第12話 真白と可憐①
「お久しぶりー可憐っ! お祭りで会った時以来だね!」
「そうだねぇ、ましろん」
次の日、真白と幼馴染の可憐はいつもの場所。公園前で待ち合わせをしていた。
可憐は休日、真白はサキとサヤを幼稚園に連れて行った関係でこのような時間が出来たのだ。
「……ところでましろん。その元気は一体なんだい?」
「元気?」
「なんかいつも以上に元気が漲ってるし、顔が生き生きしてるってこと。……あぁーなるほど。さては、また蓮を襲ったでしょ?」
真白のことを詳しく知っている可憐は、一瞬の疑問が浮かんだ後に自己解決をさせる。そして……その自己解決は正解だった。
「そ、それはわたしの旦那さんなんだし、襲いもします……」
「なにその暴論……」
「ぼ、暴論じゃなくてちゃんとした常識の範囲だよっ!」
「それが常識だったら、子どもさんがいっぱい増えそうだねぇ。うち的には全然アリだけど」
可憐の仕事は保育士だ。子どもが増える分、やりがいも更に感じることだろう。
「それで、気になるのはいつ襲ったのかなんだけど。ましろんの元気からして最近のことでしょ?」
「え、えっと……昨日です」
「は?」
「昨日……シました。ウ、ウナギを食べた後に……」
両手を内ももに近付けて、もじもじとさせながら真白は大胆な告白をする。これは
幼馴染が相手だからこそ出来る会話でもある。
「ウナギって……何回戦までするつもりなのよ」
「8回戦くらい……」
「……」
「ほ、ほら……わたし、すぐにイっちゃうから……」
「…………」
可憐は思ったことだろう。『その情報は全く要らない』……と。その思いが無言を生む結果となる。
「そ、そこで無言にならないでよっ!!」
「ごめんごめん。たた、相変わらずだなぁ……って思っただけ」
「相変わらずとか言わないでっ! それじゃあ変態さんみたいになるから……」
「変態でしょ、ましろんは。男を上回るほどの性欲魔人なのに、よく清純派アイドルとして売って来れたもんだよ。ある意味詐欺じゃん」
「わ、わたしは好きな人と居る時にしか爆発しないの! だから変態さんじゃないっ!」
真白にとっての『変態の基準』が謎であるが、少なくとも『襲う』ことは変態のする行為じゃないと思ってるのは間違いないだろう。
「蓮も可哀想だねぇ、襲われた次の日に仕事だなんて。もちろん程々にしたんでしょうね?」
「……そ、それが、いっぱいしてしまいました」
「え……?」
「あ、朝まで……。わ、わたしが蓮くんを寝させなかったから……」
「ね、ねぇ……。もうそれ言葉を失うレベルなんだけど。家族のために働いてくれてる蓮になんの恨みがあるわけ?」
「う、恨みなんてないよっ! た、ただ一緒にいる時間を増やしたかっただけ……!」
1日のうちで、真白が蓮と関われる時間はほんの数時間と言うところだろう。
朝、蓮を仕事に送り出すまでの時間。お仕事が終わってから寝るまでの時間。
ただ、これにサキとサヤの世話と言うものもある。
妻より子どもを優先するのは当たり前の行動で、二人っきりの時間はとても貴重なものなのだ。
「その理由も分からないことはないけど、それで蓮に疲労を溜まらせたら意味ないでしょ……」
「そ、そうだけど……。蓮くんを寝てるところ見てると、もう止まらなくなって……。わ、悪いことだとは分かってるんだよっ!?」
「悪いと分かってるならやめる努力をしなさいよ……。ましろんは大人なんだから」
「め、滅相もありません……」
しょぼんと、肩を落とす真白だったが……次の瞬間、ガバッと顔を上げる。
そしてその口か出たのは反論だった。
「で、でも、わたしとの時間を作ってくれない蓮くんも悪いよっ! 蓮くんはわたしの旦那さんなんだから、わたしに構うのは当然のことなんだもん!」
