4 - 2 はじめてのミサイル
言われるがままに目を閉じたら一気に意識が薄くなって、いつの間にか真っ暗な空間に一人浮かんでいた。無重力を経験したことはないけど、多分無重力ってこんな感じなんだろうな。
目の前には十数個のアイコン。どれどれ、どんなゲームが入ってるかな?
どれも美穂には分からない物だったが、アイコンを操作する感覚が新鮮でそれだけでとても楽しかった。
すると、亜美から送られてきたパーティー招待のアイコンがぽんと出てきた。承認を押すと、周りにゲーム部の皆が現れる。最近知った共同ロビー機能のおかげで、
「自分のアバターは後で時間がある時に作ろうね」
「よっし! まずはフリーモードで飛んでみよう!」
「そうだな。とりあえず空を飛んで、BSSの楽しさを知ってほしい」
そう言うと、3人はBSSを選択してロビーから居なくなった。美穂は未来と向き合って、苦笑いしながらBSSを選択するのだった。
◇◇◇
『機体を選択してください』
霞先輩に言われたように初期機体であるNF-7を選択し、武装も初期のままで完了を押した。
『僚機の選択が終わりました』
「よし、とりあえず始まったら俺が飛び方を教える。亜美と霞は二人で1vs1の練習をしてていいよ」
「あいよん! 二人は任せた!」
「部長の存在意義が薄れていく……」
そんなやり取りを聞いていると、いきなり周りの景色が真っ青に変わっていた。ところどころに雲がある。美穂は既に大空の上にいた。
「きれい……!」
未来が感嘆をこぼす。360度どこを見ても青い景色が広がっている。真下は海のようだ。
『聞こえてるか?』
祐希先輩と思われる声が聞こえてくる。返事をすると、操縦の方法を分かりやすく教えてくれた。
『基本は”意識”だ。前に進みたい、右に旋回したい、上昇したい。そう”思う”だけで操縦は自動でやってくれる。ただ、最初は意識も大変だろうから、体を使ってもいい。鳥のように飛ぶこともできる』
つまり、両手を広げて前に傾くと前進してくれるらしい。右に傾けば自然と右旋回になるのだ。実際、そっちのほうが直感的に操縦できて楽だった。美穂はしばらく大空を好きに飛び回り、操縦を楽しんでいた。旋回は想像以上にゆっくりだったが、それでも初めての空はとても新鮮で、綺麗で、そして広かった。
――すると、いきなり目の前に戦闘機が現れた。
『あぶない、それぞれ左側に避けろ! ブレイク!』
言われるがままに、左の方へ大きく傾く。美穂はすんでのところで避けることができた。一気に傾いたのでロールする形となり、目の前の景色が一回転する。目が回るかと思いきやそんな事はなかった。すぐに姿勢を整えて真っ直ぐに飛ぶ。
『今のロールは良かったぞ。避ける時はそうやってロールすると良い』
「いや、今の当たってたら死んでますよね?」
『リアルだったらな。所詮これはゲームだ。ぶつかったら”リスポーン”するだけさ』
「だけ、って…」
『怖かったー! いきなり美穂が目の前に出てくるんだもん!』
『適当に飛び回ってたから仕方がない。よし、飛行訓練だ。俺の機体は見つけられるか? 真っ赤なやつだ』
美穂は周りに目をやると、真っ赤なNF-7が自分よりも低い位置を飛んでいるのが見えた。まるで通常の3倍の速さで飛べそうなその機体は、意外にゆっくりと飛んでいた。
『私を見つけたらついてこい。どこまでついてこれるかな?』
ふと、その赤い機体の後ろに目をやると、既に灰色の通常塗装のNF-7が追いかけ始めていた。間違いない、あれは未来だ。負けんとばかりに美穂は下に向かって急降下を始めた。
『よし、まずは基本の旋回と上昇、降下だ』
祐希はそう言うと、右旋回を始めた。その後ろに未来が、またその後ろに美穂が付く形で追いかける。
『いいぞいいぞ。それじゃあこっちだ!』
そう言うが早く、祐希は左旋回に切り替える。さっきまでの右旋回よりも旋回半径が短い。急な旋回に二人は少し離されるが、すぐに追いついた。
『なかなか付いてくるじゃないか。それじゃあ、お次は高度を変えるとしようか』
そう言うと、祐希は少し大きめの島めがけて急降下していく。ぐんぐんと高度を落とし、そしてそのまま墜落……しなかった。かなり低いところを掠めるように飛び始める。
「凄い……! なんて上手さなの!?」
『これに付いて行けって言うの?』
二人は祐希の操縦に驚くばかり。だがこれは練習。墜ちてもまた復活するだけなので、二人はできる限り祐希と同じ高度で飛び始めた。と言っても祐希の高さまでは降りられていなかったが。そしてそのまま峡谷へと入っていく。祐希はバレルロールで半回転し、そのまま崖際にピッタリとくっついて飛んでいた。まるで重力が真横に働いているかのように。崖が地面のように。
