第5話 番外⑤
「パパー、サキきれい?」
「サヤもきれい?」
「ああ、二人とも可愛いぞ。自信をもっていい」
「やったー! パパが可愛いだって!」
「わーい! わーい!」
サヤとサキはピンク色の浴衣を着込んおり、両手を上げながら喜びを示している。
そんな二人だが、初めて履く下駄に少し苦労している様子である。
「サヤとサキだけずるい……。わたしも居るのに……」
その後ろから現れたのは、黒の生地に真紅の花が入った浴衣を着込んだ真白。
真白の長髪には蓮がプレゼントした花飾りが付いている。
一年に一度しか見れない浴衣姿の真白。大人っぽさを滲み立たせた真白に、蓮の視線は自然と吸い寄せられた。
「わ、わたしには何も言ってくれないの……? 蓮くん」
「え、えっと……」
「ママかわいい!」
「かわいい……っ!」
その浴衣姿の真白に、サキとサヤも見惚れているようだった。
「サヤとサキはこう言ってくれるのに……。いっぱい時間かけたのに……」
「ごめん、見惚れてたんだ……」
小さな口を尖らせて大変拗ねた様子を見せる真白に、本心が流れ出る。そこに恥ずかしさはなかった。何故ならそれは、無意識に出た言葉でもあるのだから。
「わたしの機嫌を取ろうとしてる……?」
「いや、本当に綺麗だよ」
「ほ、ほほほほんとかな……」
「ああ、自慢したっていい」
「も、もぅ……。そ、そこまでは言わなくていいのに……っ!」
ようやくいつもの調子を取り戻した真白は、頰を赤く染めながら蓮にチラチラとし
た視線を送っている。
「ママがパパに落とされてる」
「ろうらくだー!」
「い、一体どこで籠絡なんて言葉を覚えてくるんだが……」
『肉壁』といい『籠絡』といい、サヤの情報網が気になるところである。
「そ、その……。蓮くんも浴衣似合ってて、カッコいいよ……。わたしの自慢の夫です……」
「あ……お、おう。さ、さんきゅーな」
「あぁ、パパもママに落とされたー!」
「ぱぱ弱ーい」
「う、うるさい!」
そんなことがありながら、蓮たち家族は大通りのお祭りに足を運ぶ。
「お、おい……すげぇ家族来たぞ……」
「え、あれ人妻!? 若すぎだろ……可愛すぎだろ……」
「やべぇな……。あんな相手と夜シてんのか……。羨ましすぎなんだが……」
「あの子どもたちも将来美人になるだろうな……」
「まったく、ロリは最高だぜ!!」
そんな会話をされていることに気付くわけもなく……蓮たち家族は大通りにならぶ屋台を巡っていく。
「パパー! りんごアメがあるよー! 食べたーい!」
「ぶどうアメもあるよー!」
「何個食べたいんだ?」
「7個ー!」
「8個ー!」
「いや、多いだろそれ。って、今売り場に出てる商品全部買おうとしてるのかよ……」
屋台に対して容赦ない攻撃を加えようとするサヤとサキ。10を超えるアメを手に持てるはずもなく、食い意地が張ってあるのは見ている側も面白いものである。
「サヤ、サキ。他の食べ物が入らなくなるから一つずつでいいよね?」
「じゃあそうするー!」
「うんっ!」
こんなところに関しては、嫁である真白の方が一枚
そうして、サキは小さいサイズのりんごアメを。サヤはぶどうアメを買ってその屋台を後にする。
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「りんごアメ、サービスしてくれるなんて思わなかったなぁ〜。あの店主さん、優しいねっ」
『ペロッ』と、サービスしてくれたりんごアメを舐めながら微笑みを浮かべる真白。その光景はなんとも似合っているが、蓮にとってはそれどころではない。
『奥さん可愛いねぇ! はいこれサービス!』と言われ、店主から真白の分のりんごアメを無料で貰ったあの光景が脳裏に焼き付いているのだから。
「俺には真白を狙ってるようにしか感じなかった。俺に視線を合わして来なかったし」
「パパがしっとしてるー!」
「かわいいー!」
「バ、バカ……。そんなんじゃねぇし」
一番愛する相手を取られたくないのは誰だって同じ。嫉妬するのも不安になるのも、当たり前のこと。
「蓮くんはなんだかんだで嫉妬深いもんねー?」
「真白にだけは言われたくないんだが……。でも、まぁあれだ……」
「ん?」
「俺から離れないでくれ。……お願いだからさ」
「蓮くんこそ……。離れたら許さないんだから……」
互いに視線を絡め合わせる二人。良い雰囲気になったことはサヤとサキには分かること。
「キスするのー?」
「おうまさーーっ!?」
「ーーッ!!」
あの禁句言葉を発しようとするサヤの口を塞ぐ蓮。その速度はまさに光の速さだった。
