第四章 部活

4 - 1 新しいメンバー

 私には憧れの先輩がいる。

 頭が良くて、人に優しく、かっこいい。

 でも、いやだからと言ったほうが正確かもしれないけど、近寄りがたい雰囲気でなかなか話しかけられない。いつも実績を上げるたびに学校集会の前で表彰されている姿を見てはいつか話しかけるぞ、と思っている。


 でも最近気づいた。


「(思っているだけでは何も解決しない)」


 行動というアウトプットが無ければ結局はただの片思いだ。何かしら行動をしなくては。

 そんな折、昨日廊下でうわさ話を聞いた。


「――あの守谷先輩がゲームサークル? に入ったって本当なの?」

「――本当みたいだよ。この前ゲームサークルの部室に入っていったの見たもん」

「――守谷先輩がゲーム好きだなんて信じられないね」

「――友達がゲームサークルに居るだけかもよ?」

「――そうか、そうだよね」


 いい話を聞いた。これが本当ならチャンスだ。まずはゲームサークルについて調べてみよう。

 ……ふむふむ。太田先生が顧問で、メンバーが3人。全員大学生……ちょっと場違いかも。高校生の私がいきなり行って迷惑をかけちゃわないかな。


 そうだ、未来みらいを連れて行こう。未来はゲームが得意だったはずだし、中学生も連れていけば高校生が居たって空気にはならないはず。それに渋ったらお菓子でお願いするだけだ。


 ……よし、計画は整った。まずは未来を誘って太田先生に会いに行ってみよう。



◇◇◇



 いつの間にかとんとんと話が進んでた。ゲームし放題、しかもお菓子をくれるって言うから二つ返事でおっけーを出したけど、良く聞いてみるとちょー面倒くさいことじゃないか!

 結局おっけーって言った手前ここまで来てしまった。太田先生?の教員室の前に、わたしと美穂がいる。そもそも一切関わったことのない先生だし、ゲームサークルに知り合いいないし、自由に遊べる時間が減るのが気に食わない。でもおっけーって言っちゃったし……


 未来は律儀な性格だった。


「失礼します。太田先生、今はお時間大丈夫でしょうか?」

「こんにちは。大丈夫ですよ」

「私はさかい美穂みほと言います。附属高校の普通科2年です。今日はゲームサークルについてお話を伺いに来ました」

高萩たかはぎ未来みらいです。附属中2年です」


 一応、先生の前では丁寧に話さないといけない。でもめんどくさい! 早く帰りたい!


「ゲームサークル? はい、私が顧問ですよ」

「その……ゲームサークルに加入したいんです」

「あら、それは嬉しいわね。いつでも歓迎ですよ」


 実際はゲーム好きがバレたくないのであまり歓迎していないのだが、加入したいと言っている生徒の前でそれを言えるほどさくら先生は鬼ではなかった。


「本当ですか!?」

「ええ。それではこちらの紙に名前と所属を書いてちょうだい」


「(ん? 中学生の子……未来ちゃんって言ったかな? なんだかムスッとしてる。先輩に言われて連れてこられちゃったのかな?)」


 未来の表情に気付いたさくら先生だが、もし違かったら美穂に失礼だと思い様子見に徹することにした。二人が用紙に記入している間、じっと観察していると未来の方からその理由を明かしてくれた。


「その〜」

「なんでしょう? 未来さん」

「ゲームサークルってどんなゲームでも遊んで良いんですか?」

「えっと、賭け事や危険なゲームは禁止しています。普通のボードゲームとかデバイスゲームとかなら大丈夫ですよ」

「本当ですか!?」


 未来の顔がぱっと明るくなった。自分の好きなゲームで遊べることが分かったからか、ニコニコしながらササッと入部届を書き上げた。


「まだ立ち上がり1年目のサークルだからそこまでゲームは無いだろうけど、楽しんでくださいね」


 そう言いながら二人から加入届を貰ったさくら先生は、明日もう一度来てくださいと告げて二人を帰した。


「これで5人目ですね……」


 5人になればサークルの部屋も一回り大きい所に移動になるでしょう。そして顧問が見つかれば部活に昇格もできる。私が顧問をやるのはお断りだけど、誰かが顧問をやってくれて部活に昇格できればいいですね。


 コンコン。


「(今日は珍しくお客さんが多いですね)」


「どうぞ〜」

「しっつれいします!」

「失礼します。大宮です」


 お客さん……では無かったですね。まったくその元気はどこから溢れてくるのでしょう? 何だか最近鹿嶋さんの態度が柔らかくなってきている気がします。それとも最初からでしょうか?


