第二章 学校
2 - 1 仲のいい二人
「かーすみん!」
「おはよう、亜美ちゃん」
「おーはよー!」
朝から元気だねぇ……眠気なんて言葉、亜美ちゃんの辞書には無いのかな? 私なんて未だに眠くて歩きながら寝ちゃいそうだよ。
朝、駅前で挨拶をかわすと一緒に学校へと向かう。お互いの両親がもともと仲がよく、幼稚園に入る前から一緒に遊び、小中高と同じ学校に行き、なんと大学まで同じ学校に行っているのだ。もうここまで来ると腐れ縁なんて言葉じゃ足りないって思う今日このごろ。
電車に揺られ、猛烈な眠気に襲われる。亜美ちゃんの肩に乗せるように頭をもたれかかせ、しばしの睡眠を堪能することにした。しばらくすると亜美ちゃんに肩を叩かれ、駅についたことを知る。温かい日差しと適度な揺れで完全に眠っていたようだ。まあいつものことなので気にはしていないけど。
校門では他にもたくさんの学生が自転車や歩きで登校していた。駅から徒歩で2分とかからない立地、そして郊外ならではの、周りには大きい大学がほぼ無いという環境で学生はとても多い。その学生の多さを物語る10階建て駐車場はここ
「亜美ちゃん〜ちょっと待って〜」
「早く行かないと席取られちゃうよ!」
「分かってるけどぉ〜」
亜美ちゃんはお構いなしにスタスタ歩いていく。時折後ろを振り返っては私を待っているが、待ちきれないのか追いつく前にまた歩き始めてしまっている。眠い目を擦りながら早足で追いかけるが、なぜか普通に歩いているだけの亜美ちゃんに追いつけない。小学生の頃から思ってたけど亜美ちゃんは歩くのがとっても速い。田舎ゆえの小学校までの長い登下校で猛烈に鍛え上げられているんだろうなぁ。私? 私は目の前が小学校だったから徒歩で1分もかからなかったよ。
ようやく亜美ちゃんに追いつき一緒に教室に入ると、まだ席はガラガラだった。いつもの場所を確保し、私は机に突っ伏して寝る体勢に入る。亜美ちゃんはというとスマホでお気に入りのゲームをやっているみたいだった。
腐れ縁コンビらしく、ずっとおしゃべりする訳でもなくお互いマイペースなのが私達の特徴だ。おしゃべりなんていつでもできるし。
始業のチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきて授業が始まる。亜美ちゃんに起こされて急いでタブレットを取り出し、授業の準備を始めた。と言っても電源をつけてノートアプリを起動するだけ。タッチペンを取り出して今日の資料をダウンロードしつつ、前回までの授業をざっと見返す。
「はーい出席取るよー」
初老といった感じのオジサン先生が順番に名前を読み上げる。この授業は1限なので朝に弱い学生がよく遅刻しているんだけど、この先生は遅刻にかなり甘い先生だった。私も一度遅刻して、お許しをもらっている。まあそれからは朝に強い亜美ちゃんと一緒に登校することにしてなんとか頑張ってるんだけど。おかげでその後は遅刻はしていない。
「大宮〜、大宮 霞〜」
「かすみん、呼ばれてるよ!」
「あっ、はい! 居ます!」
「しっかり起きろよ〜」
ハハハ……と頭の後ろをかきつつ返事をする私をよそに、出席確認は続いた。
「鹿嶋〜」
「ハイ!」
亜美ちゃんは相変わらず元気だ。その元気、半分ほしいな……
出席確認は続き、終わってから授業が始まる。一年生もまだ初め。科目は情報ネットワーク基礎、情報社会の基礎を学ぶ授業だ。昔は必須じゃなかったみたいだけど、この授業をやらないで昔の人達はどうやって端末操作とかネットワーク管理とかやってたんだろう? 少なくともインテルデバイスを扱うためには必須な知識が多いのに。
今日の単元は情報化社会の歴史。ノイマンっていう半分チートな人のおかげで情報社会の基礎ができたらしい。この人の頭には既にコンピュータでも入ってたんじゃないの? ってくらいやばい。その後パーソナルコンピュータ、所謂パソコンの時代、そしてノートパソコンの時代、タブレットの時代とどんどん小型化していき、最終的にメガネ型デバイスの時代になった。
この時代がかなり長く続いて、最終的にはスクリーンレンズ無しの網膜投影型まで発展した。既にタブレットの時代からあったみたいだけど、実用化まで数十年もかかってしまったのか。そして量子コンピュータの実用化がやっとできて、網膜投影型デバイスと量子コンピュータの共存時代。今はちょうどこの時代から新しい時代に移ろうとしている。そして次の時代のコンタクト型デバイスへと繋がるのだ。
ちなみにタブレットもメガネ型デバイスもまだ現役です。網膜投影型はコストが高いからね。