『そうそう、その調子だ。上手いぞ』
流石に美穂たちはそんな事はできないので、少し高い所で水平飛行で追いかけていた。
「崖が真横に流れていく!」
『気持ちを楽に。大丈夫、君たちならできるさ』
「……はい!」
『亜美先輩達はどうしてるかな?』
『まだ上で格闘しているみたいだね。お、ミサイル撃った』
「なんでそんなに余裕なんですか……」
自分たちよりかなり危険な飛び方をしているのにかなり余裕がありそうな祐希に呆れる二人。すると、急に峡谷が狭くなっている場所が現れた。水平では通り抜けられそうにない。美穂は意を決して、祐希を真似して一瞬だけ90度にロールした。未来は先程からすでに祐希のマネをして90度で飛んでいる。
「わわ! ……今のは危なかった」
『美穂、大丈夫?』
「未来は大丈夫すぎるよ!」
ギリギリのところを越えて水平に戻った美穂に、少し余裕が出てきたのか未来が声をかける。すると、祐希が恐ろしいことを言い出した。
『ようし、お遊び用に洞窟があるから、飛び込んでみようか。心の準備は出来てるかい?』
「えええっ!?」
『……流石に厳しいかも』
『二人なら大丈夫だ。ほら行くぞ!』
二人の反応を軽く流しつつ、先陣を切って飛び込む祐希。これも練習だと言い聞かせ、二人も飛び込む。ここでも祐希は地面スレスレに飛んだり、今度は180度回転して天井に張り付いたり、一回転ロールをしたりと大暴れしていた。
『凄い! なんて飛び方なの!?』
「同じ飛行機だなんて信じられない……」
『凄い緊張感……神経が研ぎ澄まされていくみたい』
二人も祐希を追って必死に飛んでいる。洞窟も真っ直ぐではないので、操縦にかなりの技量が要求されていた。
「先輩はどうしてこんなに上手に飛べるの!?」
『年季の違い、ってやつさ、後輩!』
そう言いつつ洞窟を抜けた祐希は、ほっと安堵する二人に更に追い打ちをかける。
『さあ、次の洞窟だ!』
『また!? しかも真っ暗で先が全然見えなさそうなんだけど!?』
「暗くて距離感が掴みづらい……」
真っ暗で遠くがよく見えず、一瞬の判断ミスで即墜落と言う状況でも祐希はスレスレを飛び回っていた。
「あんな操縦、人間業じゃない……」
『おいおい、買いかぶりすぎだ』
『私達も祐希ちゃんと初めて飛んだ時にやらされたよね〜』
『そうだね〜あれは大変だったよ』
上でドッグファイトを繰り広げながら無線を聞いていた二人も美穂たちに同情していた。
『さすがだ。この一回のフライトでかなり成長してるな』
「光! やっと出口だ!」
『あの向こうはまばゆい空だ、目が眩まないようにな!』
そして、無事に洞窟を通り抜けた祐希に続いて……
『いやったあ!』
「やっと抜けた……」
『正直ここまでついてこれるとは思ってなかったぞ。じゃ、そろそろミサイルの発射訓練だ。二人とも初期装備は持ってきてるよな?』
神経を張り巡らせた飛行の直後にミサイルの発射訓練。祐希はかなりスパルタのようだ。
初期装備はNF-7の特徴とも言える中-長距離ミサイル。一度捉えれば打ちっぱなしができるし、途中までは母機からの誘導も可能だ。
しかし誰に撃つというのだろう? NPCは居ない設定にしているはずだし。
『あそこに私達のことは気にもせずに空戦している2機がいるな?』
祐希は右旋回をしつつ上昇し、先程から熱戦を繰り返す亜美と霞に機首を向けた。
「(嫌な予感がする……)」
その嫌な予感は見事的中した。
『あの二人に向かって撃ってみろ』
『えええー!』
「いやいや、撃っちゃって良いんですか?」
未来と美穂は驚く。再度祐希に確認するが、祐希は同じ答えを返すだけだ。
『遠慮するな。二人にはミサイルを撃たせることは言ってある。頑張って避けろとね』
『「ええ…」』
見事にハモりながらも、祐希が上空で熱戦を繰り広げる2機がよく見えるように前から後ろへと移ると、美穂と未来はミサイルシーカーをそれぞれ向けて発射体制を整える。
亜美たちは新しいミサイルアラートに気がついたのか、お互い二人と自分の間に相手を入れるような機動をしようとしていた。二人ともかなり上手く操縦していて、二人を同時に捉えられるタイミングがなかなか掴めない。
『片方だけでいい、撃ってみろ!』
「は、はい! ってどうやって撃つんですか〜!」
『撃とうと思ってもミサイルが出ません』
『ミサイルは”意識”と同時に撃つと不都合があるからな。そこだけは方法が違うんだ。二人とも、”銃”を意識してみろ』
銃を意識しろと言われても……
とりあえず、知っている銃と言えば映画によく出てくるレーザーガンぐらいだ。それをイメージしてみよう……っと!?
