3 - 3 祐希の実力
「守谷さん?」
さくら先生がすこし不思議そうな目でドアから入ってきた守谷と呼ばれた女学生を見た。私たちが話していたのに、急用でもあったのかな?
私たちも同じく振り返ってドアの方を見る。ごく普通の学生、同性で同学年。でも全く面識はないし、私たちには関係ないかな。とにかく今はメンバー勧誘の許可を貰わなければならないのだ。
――しかし、守谷の次の言葉に亜美と霞は再度振り返ることになる。
「ゲームサークルの二人ってあなた達?」
「……え? あ、はい。そうです」
えっ私たちに用があるの? 全く知らない人なんですけど……もしかして忘れてるだけ?
「ゲームサークルに入りたいの」
えっ?
「えええー!」
「いやった!」
「……」
驚く霞とガッツポーズを決める亜美と黙り込むさくら先生を横目に、守谷は続けた。
「さっきちらっとBSSの話題が聞こえた。あなた達はBSSをやっているのか?」
あ、この人、口調がちょっと崩れてる。
どうでもいいことに気がつく亜美だったが、霞が守谷の質問にしっかりと答える。
「はい。やっています」
「それなら話は早い。俺もゲームサークルに入らせてもらう」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!?」
さくら先生が二人の会話を遮って守谷に問いかけた。しばらく三人で守谷の話を聞いていると、フルダイブVRが趣味らしいという事は分かった。さくら先生はポロッと一言
「意外……」
とだけつぶやいていた。
ボケっとしているさくら先生は置いておいて、亜美たちは守谷と呼ばれた女学生に質問をする。
「守谷さん、ですよね? えーっと、学年は……」
「1年だ。君たちと同じだよ」
「そ、そっかー! 良かった〜」
お互い同級生だということが分かれば、話も弾んでくるというもの。三人はBSSで好きな戦闘機の話やキャンペーンの話で盛り上がっていた。やれNF-10は
「そういうことで、加入希望者がこうやって居ることですし、予備だったDDをいただけませんか?」
「そういうことならまぁ……」
しぶしぶ、といった感じで奥に仕舞ってあったDDを持ってくるさくら先生。
「えーと、どこ科なの?」
「ソーシャルアドバンスドテクノロジー科だ」
「え゛」
「エリートの中のエリートですね」
「頭の良さなんて測りにすらならんよ」
「ほえ〜……」
DDを受け取りつつ守谷の加入届をその場で書き、三人はさくら先生の教員室を出て部室へと向かうのだった。
◇◇◇
三人は部室へ向かう途中でお互いに自己紹介し、BSSの件で話が盛り上がったからか既に名前でお互いに呼び合うほど仲良くなっていた。
「祐希はさ、BSSどれくらいやってるの?」
「発売と同時に買ってそこから二年半。大学入学と同時に一度やめてもう半年になるね」
「おお、これは期待の新人だぁ」
「祐希さんのベッドがまだないから、まずはベッド運びからね」
またまた用務員さんにベッドを運んでもらい、新しいメンバーを迎えて少しの間お茶会を楽しんだ三人。お菓子を食べ終えるとすぐにBSSをやろうということになった。
「お手並み拝見といったところかな〜」
オンラインで敵をバッタバッタと倒していた亜美はかなり自信満々だ。祐希はその様子を見て亜美にある提案をした。
「もし1vs1で3試合2本先取をやって俺が負けたら、帰りにアイスおごってあげる」
「言ったかんねー! 私を舐めちゃあかんよ!」
霞は観戦モードで二人の試合を見ていることにした。観戦モードだとスピードだとか旋回半径だとかそういう概念は一切なく、行きたいところに自由に行って試合を観戦できるのだ。
余裕ぶっかまして試合に臨んだ亜美。しかし5分後にはその表情から笑みが消えていた。もう普通を通り越して青白い顔をしている。霞も同じだった。
あんなにオンラインで無双していた亜美が、ミサイルを一発も当てられなかった。それどころか、一発も「発射できなかった」。
