4 - 7 6人目のパイロット
「やったあああああ!」
声に出して喜ぶ大学生。
「(良かった……)」
心の中でホッとする中学生。
場所と時間は違えど、ここに安堵する二人が居た。
◇◇◇
「全員赤点なし、おめでとうございます」
そう言うとさくらは部室に備え付けてあるティーカップを自分で取り出し、ポットに入っている紅茶を注いだ。そのまま学生の分までやろうとしたところを霞が慌てて交代する。
紅茶を飲みながら雑談をする6人。3週間近くBSSにログインできていなかった亜美たちはBSSについて、とりわけWorld Ace Championshipについての話で盛り上がっていた。
「WACまでにはしっかり勘を取り戻さないとね〜」
「私も早く飛びたいな」
「そういや、WACって6人まで参加できたよな? あと一人部員勧誘できれば良いんだが」
「知り合いでゲーム好きな子はいないですね……」
「私も知らない……です」
相変わらず敬語に慣れない未来だが、亜美たちは全く気にしてないどころか敬語を使わなくていいといつも言っていた。しかし未来はなぜか敬語を使い続けようと頑張っている。美穂には使ってないんだけどなぁ……と亜美は不思議がっていたが、何らかの理由があるのだろう。
「それと、名前は忘れちゃったけどどっかのゲームとコラボしてたよね」
「なんて名前だっけ? 一回見たんだけど忘れちった」
霞と亜美がそのコラボゲームの名前を思い出そうと唸っていると、さくらが口を挟んできた。
「Ghost Bullet、ですよね?」
「そうそう! たしかそんな感じの……ってあれ?」
「先生ってBSSやってたんですか?」
「本当ですか!? 意外です!」
「先生がBSSを……」
「もし本当なら面白いことだな」
「うぅぅ……」
しまった……と頭に手をついてうなだれるさくら。学生と話を合わせるため〜だとか知り合いがそのゲームで遊んでるから〜だとか言えばまだバレなかっただろう。しかし黙り込んでしまったため一瞬で亜美達は確信してしまったのだ。”先生もBSSをやっていた”と。
「なんだ〜早く言ってくれれば良かったのに〜」
「亜美ちゃん、先生がやってたって一緒に遊ぶわけ無いじゃん」
「え〜一緒に遊んだほうが楽しいと思うんだけどなぁ」
「……」
「せ、先生?」
「……あーもういいです! そうだ、最近『ゲーム部って本当にゲームしてるんですか? いつ部室の前を通っても声すら聞こえないんですが』なんて言われちゃったから、監視をすることにしました! これからは定期的にちゃんと”ゲームしてるか”監視させていただくので、そこのところよろしくお願いしますね?」
「え、えーっと」
「分かりました……」
「先生が壊れた?」
「こら未来、そんな事言わないの」
「……面白くなってきたな」
そう言うとさくらはそそくさと部屋を出ていった。すぐに顔を寄せ合って作戦会議が始まる。
「どうするよさくら先生監視するって言ってたけど」
「監視って言ってもね……遊んでる時の監視ってどうするんだろう?」
「どうするも何も一緒にダイブして観戦モードで見てるんじゃないか? てか監視って言っておきながら一緒に遊びたいだけだと思うんだが」
「でもそれだと対人戦の時は見れないですね……」
「あれは練習場とかオフライン対戦のときしか使えないからね。一緒に遊びたいなら小隊に入るのかな?」
「と、とりあえずベッド用意しておく?」
亜美が用務員にベッドを追加で一個持ってきてもらうよう連絡したその時、勢いよくドアが開いた。
「あれ、さくら先生……ってそれ!?」
「持ってきちゃいましたね……」
「ええ、これがないと”監視”ができませんからね」
「あくまでも監視なんだな」
「そのようですね」
「先生と一緒に飛びたいな〜」
さくらの腕にはDDの箱が抱えられていた。その箱を亜美達のDDが置かれている所に置くと、ちょうど用務員さんが来てベッドを届けてくれた。
「あら、私のために? ありがとうございます」
「いえいえ、先生が一緒にBSSをやってくれるなんて嬉しいです」
「あくまで”監視”ですから、一緒に遊ぶわけでは――」
「まぁまぁ先生、とりあえず一度やってみませんか?」
「ようこそ、我が<<トキワ>>分隊へ!」
そして、各自ベッドに横になりダイブしていく。
「なかなか手慣れていますね」
「先生だってFPSとかやってるんですよね? BSSもかなり上手だったり!」
「そんな事はないですよ……」
そしてさくらもダイブした。
◇◇◇
「はぁ……成り行きでこんな事態になってしまいましたが大丈夫なんでしょうか?」
DDのホームでうなだれるさくら。目の前にパーティー招待のアイコンが出てくると、いつもフレンドと一緒に遊んでいる時の癖ですぐに承認を押してしまった。
「うぉっ早い! よし、これで全員パーティーに入ったよ!」
そのままBSSを起動する。さくらは小隊に”監視の為”入隊し、初期設定を終わらせる。既に家で遊んでいるためスムーズに設定は終わった。
「よし、じゃあまずは一戦」
そう言うが早く、祐希は”分隊戦”を押した。
「えっあの! 私は一緒に戦うとは――」
さくらの必死なアピールはローディング画面に遮られてしまった。
「(どうしましょう……)」
さくらは機種選択の場所で考え込んでしまった。このままで良いのか、これでは一緒に遊んでいるだけではないのか?