『すごい! 銃が出てきた!』
未来はすでに銃を出現させられたみたいだ。同時に私の前にも小さい銃が出てくる。見たことのない銃だけど、まあ普通にイメージするハンドガンとそう変わらない。
『狙いはだいたいでいい。ロックオンしたらその銃で撃て。一気に撃てる数は決まっているから乱発はできないぞ』
そう言うと、横に並んできた祐希はお手本とばかりにミサイルを一発亜美たちに向かって打ち込んだ。
『キタキタ! ほーらかすみんにプレゼントが来たよ!』
『私はもう大人だから、遠慮しておくね! 亜美ちゃんにあげるよ!』
二人はミサイルに対して死角になるように旋回を繰り返す。結局、霞のチャフにまかれてミサイルは空中で爆発した。
『ほら、二人の番だ』
ミサイルを打ち込んだ祐希はそのまま美穂たちの後ろへ回り、二人の様子を見ていた。
二人は覚悟を決めて亜美たちに向けて銃を構える。
「本当に当たるのかなぁ…」
『まずは撃ってみないとね』
隣を見やると、未来は二人の方にしっかり機首を向けていた。そしてその機体の下側からミサイルがガシャコン! と現れる。それと同時に――
『ふぉっくすりー!』
未来の元気な声と共にミサイルが発射された。ミサイルは猛烈な勢いで2機に向かって飛んでいった。
『未来が撃ったのは短距離ミサイルだからFOX2が正しいんだけどな』
祐希は未来のミスを訂正しつつ、発射時に味方に警告する意味も含めてコールは重要だと説明した。今回はFOX2が正解なようだ。ミサイルはまた霞のチャフによって逸れてしまう。
美穂はもう一度前を見て、ドッグファイトを繰り広げる2機に狙いを定める。トリガーに指をかけると、ピ…ピ…ピ…とミサイルシーカーが敵を捉えようとしている音がなる。
“ピーーーーー”
「(捉えた!)」
後はトリガーを引くだけで、ミサイルは自分から敵の位置を探して追いかけてくれるはず。
「ふぉ、FOX2!」
そう言うと同時にトリガーを引く。思ったより軽い感触に驚き、ゴオオオオオと重い音に驚いた。ミサイルは自分の真下から前に飛んでいく。
『よし、二人とも撃ったな。それぞれ外側に向けてブレイクだ』
祐希は着弾まで待たずにブレイクの指示を出した。亜美たちは最初に比べてとても近くに来ていた。このままではぶつかってしまうだろう。
『うお、意外と近いよ! ってやっばあああああ!』
『待って! こんなの避けられ……わあああああ!』
律儀にも二人が撃つまで待っていてくれたため、撃つのに少し時間がかかった美穂のミサイルはかなり近い所で発射されていた。
ブレイクをしつつ上空を見ると、美穂のミサイルが急旋回で逃げている亜美の機体を追いかけていた。亜美もチャフを撒くが、ここまで近いとチャフには騙されずしっかり亜美の方を向いて飛んでいく。次第に近づくミサイルにハイGターンを繰り返して逃げる亜美だったが、負担がどんどん増えていき、最終的に左側の翼に当たった。
『お、当たった当たった。さすがだな』
『亜美ちゃん撃破〜』
『だめだったあああああああ』
撃破された亜美もリスポン前の出撃ロビーから悔しさのあまりボイスチャットを飛ばしてきた。後何回か回避していたらミサイルの射程の関係で逃げ切れていたそうだ。
『美穂、さすがだね』
「私は撃つまでちょっとためらっちゃったから、近くなっちゃってただけだよ」
『今の距離なら亜美でも避けられない。覚えておくと良い』
祐希はしっかりアドバイスを入れ、機首をこっちに向け――
『よし、次は逃げる練習だ』
ミサイルアラートが鳴り響くのであった。
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