「言っただろー!? お馬さんって絶対言うなって!」
「あはは、パパ面白ーい!」
「ひっしだー!」
お祭りという公然の場で、子どもにこんな発言をさせるわけにはいかない。どこに誰の知り合いが居るのかなんて分かるはずもないのだから。
ーーと、その時だった。
「あぁーーー!? 蓮せんせーだぁ!!」
「えっ!? マジ!? どこどこ……」
「浴衣、浴衣着てる……! かっこいい……」
正面から浴衣を着た三人の女子高生が、手を振りながらこちらに歩み寄ってくる。
「おぉ。こんなとこで会うなんて久しぶりだな。夏休みの課題はちゃんと進んでるか?」
「ぜんぜーん! まだ何にもしてないです!」
「って、マジの蓮先生じゃん! しかも浴衣姿だし……」
「良い……凄くいい……」
蓮が先生と呼ばれる
その教師としての蓮の人気は爆発的なものだが……その人気に本人は全く気付いていないのが現状である。
「蓮くん……。こちらの方々は蓮くんの生徒さん?」
「ああ、とくに一番元気の良いこいつが俺の迷惑しかかけない奴でな……」
失礼なことだと分かりながらも、真白に教えるように開幕声を掛けて来た生徒に指をさす蓮。
「ひどくないそれー! って、こちらの女性……蓮せんせーの奥さんですか!?」
「マジ!? じゃあこっちは蓮先生の子どもさん!?」
「子どもさんもかわいい……」
三人の教え子の視線が上下し、真白とその我が子であるサキ、サヤに向く。
「初めまして、二条城 真白です。いつも旦那がお世話になってます」
「いやいや、お世話してるのは俺の方だからな……」
「え……。ま、真白…………サン?」
「マシロサン……」
「うそ……」
その名前を聞いた瞬間、三人の身体が瞬間冷凍されたかのように固まった。
「え、えと……。し、失礼ですが真白さんって……昔、アイドルだったとかないですか……ね!?」
「そ、そのアイドルさんが出たテレビの視聴率は平均25%っていう伝説の数字を叩き出した……とか」
「そ、それなのに……電撃引退して……」
「えへへ……。アイドルだった頃のわたしを覚えてくれている方がいたんですね……。これは恥ずかしいです……」
「あぁあああ!? 握手してくださいっ! 真白さんっ!!」
「ど、道理でマジオーラ放ってると思ってたんですっ!」
「す、すごい……。すごいや……」
目の前に財宝があるかの如く瞳を輝かせて、騒ぎ立てる三人を見てサキとサヤは当然の疑問を浮かべる。
「パパー。ママってすごい人なの?」
「そうなのー?」
「何度もそう言ってるだろ? サヤとサキのママは凄い人なんだ。今度こっそり録ってあるビデオを見せてあげるからな」
真白がアイドルだった頃のCDは『恥ずかしい』という理由から本人によって全て没収された。しかし、それは真白がそう勘違いしているだけ。
実際には没収されていないCDが蓮の手によって残っているのだ。嫁がテレビで活躍した姿は絶対に残しておきたい、そんな気持ちになるのは当然である。
「ってことは……電撃引退してすぐに一般人の人と結婚したその相手って……」
「まっかさ……」
「せ、先生……なんですか!?」
「うん……っ。そうなります」
「やばぁあああい! ニュースじゃん! これニュースじゃん!!」
「これ、学校のみんなに報告なんだけど! 新聞出せるレベルなんだけど!!」
現在の授業を教えてもらっている教師が、大人気だったアイドルと結婚しているなんて情報を知れば、そう驚くのも無理はない。
「あ、あの……。真白さんと先生の出会いを……聞いてもいいですか?」
「おいおい、それ以上は聞かないでくれ」
「パパはだまる!」
「サヤも聞きたいー!」
「……マジか」
まさかの我が子からストップをかけられる蓮。その驚きに教え子の口調が移る。
「え、えっと……。蓮くんとの出会いは、VRMMOっていうゲームが最初なんです……」
そうして、真白は一から順を追ってに話し出した……。その会話を興味深そうに聞く三人の教え子と、サキとサヤ。
どうやって付き合ったのか。いつ結婚をしようと思ったのか。……そして、運命を繋いだそのゲームは子どもが出来た後にやめてしまったことなど、隠すことなく話す真白。
最後に真白は、『蓮くんは絶対に離しません……』と締め、『わぁぁ』と甘い声を漏らす五人。
そんな五人は、恥ずかしそうに顔を背ける蓮に、ニヤニヤとした表情を向けてくるのであった。
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