2 - 4 Blue Sky Squad

「おお?」


 私は真っ暗闇の中に浮いていた。別に水の中にいるわけではない。宇宙でもない。そう、ここはフルダイブVRの世界。

 自動で起動したDream Dazeは、私の意識を脳から体全体ではなく、デバイスへと接続していた。そしてここはDDDream Dazeのホーム。目の前には様々なアイコンが浮かんでいる。試しに自分の体を動かそうと両手を振り回してみた。するとこの世界の体もしっかり動き、感覚はリアルの世界と全く変わらないという事を身をもって教えてくれた。

 アイコンは、提示されていたゲームのものらしく、一覧のゲーム全てが既にインストールされているようだった。かなり太っ腹だな!


「えーっと、これかな?」


 私はまずはじめに、隣で一緒にダイブしているかすみんとリンクを確立させることにした。リンクを確立させれば、一緒に話したり、同じゲームで遊べるシステムになっている。すぐにかすみんからも返事が返って来て、リンクを確立することができた。


「お、そっちもできたみたいだね」

「全然リアルと変わらないね〜」

「そうだね、びっくり」


 ホームでFFullDDiveVRのチュートリアルが受けられるみたいで、かすみんと一緒にチュートリアルを受けてみた。内容はかなり凝っていて、走る、飛ぶ、投げるみたいな体力テストのようなものとか、体を動かさずに目線だけでだけで物体を追う練習、さらにはぐるぐると回転してすぐに走るといったものまであった。結構楽しい。

 どのテストを受けても、一切疲れることは無かったし、最後のテストに至っては目が回ることもなかった。逆に違和感がありすぎて最初は全く慣れなかったけど、次第に少しずつ慣れてきた。さて、お次は――


 PI PI PI ……

「えっ」

「あっ」


 時間を忘れてチュートリアルを遊んでいた私たちは、予め設定していたアラームでかなり時間が経っていたことに気がついた。もう下校の時間だ。残りは明日以降ということで、そそくさとデバイスをシャットダウンさせると、まるで朝起きるときのようにいつの間にかリアルの世界に意識が戻っていた。


「これ……」

「めっっっっっちゃ楽しいね!」


 かなり興奮しながら、FDVRについて語り合いつつ下校したのだった。



 ◇◇◇



 翌日。授業が終わり放課後。


「じゃあ、今日は例のゲームをやってみよう」

「Blue Sky Squad かぁ。青空の分隊、って意味だね」

「早く空飛んでみたい〜!」


 待ちきれない。昨日のチュートリアルだけでもう既にFDVRにドはまりしちゃってる。授業中からずっと興奮を抑えきれていなかった。対するかすみんも表面は冷静を繕ってはいたけど、あの顔は早くFDVRやりたいって顔だった。かすみんは昨日の夜、興奮して上手く寝付けなかったらしい。今朝も私がかなり苦労して起こした。今日はかすみんのお母さんから連絡があったから部屋まで乗り込んでやったぜ。


 私たちはまたDDをセットしつつ、部屋の準備をして、VR世界にダイブした。


「かすみーん」

「きこえてるよー亜美ちゃん」


 リンクを確立し、早速『Blue Sky Squad』を起動する。


『 TAKAHAGI GAME ENTERTAINMENT 』

『 PROJECT BSS 』


 目の前にカッコよく文字が現れては消えていく。普通のタブレットで見る映像とはかなり違う、四方八方から文字が飛んできて組み合わさっていく様は見ていて新鮮だ。

 初回はムービーが流れるようで、視界は一気に暗くなった。



 ◇◇◇



『 ――誰もが願った 』


『 “戦争なんて、やらなければいいのに” 』


『 “共に手を取り合えば、平和な世界に戻れるのに” 』


『 ――それでも、彼は戦う 』


『 ――憎むべき敵を倒すため? 』


『 ――否 』


『 ――神聖なる我が国のため? 』


『 ――否 』


『 ――家で帰りを待っている、愛する家族のため? 』


『 ――――否!!! 』


『 ――彼は戦う 』


『 ――一瞬で"全て"を失ったあの日 』


『 ――もう生きる意味など無いと 』


『 ――この世界の存在意義など無いと 』


『 ――全ての戦争に憎悪を抱き 』



『 “すべての戦争を” 』



『 “終わらせる” 』



 次々とシーンが変わり、主人公の背景を鮮明に映し出す。大国同士の戦争。祖国を守るため志願した主人公。しかし敵であろうと絶対に相手を殺さず、翼だけを射抜き、敵であろうとイジェクト脱出するまで守り抜き、そうやって敵を落とし続けた。

