4 - 4 面白そうに遊ぶから

 最近、新しい仕事が増えました。

 毎週資料は提出しないといけませんし、部室の管理ができているかの確認もしないといけません。正直大変です。なんで部活の顧問なんて引き受けてしまったのでしょうか。


「さーくら先生! 今週の活動記録、持ってきました!」

「はい、ありがとうございます。今週はなにかいつもと違ったことはありましたか?」

「そういえば、未来ちゃんが塾に通い始めたから、木曜日が来れなくなるって言ってました!」

「分かりました。学生の本分である勉強もしっかり頑張りましょうね?」

「は、は〜い……」


 さくらは提出された資料にさっと目を通す。


『11/7 2vs3で模擬戦。祐希は機関銃のみ縛り。祐希&未来チームの勝利。美穂は逃げることに関してはとても上手だが自分から攻めに行くことにまだ慣れていない様子』

『11/8 1vs1でトーナメント戦。優勝は祐希。今回特筆するべき点は、未来が後もう少しで亜美に勝てるところだった点。惜しくも3位だったが、今後の成長が楽しみな結果となった』

『11/10 1vs1で総当り戦。昨日負けかけたのがよほど悔しかったのか、亜美は最初からかなりやる気を見せていた。結果、祐希以外にはストレートで勝ち文句なしの2位に輝いた』


 ざっと見た感じ、特に気にすべき点は見当たりませんね。何故か名字ではなく名前で書かれているのでそこは直して、と。境さんも高萩さんもしっかりゲーム部に馴染めているようで良かったです。それではこれをそのまま報告書にまとめて……


「(あれ? いつもよりファイルが多いですね)」


 そのままデータをコピーしようとタブレットを操作すると、今週だけいつも提出されているファイルと比べて一個だけ多いことに気付いた。ファイル名をよく読むと、明らかに一つだけ間違えて入れてしまったであろうファイルがあった。


「(スクリーンショット?)」


 フォルダ名は”スクリーンショット”となっていますね。ファイルの中身が気になります……


「(って、間違えて入れてしまったと分かっていて中身を覗き見するのはいけませんよね)」


 そう思いながら、さくらはフォルダに鍵をかけてそのまま放置することにしたのだった。



◇◇◇



 一週間後。


「さくら先生! これ、よろしくお願いしまーす!」

「はい、たしかに受け取りました。……そう言えば先週の活動記録に『スクリーンショット』という名前のフォルダが入っていましたよ」

「あ、それは先生にどんなゲームをやっているか報告するために入れておいたんです。かすみんが提案して、皆で暇な時はスクリーンショットを撮って毎週提出することにしました!」

「はぁ、そうだったんですね。そういうのはしっかり報告してくださいね?」

「はーい……気をつけます! 今週も結構かっこいい感じの写真が盛り沢山ですよ! あと未来vs私の試合の録画も入ってます!」


 亜美はその後新人組の二人についていくつか話をして帰っていった。


「(それでは先週のも合わせて見てみますか……)」


 先週鍵をかけておいたファイルを解除し、中身を表示する。すると、大空をバックに悠々と飛ぶ戦闘機の画像がたくさん出てきた。どれも同じような戦闘機で見分けがつかないが、ミサイルを発射する瞬間の画像や、フレアを撒いている画像、撃墜されている時の画像など、臨場感のある画像が所狭しと並んでいる。


「(実写と並べられても見分けがつかないですね)」


 実際、挙動に関してもグラフィックに関しても、果ては音に関しても、リアルを追求した結果ほとんど変わらないところまで来ている。それだけ緻密に作ってあるからこそのこの人気なのである。ただ女性にはあまり買われていないのだが。


 今週提出された活動記録に目を通し、おかしな点が無いことを確認すると、スクリーンショットフォルダを開いた。そこには相変わらず大空をバックにした戦闘機の画像が並ぶ。しかし今週は先週と違い様々な機体の写真が並んでいた。活動記録を見ても、今週から自分に合った機体を探すことにしたと書いてあり、既に未来は機体が決まったとも書いてあった。

 その中に10分ちょっとの動画が入っていた。多分これが動画なのでしょう、とその動画を再生する。


「(実際にプレイしている所は見たことがないですね)」


 画像は広告などでもよく見るが、実際に動いている所は見たことがなかった。再生すると、最初はただの空が映っているだけだったが、視点が片方の戦闘機の後ろに移る。機種はよくわからないが、右上にプレイヤー名が表示されていたので誰の戦闘機かはすぐに分かった。今は未来の機体が表示されているようだ。