発射できなかったとはどういうことなのか。亜美は通常のミサイルを積んでいった。
いやミサイルは普通ロックオンしないと発射できないのだが、撃った後周りを探知して勝手に一番近い敵を追いかけるミサイルもあるにはあるのだ。しかし亜美のミサイルはそうではなかった。撃つ前にロックオンしなければいけなかった。ある程度近づくとあとは自動で追いかけてくれるのだが、亜美はその段階まで行くことができなかった。
『ロックオンできなかった』のである。
亜美は常に背後を取られ続け、どんなに
それくらい祐希の機動は美しく、そして容赦がなかった。
亜美も全力で逃げてはいるのだが、攻撃ができなかったらそれはもう負けたも同然。ミサイルが尽きるまで逃げ切れば反撃も出来ようが、しかしその前にミサイルに捉えられてしまったのだった。
青い顔をしていた亜美だったが、10秒も経たないうちにぱぁっと晴れ、やる気に満ち溢れた顔になっていた。
強い敵はここにいたのだ。絶望的なまでに強い敵。新たな目標。亜美はすぐに祐希に勝つことを当面の目標にした。
「どんまい〜」
「あいつ強すぎる……もう一回!」
すでにあいつ呼ばわりされている当の祐希はロビーに戻らずにそのまま次のスタンバイに移っていたので、どんな顔をしていたかは良く分からなかった。
「正直驚いた。勝ちはしたけど、これはいつ追い越されるか分かったものじゃないね」
「そんなこと言って〜結局一回しかロックオンできなかったし」
「私は亜美ちゃんにも勝てないから、もっと強くならないと」
結局、2試合目もボロ負けした亜美だったが、一回は祐希を捉えることはできた。ミサイルはあえなく避けられてしまったが、それでもこの短時間で祐希に少しは対応できていたのだ。
下校時間が近づいているので今日はこれでお開きにすることにした三人は、一緒に帰りながらBSSについて盛り上がり親交を深めていったのだった。
◇◇◇
夜。亜美はベッドの上で今日の戦いを振り返っていた。
同じ機体を使っていたはずなのに、どう頑張っても振り切れなかった。一回はオーバーシュート(追いかけている状態から、相手が失速機動などを使うことにより前後が逆転し追われる側になること)させることができたけど、いつの間にか目の前から消えていた。
「(心理戦、か……)」
戦闘機動に関しては自分自身負けていないと信じている。今までだってたくさんのプレイヤーと戦って勝ってきたし。でも今日は勝てなかった。別に調子が悪かったとかそんな機嫌のいい言い訳をするつもりはない。万全な状態で全力を出して負けたのだ。
原因は分かっていた。自分が次どこに行こうとしているのか、先読みされているのだ。一歩先の先読みくらいなら私もやるしちょっと上手いプレイヤーなら誰だってやってくる。それを見越してフェイクを入れるのだって戦術のうちの一つだし。ココらへんはバドミントンで学んだ事が活きてきたと思う。でも今日は違かった。一歩先なんて生ぬるい、撃墜まで全てを見透かされているようだった。どんなにフェイクを入れても全て想定済みであるかのようだった。
中にはフェイクを『入れさせられた』なんて事もあった。私のフェイクが私を追い詰める。今までに無い経験だった。
亜美自身バドミントンをやってたおかげで心理戦には自信があったが、今日の2戦で粉々に崩れ落ちていた。ただ、まだ自分に鍛え上げられる要素があることは素直に嬉しかったし、勝てない相手というのはかなり貴重な存在であると理解していた。
亜美の強みがここに出ている。ここまで一方的にやられたのに心は逆に更に太くなっている。いつか必ず勝ってやる。そんな負けず嫌いの心が亜美を更に強くする。
明日になったら色々教えてもらおう。そう思いつつ夢へと落ちていく亜美だった。
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