授業が終わり、次の授業の準備をしていると、亜美ちゃんがさっき書いたばかりのノートを見つめながら話し始めた。
「ふう……結局、今の網膜投影型デバイスが一番ラクでいいね」
「そうそう、早く欲しいな〜でも値段がなぁ〜」
「頑張ってバイトしないとね」
「バイトかぁ〜、部活も決めないとだし、やること多すぎるよぉ〜」
亜美ちゃんの一言で、まだ部活を決めていないことに気がつく。部活かぁ……
「またバドミントン部かな?」
「それでも良いけどね〜どうせなら他にも色々やってみたいじゃん?」
「サークル立ち上げも推奨してるって言ってたね」
「サークル立ち上げ……ハッ」
「あっ」
なんてこった。嫌な予感がするぞ。こういうときの予感はいつも当たるんだよ……
「ゲームサークルとかどう!? ねえ!」
案の定、予感的中。ゲームサークルって、そんなの……ねえ。
「認めてくれるかなぁ」
「まずは行動! やってから考える!」
「はいはい……」
亜美ちゃんの行動力が羨ましい。いつも思っていることだけど今日もまた感じた。
放課後、数学を担当している太田先生に相談し、サークル立ち上げのアドバイスを貰うことにした。
◇◇◇
「さくら先生! 『ゲームサークル』、どうでしょう!?」
「はいはい、『太田先生』って呼んでっていつも言ってるのに。それで、ゲームサークル? それは、えっと……ゲームをするサークル?」
「はい! みんなでゲームを楽しむサークルです!」
「具体的にはどんなゲーム? ボードゲーム? デバイスゲーム?」
「まだ決めてません!」
「あのぉ……大宮さんも同じくサークルを立ち上げようと?」
後ろで申し訳無さそうな顔で立っていた私に先生が助け舟を出してくれた。とりあえず既に決めてある内容は伝えないとね。
「はい。ゲームと言っても色々ありますが、様々なゲームを通じて学年やクラスの違う人と交流を図りたいと思っています」
「交流ねぇ」
「直流ではないですよ!」
「ギャグはいいですから。鹿嶋さんはすこし落ち着きましょう?」
サークルを立ち上げる話が上がってから亜美ちゃんはかなり興奮してやる気がMAXな状態だ。絶対にサークルを立ち上げてやると意気込む亜美ちゃんを見ていたらなんだか楽しそうに思えてきて、結局参加することにした私は、意気込みだけは凄い亜美ちゃんと一緒にサークル立ち上げの計画を立てることにしたのだった。参謀役はいつものことだけど、今回は亜美ちゃんもかなり考えていたみたいで色々と案が出てきて纏めるのに苦労した……。
私は亜美ちゃんと一緒に遊べればそれで良かったし、それに色んな人と知り合えるのは単純に楽しそうだったから嫌ではなかったけど。
「とりあえず、サークルとしての目的は大丈夫でしょう。サークルなら二人でもメンバーの人数としては大丈夫ですし、部活となると大変ですがサークルなら顧問をやってあげても構いません。もし部活にしたいなら他の先生に当たってくださいね」
「いやったぁ! これでサークル成立ぅ!」
「ありがとうございます、太田先生」
「それじゃあ資料渡しておくから、サークル長と副長の役割振りやっておいてね。二人のどちらかが会計を兼任して下さい。全部書けたら私のところに持ってきてくださいね」
「分かりました。ありがとうございます」
教員室を出た私達は早速資料を作成することにした。いつも思うけど亜美ちゃんの字はかなり綺麗だ。この前綺麗な字を書くコツを教えてとお願いしたら「綺麗な字を真似する」なんて言ってたっけ。できれば苦労しないっての。まあそれから意識して綺麗な字を真似するようにしてるんだけどね。
書き終わった資料を持っていって先生のハンコを貰い、その足で学生課に提出しに行った。新しく部活棟を作る時に3階建てにしてかなり多くの部屋を作ったらしく、すぐに一部屋を割り当てられて、鍵を預かった。これからはこの部屋が私達のサークル活動場所になるのだ。
私も性格に合わないけどかなりドキドキしてきた。学校の楽しみが純粋に一つ増えたし、これからの4年間を想像してしまった。むふふ、と笑みがこぼれてしまう。
「でもさ〜、本当に私がサークル長で良かったの?」
「言い出しっぺが部長やりなさいな、私は副長で十分」
「まあサークル長と言っても二人だけのサークルだしね〜」
「勧誘はしないの?」
「まあそれはぼちぼち。まずは色々サークルとして固めていかないとね」
「なんだ、ちゃんとサークル長してるじゃん」
「それは褒めているよね? よね?」
「はいはい、褒めてますよ〜」
「にしし〜」
亜美ちゃんはよくにししと笑う。今日もその笑顔は健在だった。
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