時に愛され、時に呪われた女性の物語

 ある出来事をきっかけに死なない身体を与えられた女性、シェスティン。その力はどんな傷を受けても直ちに再生し、また彼女に触れる者を死なせるというもの。その力ゆえ、シェスティンは他者と親しい関係を築くことができず、孤独な放浪の旅を続けていた。
 そんなシェスティンが旅の中で一匹の黒猫に出会う。黒猫は本来は人間であったが、呪いにかけられ猫に変えられているという話であった。シェスティンは彼をスヴァットと名づけて旅の相棒とし、呪いを解くためのアイテムを探して各地を巡るが、そこで少しずつ自身にまつわる謎が明らかになっていく。
 永遠の生を与えられながらも、その力ゆえに他者との交わりを許されず、一人きりで生きるしかないシェスティン。彼女が孤独を滲ませる場面もあるものの、基本的には笑顔を見せつつ明るく振る舞っています。黒猫のスヴァットも呪いを受けてはいるものの猫の生活を満喫している様子もあり、可愛らしく鳴いてはシェスティンや読者を和ませてくれます。そうした人物像が設定の重さを感じさせず、作品の雰囲気を明るくしていると思いました。
 冒頭にある「時紡ぎ」の昔話、シェスティンの力が発動する時に聞こえる謎の「声」、そうした意味深な描写の真相は終盤で明らかにされます。全てがつながった時にはいろいろなことが腑に落ち、緻密に構成された物語に唸り声を上げたくなるでしょう。
 スヴァットの呪いは解けるのか、孤独を抱えたシェスティンの旅路の行方は。登場人物の行く末をじっくりと見守りたくなる物語です。

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