「(いえ、これは”監視”ですから)」
何にも関係ない対戦相手を待たせてはいけない、そう思ったさくらは家で遊んでいる時の愛機であるNS-57を選択した。
「おお、NS-57とはまたマニアックな機体ですね」
「そういう鹿嶋さんは初期機体のNS-7なんですね」
「この機体が一番しっくり来るんです」
すぐに場面は大空へと変わる。眼下には雲海が広がり、太陽はそろそろ沈むかのように低い位置にいた。夜に比べたらマシだがかなり視界が悪い。こういう時レーダーに映りにくい性質をもつ未来のNF-35はかなり有利だ。そしてさくらのNS-57も同じようにステルスタイプなので、有利に戦えるだろう。
「先生、俺達トキワ隊は俺がリーダーで指示を出しています」
「ああ大丈夫ですよ、守谷さん。守谷さんの指示に従えば良いんですね?」
「ありがとうございます。よろしくおねがいします」
そんなやり取りをしていると、一人先行していた未来から無線が飛んできた。
「敵編隊確認。そちらから120km先。まだ良く見えないけど、レーダーでは6機編成」
「未来、こちら祐希。そのまま上昇して監視を続けて。もし中距離ミサイルを撃ってくるようだったら逃げつつ後方まで下がっていいよ。アウト」
無線通信は適当にそれっぽく喋っているだけで、簡単な決めごとしかしていない。相手の名前、自分の名前、要件、返事の有無を順番に言うだけ。返事が欲しかったらオーバー、返事がいらない場合はアウトと返す事にしている。これは英語と言うらしいけど、英語を使う国は多くない。昔は公用語として皆使ってたみたいだけどね。今は公用語と言うと日本語がほとんど。
この日本ってのは武蔵に伝わる神話世界にある国名、なんだけど……古文は苦手なんだ。かすみんは得意みたいだから後で聞いてみるね。
NF-35はデータリンクに長けているので、こうやって少し高いところから敵機の位置を送ることで擬似的な
「さくら先生、こちら祐希。これから空中戦に入りますが、俺達の後ろ側で撃ち漏らした敵にミサイルを撃ってください。続いて他の皆。プランCで行くよ。」
「「「「「了解」」」」」
「(プランCとは何なんでしょう…?)」
さくらはそう思いながらも言われたとおり少し後ろ側に位置する。
「こちら未来。敵の編隊を視認。NF-0が6機。そちらから距離50km、かなり散開しています、オーバー」
「未来、こちら祐希。レーダーでも把握した。そのまま右側から大回りして敵の後ろ側につけ。高度は維持。アウト」
「……それじゃ、さくら先生にいつもの俺達を見せてあげよう。ブレイク!」
そう言うとそのまま2機1組になって敵に襲いかかった。先制ミサイルを撃たせて、それをチャフとフレアで撒き、サッチ・ウィーブで1機ずつ落としていく。そんな様子を眺めていると、
「そっち行った! さくら先生お願いします!」
いきなり敵がこちらに腹を見せて旋回してきた。忙しくて周りを良く見ていなかったのか、こちらには気付いていないようだ。
「さくら、FOX2!」
そう言うと同時に銃を構えてトリガーを引く。既に外すことはない距離なので2発。ミサイルは順調に飛んでいき、いきなり現れたミサイルにまともな回避機動も取れなかった哀れな敵戦闘機は撃墜された。
「Splash One!」
思わず叫んでしまったが、まあ戦闘中ですので。先生とか今は関係ありません。開き直ってるわけではないですよ?
「おお〜やるねさくら先生!」
「流石です」
「綺麗な撃墜でしたね」
なんだか褒められて嬉しい。いや学生に褒められるっておかしい気がしますけど。
結局そのままポンポンと落としていって被撃墜0で終了。
「いや〜さくら先生いつの間にそんなに上手くなってたんですか? もしかして私達が始める前からやってたとか……」
「いえ、買ったのは12月です」
「……もしかして、駅前の電気屋ですか?」
「バレてたんですね……」
「まあ、これで晴れてさくら先生は我らが<<トキワ隊>>の一員だ。そういや美穂と未来の入隊祝いもやってなかったし、これからやるか」
祐希がそう提案するので、DDからログアウトしてノリノリでパーティーの準備を始める。ポカンと見てるだけのさくらだったが、亜美に呼ばれて席につくと、美味しそうなクッキーが机に並んでいた。
「いつも思っていますが、ここはゲーム部ですよね? 来るたびお菓子を頂いてる気がするのですが……」
「美穂がお菓子作りが好きで作ってくれてるんですよ!」
それは知らなかったですね。でもお店に出しても大丈夫なくらい美味しいです。
そして、そのまま流れに流されて一緒にパーティーをしてしまうさくらだった。
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