキスされたり……全部顔を赤くしながらしてくる。これ以上は言わんからな」
「す、すげぇ……。やっぱ不意打ちって大事なんだな……」
「ま、真白さん……ぱネェ」
「そ、そんなことされたら好きになっちゃうよね……」
「真白さんがするんでしょ……? それは落ちちゃうよ……」
「だよな……」
思わず蓮まで同意する始末である。
この時、クラスは一つになったと言っても間違いではない。
「先生っ! 先生は真白さんのどこが好きなんですか!?」
「……そりゃあ全部だよ。不満もない」
蓮はこの時……隙を作ってしまった。そして、その隙を一人の生徒に突かれたのだ……。
さらに言えば、相手が上手かった。……流れに沿って自然に入り込んでくるその能力に。
「もっと具体的にお願いしますよー!」
「ま、まぁ……、俺のことを第一で考えてくれることだな……」
「それでそれで!?」
「先生、それ以上言ったらーー」
注意を促そうとする一人の生徒を全員で抑えにかかるクラスメイト。蓮はその注意に気付く事なくどんどんとボロを出していく。
「……料理も上手いし、子どもの機嫌を取るのも
蓮は生徒達に視線を合わせることなく、心の中に秘める想いをどんどんと語っていく。
「そんな真白に釣り合おうとしてるんだが……やっぱり無理だなぁ」
「蓮せんせー! 自分を卑下するのはどうかと思いますー!」
「そうだよねっ! 先生は真白さんと十分釣り合ってると思いますっ!」
「蓮先生、授業を教えるのも上手いし! かっこいいし!」
「バ、バカ言えって……。俺が真白と釣り合ってるわけないだろ」
素っ気ない態度を見せる蓮だが、その頰は緩みに緩みっぱなしだった。お世辞でも、その『釣り合ってる』なんて言葉は一番嬉しいもの。教え子からそんな言葉をかけられるなんて思ってもいなかったのだ。
「行き過ぎた謙遜はイヤミですよー? 蓮せんせー!」
なんて、調子の良い教え子が言った瞬間だった。
『キーンコーンカーンコーン』
学園のチャイムが鳴り響く。
それは……朝課外終了チャイムでもあった……。
「え……? もうチャイム……って、お前らまさか……」
蓮は悟った。こいつらは朝課外を時間を少しでも短縮させるためにこんな話をさせたのだと……。
「いやぁ、蓮せんせーもノロケるんだねぇー」
「そりゃあノロケるだろー。相手はあの伝説の真白さんなんだから」
「俺も真白さんみたいな奥さんほしいなぁー」
「お前ら……あとで覚えとけよ……」
生徒達にからかわれ……根掘り葉掘りやられる展開になり……のろけさせられる。生徒の術中にハマった蓮は、恨めしい面様を作りながら教室を去っていった……。
だがしかし……、この連鎖はまだ終わってなどいなかった。
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