第三章 分隊
3 - 1 対人戦
「あのさ〜」
「な〜に〜?」
「キャンペーンモード終わったじゃん?」
キャンペーンモードというのは、所謂ストーリーモードの事。今話しているのは
最後のシーンはお互いの目を憚らず号泣したっけ。あれは本当にすごかった。もう一度記憶を消して遊びたいゲームNo.1だよ絶対。
しかして私たちはキャンペーンモードをノーマルでクリアし、そしてエースレベル、つまり最高難易度でもクリアしたのだった。しっかり二回目のEDでも号泣した。
ストーリーモードを遊び終わったら別ののんびりしたゲームででも遊ぼうかと計画していたけど、空を自由に駆け回るBSSに見事にハマってしまいこの問題に直面することになる。
「もう敵が弱すぎるというか、NPCじゃ物足りない」
「分かる」
かすみんは分かり手だったか。
私たちはクーラーのよく効いた部屋でのんびり将棋を指していた。さくら先生に
「せっかく買ったんだから使いましょう!」
なんて言われちゃったから、仕方ないのだ。
あの超高級将棋駒と超高級将棋盤で将棋を指しているのに、盤上の戦いはかなり低級だった。
「はい、それ角が詰み」
「うっそん、見逃してくれるよね〜?」
「なわけw」
かすみんは将棋指すときだけ性格変わるよな〜と声には出さない気持ちを持ちつつ、必死に防戦する。角は取られちゃうけど、一緒に桂を捨てることで金と銀を頂くぜ。大駒と金駒の交換は意外と悪くないんだよ? 大駒プラス桂、だけどその桂は今はいらないし。
「桂馬貰っていいの? その美濃、一瞬で溶けるよ?」
あ。
「あー! 前にも同じミスした気が……」
「ここから15手詰めだね」
本当に容赦のない攻めに亜美は為す術無く、玉将を取られてしまった。
「やっぱかすみんには勝てっこないやい!」
「えー6枚落ちなんだけどなぁ……」
おっかしーなー。いつの間にか飛車が居なくなって、角が居なくなって、自陣に龍ができてるんだよね。多分どこかで2回連続で指してるんじゃないかな。
「そんな事無いから」
「なんにも言ってないよ!」
そうか。心が読めるから将棋が強いのか!
強引に納得した亜美は、元の議題に話を戻した。BSSの敵が弱すぎる件。まあNPCのレベルには限度があるのは分かるけど、それでも弱すぎる。敵全機機銃で倒せちゃうよ?
「となると対人戦になるかー」
「とりあえず一度やってみる?」
「そだね。まずはやってみる!」
そう言うと同時にベッドにダイブし、そのままDDでダイブした私は、かすみんと一緒にDuoモードで対人戦に挑むのだった。
◇◇◇
「弱すぎるーーー!」
「亜美が強すぎるだけじゃない……?」
「かすみんだって圧倒してたじゃん」
「それはまあ、そうだけど」
初戦。NPCよりも弱かった相手を開幕ミサイルではたき落とした私たちは、今の相手が弱かっただけだと思いすぐに次の相手と戦った。第二戦では初戦ほど弱い相手ではなかったにしろ、それでもNPCより弱かった。
これはおかしいと、その後5戦してみても、NPCより強いと感じた相手は1組だけだった。その相手ですら私たちには一撃も入れられず、一方的にボコるだけの試合だった。
「え、Duoって素人の巣窟?」
「それは流石に言いすぎだよ亜美ちゃん……」
「でも、初めて半年の私達にボコボコにされるって、このゲーム発売されて何年経ってるの?」
そう、このゲームは既に発売されて3年は経っている。相手は少なくとも私たちより長く遊んでいるはずだ。プレイヤーランクを見ても二人より低い相手は居なかった。
「そうだ。ちょっと待ってて」
かすみんはそう言うとDD内の情報端末で何かを調べ始めた。
――霞が調べていたのはBSSの攻略サイトだった。サイトを開くとすぐに難易度のページを開く。そこにはにわかに信じがたい内容が書かれていた。
『難易度選択のすゝめ』
『初心者はイージーで良いでしょう。イージーは時間回復があります』
『初心者の中でもFDVRゲームが得意な人や、過去に同じようなフライトシミュレーションゲームを経験したことがある人はノーマルが良いでしょう。時間回復はありませんが、数発のミサイルには耐えられます』