「いやぁ、お仕事終わって子どもの世話して、ましろんに構う元気は残されてないんじゃない?」
「だ、だからわたしは何度も言ってるの……。『お仕事をやめて、その空いた時間をわたしに構ってください……』って」
真白はなんの計画も無しにこんなことを言ってるわけではない。
学生の時にアイドルとして稼いだお金があり、今ではインターネットで小物を作って売るという仕事もしている。
その売り上げは凄く、『アイドルの真白』この付加効果が効いているのだ。
結果、蓮が仕事をしなくともどうにか切り抜きは出来る……との思考を持ってたのだ。
「それでも蓮が仕事をしてるってことは、説得に失敗したってことだよね?」
「う、うん……。『絶対仕事するから。俺のメンツが立たない』って聞かなくて……」
「さっすが蓮だねぇ。うちなら即ヒモコースに入るところだけど」
「わたしにはそれだけが不満です……。わたしよりお仕事を取るんだもん……」
ヒモになる代わりに真白を構う。こんな条件を呑まない相手は蓮以外にいるだろうか……。いや、いないだろう。
ただ、夫としてのプライドが蓮にはあったのだ。
「なんで蓮の仕事に嫉妬してんのよ。……そんなんだからサキちゃんとサヤちゃんにあの行為を見られるんだよ。……お祭りの件は今でも引きずってるんだからね?」
「ご、ごめん……」
「まぁ、子どものことだからなにも言えないんだけど、そこら辺の教育はちゃんとしとかないと、後々やばいことになるかもよ?」
「や、やばいこと……?」
「そう、サキちゃんとサヤちゃんが蓮を襲うみたいな」
「え……。ええぇぇぇっ!?」
子どもの世話をして、子どもをたくさん目にしている可憐の説得力は、言葉では説明がつかないほどにある。
それも真剣な表情で警告する可憐に、真白は瞠目する他ない。
「だってそうでしょー? ただでさえましろんの血を半分引き継いでるんだし。そんなことが起こる可能性はあるでしょ」
「で、でもまだあの二人は小さいし、蓮くんの大きいのは入らないよ……」
何故かそこで下腹部を優しく撫でながら頰を染める真白。
「いや、そこで照れられても困るんだけど……。うちが言ってるのはサキちゃんとサヤちゃんが成長したあと、中学生とか高校生になった時とかの話」
「で、でも、その頃になったら反抗期が始まると思うから……」
「うん。反抗されるのはましろんだから」
「わ、わたし!?」
一般的に、女子の反抗期が始まれば父は毛嫌いされる傾向がある。だが、真白家の場合は違うと可憐は確信に近いものがあった。
「結局は全部予想でしかないんだけど、多分あの二人はずっと蓮にべったりだと思うよ」
「な、なんで……?」
「ましろんが一番知ってると思うけど、蓮の気遣いレベルはやばいでしょ? 我が子のことなら、それ以上の力を発揮するだろうし、その気遣いがあれば反抗する気なんて起きないと思うけど」
「……」
「そして、サキちゃんとサヤちゃんが蓮にべったりしてるところに嫉妬したましろんが、蓮を奪おうとする……そこに二人が反抗。こんな所かな」
流石は幼馴染と言うべきか、筋が通った話である。
真白の場合、サキとサヤが蓮にべったりした時点で嫉妬する。しかもまだ幼い歳である我が子に。
これが中学生、高校生になってもべったりしていたのなら、その嫉妬は凄まじいものになるだろう。
「……そ、そうなったら、ちゃんと対策するもん」
「どんな対策?」
「蓮くんをわたしの部屋に監禁です」
「ま、ましろん……? 怖いこと言うのはやめよっか」
真白の本気の目を見て、思わず冷や汗を流す可憐であった……。
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