「さっき、廊下でBSSBlue Sky Squadの話をしてたら高校生と中学生が話しかけてきて、ゲームサークルの方ですかって」

「そうですと答えたら今ゲームサークルの加入届を書いてきたと言っていたので詳しいお話を伺いたいと思って来ました」


 あら、帰る時にすれ違ったのね。なんていう偶然。


「ええ、ちょうどさっきその二人がきて加入したいとおっしゃっていたので加入届を書いてもらいました」

「それって、もしかしてメンバーが5人に!」

「亜美ちゃん、ストップストップ」


 霞が亜美の興奮を抑えさせる。しかし、亜美は依然興奮を抑えきれていないようだった。


「部活への昇格条件が満たせますよ! 先生!」

「まだ顧問の先生が居ないでしょう?」

「さくら先生! この通り、顧問を引き続き引き受けてくれませんか?」

「私からも、お願いしたいです」


 亜美に至っては椅子に座りながら土下座のマネをする始末だった。霞も亜美のようにとは言わないが頭を下げてお願いをしていた。


 ……これは困りました。でも顧問の仕事はかなり大変ですし、簡単には引き受けられません。でも、この二人がここまでやる気を出しているというのに面倒だというだけで断るのも心が痛みますね。


「仕方ありません。顧問を引き受けましょう。ただし条件があります」

「なんですか? できることなら何でもやります!」

「まず一つ目。毎週活動記録を書くこと」

「二つ目。”学校では”土曜日曜を含む祝休日は部活を行わず、放課後のみの活動とすること」

「三つ目。私の指示にすぐに従うこと」


 まずはこれくらいでいいでしょう。毎週提出する部活動活動記録を学生に書いてもらい、休日出勤となる土日の部活を禁止する。別にDDDream Dazeがあれば家でダイブしても問題なく活動はできる。わざわざ休日に学校に出向く必要も無いでしょう。家用のDDは……鹿嶋さん達が言ってきたら潮来さんに伝えるくらいはしてあげましょうか。


「分かりました! 大丈夫です、全部できます!」

「私と祐希でもしっかり対応します」


 はぁ……結局引き受けてしまいました。でもまあ私は活動記録に目を通して判子を押すだけで良さそうですね。それでは早速部活への昇格申請を作成しますか。



◇◇◇



 新しく大きくなった部屋。


「それでは新入部員さんを紹介します!」

「だいたい話は聞いているので十分だ」

「アッハイ」


 ベッドの上で、しっかり靴は脱いで仁王立ちしていた亜美はその場で体育座りになる。霞は美穂と未来を椅子に座らせ、お茶を出していた。二人は申し訳なさそうに縮こまるだけで、美穂は時折祐希の方をチラチラと見ていた。


「それで、この二人は経験者では無いんだよな?」

「そうみたい。でもまあ未来ちゃんはゲームが大好きみたいだからすぐに慣れちゃうんじゃない?」


 かなり適当な受け答えに祐希はため息をつくが、二人に振り向き


「まあ、ここはゲームをやる場所と言ってもほとんどBSSをやる場所みたいなもんだ。BSSのコツとかは俺と霞とそこにいるヘンテコ『部長』が教えてやるから安心しろ」

「そう! この『部長』に任せなさい!」


 えっへん、と一般平均に比べておしとやかな胸を張る亜美。念願の部活への昇格を達成し、晴れて『部長』になった亜美は新しい新入部員に心ときめいていた。


「BSSってそんなに面白い……ですか?」

「もちろん! 大空を駆け回る楽しさ、一回やったら止められない!」

「亜美ちゃん、それだと違法薬物みたいだよ」

「百聞は一見に如かず、だ。潮来さんに頼んで2つ分のDDも確保した」


 常陸の潮来さんに部員が増えたことを伝えると、大喜びで追加のDDを送ってくれた。私達三人のフィードバックもかなり有効に活用できているようで、今後ともよろしくとDD内で食べられるスイーツのプログラムをおまけで送ってくれたほど。お腹は一杯にならないが、味はかなり正確に表現されていてとても美味しかった。特に霞に至ってはダイエットしなくていいから今度からこっちでお茶会しようだなんて言い出す始末だ。


「私、フルダイブVRは初めてで……」

「み、私はネカフェでやったことある……あります」


 未来はまだ敬語に慣れておらず、時たま言い直す場面があった。美穂も未来にとっては一応先輩なのだが、どちらかと言うと仲のいい友達という関係なので敬語を使うことは殆ど無かったのだ。


 部室が大きくなったことによりベッドが更に増えて5つになっていた。

 それぞれ自由に寝た5人はフルダイブVRの世界へと飛び込んでいくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る