 敵からは『騎士道の悪魔』と恐れられ、味方からは賛否両論を受けていた。

 味方の過激派が、主人公の家族を人質にとってその"敵を生かす戦法"をやめるよう命令し、敵側のスパイがそれを救出した。しかし、過激派はそのスパイを殺すいいタイミングだと思ったのか、家族ごと爆撃を強行。主人公の愛する娘が、主人公を庇って、爆撃に……



『 ――神聖なる我が国を信じて 』


『 ――愛する家族のために戦って 』


『 ――たとえ敵であっても人として尊敬して 』



『 “今まで後悔したことは無かった” 』



『 ――全てにおいて、自分の決断は自分の意志によって行われた 』



『 “それがどうだ” 』



『 ――全てが 』


『 ――――全てが 』



『 “全てが泡のように消えていった” 』



『 ――もう守る国も、家族もいない 』


『 ――戦う意味が 』


『 ――見いだせない 』


『 ――何故自分だけが生き延びた? 』


『 ――その答えを知るために 』


『 ――彼は一人、空へ 』


『 ―― Blue Sky Squad ―― 』



 亜美はプロローグ映像だけで泣きかけていた。主人公不憫すぎない!? 味方居ないし! 一人で大国の二国相手に戦おうって……命なんて捨てているようなものじゃん。そんな覚悟……私には無理だ。

 涙までもがしっかり再現されている事に驚きつつ、目元を拭って続きを見ていた。



『 “よぉ、騎士道の悪魔さん” 』


『 “あんたの信念、見事なもんだ” 』


『 “俺も家族を失った。味方の誤爆だと言われていたがね” 』


『 “真相は違かった。スパイを疑われていたんだ” 』


『 “全くの無実さ。濡れ衣ってやつ。冤罪だよ” 』


『 “でも殺ったんだ。奴らは” 』


『 “もうこんな国なんてどうでもいい。あんたのその信念に付いて行くことにしたよ” 』



 えっ新しい人が来たよ。一人じゃないじゃん! やった! これで戦力二倍! この人はNPCなのかな?



『 ――COOPモード実装。フレンドと共に、空を駆けよう 』



 な、なんと! これはフレンドなのか! ってことはかすみんがこの人になって一緒に戦ってくれるのかな? かな? 楽しみ!



『 難易度を選択してください 』



「難易度って言ってもねぇ……こういうゲーム初めてだし、ノーマルでいいかな」

「亜美ちゃーん難易度何にしたー?」

「おーかすみん! ノーマルにしたよ!」

「じゃあ私もー! 一緒に遊べるみたいだね!」

「そだねー! じゃあとりあえず一戦、行ってみよー!」

「おー!」


 意気込み勇んでChapter 1に進む。機体は初期機体であるNF-7にした。元ネタはそのままNF-7で、2075年に武蔵国が開発、運用開始した機体だそうだ。第9-1世代戦闘機で、ステルスの時代に幕を閉じた機体とも言われてる、かぁ。あまり詳しくないけど後で調べてみるかな。

 特徴は機動性と電磁砲による近接攻撃。つまり避けまくって近づいてドーン! だね。対ミサイルにはホログラフィーカウンターで対応するのか。ってすご! ホログラフィックで自分の機体を映して自分は光学迷彩で消えるんだ! 光学迷彩は動くと機能がガクンと落ちるが短時間だったらマッハで動いていても対応できるらしい。へー。半分くらい分からないけどとにかく凄いんだな。これも後で調べよーっと。


『僚機の選択が終わりました』


「いくよかすみん!」

「がんばろうね、亜美ちゃん!」


 私とかすみんはお揃いの機体で空へと飛び立つのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る