第三週お題「かっぱ」

仁志隆生「かっぱ」

 むかしむかし、常陸の国のとあるお寺に、和尚さんがいました。

 この和尚さん、毎日自分で朝と夕方に鐘を鳴らし、村人達に時を知らせていました。


 ある日の事、和尚さんが村外れの森を通りかかると、一匹の小河童が倒れていました。


「おや、こんな所に河童が? どうしたんじゃ?」

「ちょっと森に遊びに来たら、道に迷ったの。そんで、頭の皿が乾いて力が出ないの。このままじゃ死んじゃう、よう」

 小河童は息を切らしながら言いました。

「そりゃいかんな。ちょっと待っとれ」

 和尚さんは腰に下げていた水筒を取り、小河童の頭に水をかけてあげました。

 すると小河童はたちまち元気になりました。

 そして和尚さんは小河童に帰り道を教えてあげ、また皿が乾いたら難儀じゃろ、と持っていた水筒を渡しました。

「ありがとう和尚さん、いつかお礼するね」

 小河童はそう言って去って行きました。



 それからしばらくしたある日。

 和尚さんは風邪をひいて寝込んでしまい、鐘を鳴らす事ができなくなってしまいました。


「ゴホゴホ。早う治さんと、皆が難儀するのう」

 和尚さんが布団の中でそう言うと


 ゴーン 


 と、夕方を知らせる鐘の音が聞こえて来ました。

「おや? いったい誰が」

 和尚さんが起き上がろうとすると、部屋の障子が開きました。


「ああ、駄目だよ和尚さん。寝てなきゃ」

 それはあの小河童でした。

 よく見ると後ろに大人の女の河童もいます。

「私はこの子の親です。いつぞやはこの子を助けていただいたそうで、ありがとうございました」

 母親河童は頭を下げてお礼を言いました。

「和尚さんの風邪が治るまで、おっとうが代わりをするって」

 さっきの鐘はどうやら父親河童が鳴らしたそうです。


「そうかそうか、ありがとうな。ゴホゴホ」

「さ、和尚さんは寝てて」

 そして和尚さんは河童の親子に看病され、やがてすっかりと元気になりました。


 それからも河童の親子は時折お寺を訪れ、和尚さんの身の回りを世話したりしました。

 特に河童が鐘を鳴らしているという噂が広まり、あちこちからたくさんの人がそれを見物しに集まり、やがてそれが名物となって村はたいそう栄えました。



 そして時は流れ、今はもう村やお寺は無くなってしまいましたが、河童の親子はとある場所で鐘を鳴らし、時を知らせているという事です。



 おしまい




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