『既に1周以上プレイして、BSSに慣れた人はハードが良いでしょう。耐えられるのは最初の1発だけで、2発目を食らうとゲームオーバーのスリリングな戦闘を楽しめます』
『難易度エースは本当に上手な人だけにしておきましょう。ミサイルは一発でゲームオーバーなのは当然として、機銃にすら2発と耐えられません。許されるのはたった1発の機銃のみです。またエースのみ敵の機動力が変わります。プレイヤーの機体では到底敵わない旋回半径を何食わぬ顔でやってきます。これはもうチートです』
――この説明は、プレイしていた二人にとってかなり衝撃的なものだった。なんせ難易度エースレベルにしてからも一発も攻撃を受けなかったため、自機の脆さに気づかなかったのである。また旋回半径の差は戦術でカバーしてしまっていた。
「え、これって……」
「難易度エースってそんなに難しかったんだね」
「えーあれが〜?」
――余裕でクリアしてしまったのでかなり訝しんでいる二人。実際はこの半年でかなり急成長しているだけで、Duoの敵が弱いわけでは無い。当たり前だが当の二人はそんな事に気づく余地もない。さらに霞は説明を読み進める。
「Duoは機体相性などの運要素も大きいため、負けたときは運が悪かったと諦めましょう」
「運って……」
「実力がはっきりと出るのは分隊戦です。最大6人で戦う分隊戦は、機体相性も戦術でカバーできます」
「ほうほう」
「分隊戦では毎年World Ace Championship、略称WACが開催され、プロゲーマーはその大会に向けて日々練習を重ねている……と」
分隊戦。最大6人で分隊を組み、相手と戦うモード。雲や建物を上手く使って戦術的な戦いが可能な対人戦で、BSSのマルチプレイと言ったらこちらがメインらしい。WACは世界規模のBSS分隊戦の大会で、毎年数十万人の観戦者が注目する中で合計賞金3億円を狙いしのぎを削るプロゲーマー集団を見ることができるんだって。私もそこで買ってお金欲しいな。好きなだけクレープ食べられるじゃん。
とりあえずこの分隊戦なら強い相手と戦えそうだ。まずは分隊を組むところからかな? と、そのまえにまずは分隊について知らなければね。どれどれ……
『分隊は3人から6人で構成される』
なんてこった。いきなり詰んだよ。一手詰めだよ。二人だと分隊が組めない? それじゃあ少なくともあと一人、メンバーが必要ってことになるのか。立ち上がりから半年が経った今でもメンバーは私とかすみんの二人だけだし、他にBSSをやっている友だちは知らない。てかゲーム大好きな友達がまずいない。ここに来てメンバーを勧誘しないといけなくなってしまった。
「とりあえずさくら先生に相談してみよう」
「だねだね」
私たちはメンバーの勧誘について相談をするために、さくら先生の教員室へ向かった。さくら先生は部屋でのんびりとコーヒーを飲んでいたので、すぐに話に入ることができた。
「もう……せっかく休憩していたのに〜」
「まあまあさくら先生」
「だから太田先生だと何度言ったら……」
「さくら先生、そろそろ私達もゲームサークルのメンバーを勧誘しようと思うんです」
かすみんまでもがさくら先生呼びになってるし。
――霞の脳内では既にそう呼ばれていたことを二人は知る由もない
さくら先生はと言うと既に諦観してるようだ。そしてサークルメンバーの勧誘についてはあまり乗り気では無さそうだ。自分のゲーム好きを知っている人をこれ以上増やしたくないとか考えてるんだろうな。バレたって悪いことは無いと思うんだけどね。
でもここで諦める私ではない。さくら先生にタブレットでWACについて説明して、ゲームサークルとしてこの大会に出ることを目標にして練習をしていきたい、そのためにメンバーがもっと必要であることを訴えた。かすみんも私の説明に時折補足をはさんでくれた。
さくら先生が納得してくれないと、
すると、さくら先生の教員室のドアが不意にノックされた。
「失礼します。太田先生はいらっしゃいますか」
そこにいたのは、一人の女学生だった。
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