「(実際は360°が全て見えるんですよね)」


 さくらは高所恐怖症ではないが、やはり少しは怖いものだろうと思っていた。動画はそのまま亜美の機体がレーダーで見えるようになるまで飛行を続け、亜美を捉えた瞬間……


「(撃った!)」


 ミサイルが2本、そして追加でもう2本。ミサイルの作る一直線の雲が亜美に向かって飛んでいく。そして未来はそのまま上空へロールすると、更に上昇を続けた。

 画面が亜美へと切り替わる。亜美はまだレーダーで未来を捉えられていなかった。先程からけたたましくミサイルアラートが鳴り響くが、亜美は未だに微動だにしない。レーダーではミサイルが4本、目の前から迫ってきていることが分かる。


「(ぶつかる!)」


 あわや撃墜というそのタイミング。亜美の機体の機首が下を向きエンジンがニュートラルになる。そのまま慣性に従い前に進みながら自由落下をする機体の後ろからフレアが放出された。さらに機首をさげ、ほぼ垂直に落下する亜美の機体とその場に残るフレア。


「(フレアに向かってくれるのでしょうか)」


 熱源が大きい方に向かっていく性質を持つミサイルは亜美の狙い通りフレアの方へ流れていった。しかし後ろの2本はそのまま亜美を追いかける。前の2本の爆発による爆風を受けたのかかなりよれよれと飛んでいるが、未だに亜美を捉えているようだ。しかし亜美はそのミサイルを急制動で撒き、かなり遠いところから撃たれたミサイルは次第に推進力を失っていった。


「(鹿嶋さんの制動もかなり上手ですね)」


 BSSに全く詳しくないさくらだが、ミサイルを正確に避ける亜美の凄さはなんとなくでも分かった。


 その後、未来の視点へ移る。未来は上昇した後、亜美の後ろまで飛んでいきターンして後ろ側を取っていた。亜美の急制動によるミサイル回避を待っていたのだ。急制動をすると、体への負担から操縦に正確さが無くなってくる。そこを狙い、未来は続けてまた4本のミサイルを放った。そのままミサイルは亜美の方へと飛んでいくが……


 亜美はそのミサイルを避けずに、反転した。そして、未来に対しミサイルを放ったのだ。その数2本。


「(そんなを事したら撃墜されてしまうのでは……?)」


 さくらの懸念は最もなのだが、亜美にとってはその懸念は有って無いようなものだった。亜美は急制動の後だというのに、そのまま更に旋回し正確な操縦でミサイルをフレアに撒くことに成功したのだ。

 問題は未来の方だ。先程から先制攻撃をすることで亜美に対し一方的にミサイルを撃つことができていたが、ここに来て初めて反撃された。しかも自分のミサイルを確実に当てようと亜美に近づいていたこともあり、避けられるかギリギリの距離になっていた。


「(機体差を見ると高萩さんの機体のほうが全体的に強そうなのですが、亜美さんの機体の特徴は何なんでしょうか?)」


 その疑問は、すぐに晴れることになる。亜美の機体、NF-7は”全体的にバランスが良い”という特徴を持ち、”何でもそつなくこなす”とよく言われている機体だ。そして、未来の機体、NF-35はステルス性が他の機体に比べて強いのが特徴だが、その反面耐久性がかなり低く設定されていた。実際はそこまで他の機体と差はないのだが、バランス調整なのだろう、NS-57など、ステルス&高機動の戦闘機は総じて耐久性が低く設定される傾向にあった。


「(だめ、避けられない!)」


 未来の機体は先程から急制動を繰り返しているが、亜美のミサイルは未来のミサイルに比べて追尾力が高いらしく、振り切れないでいた。チャフを撒いて一発は落としたものの、未だに一発が迫っていた。そして――


バゴン!


 左側の主翼にミサイルが命中した。片方の主翼をやられ、操縦が上手く効かなくなった未来はヨロヨロと飛んでいるだけだ。上空へ飛んで攻撃の機会を伺っていた亜美はすかさず急降下し、機銃でキャノピーを避けて右側主翼を狙った。その狙いは正確で、未来の機体は両翼を撃ち落とされ、耐久力が0になった判定を受けてゲームが終了した。


 一通り動画をみたさくらは――


「お、面白そう……!」


 BSSにハマっていたのだった。

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