桜川光「おに」

人はそれぞれ心の中に鬼を飼っているという。

桃太郎の鬼ヶ島の鬼達も、青鬼の切ない優しさに触れ泣き叫んだ赤鬼も、我々人の内なる化身なのかも知れない。


そしてボクも鬼を飼っている。

「ねぇ直樹ぃ、起きてよぉ!」

ボク、水沢直樹は、鬼をペットにしている。

コイツ体長が15センチしかないのと、小さい体躯のためか高い声を発して騒ぐので、ピーちゃんと名前をつけて可愛がっている。

「何だよピーちゃん。まだ5時じゃん。も少し寝かせろよ」

「やだやだぁ!!お水お水ぅ!!」

「お前寝る前に汲んでやってたじゃん」

「カン様が飲んじゃったよぉ!」

愚図るピーちゃんに、思わずボクは

「鬼……」

と呟いて、台所で水を汲み与えた。

「ありがと直樹!いっただきまぁす!」

ピーちゃんはバキュームカーの如く水を飲んだ。

その様子を確認し、ボクは

「じゃなピーちゃん。お休み」

とベッドに戻ろうとしたが、

「やだぁ!ゴハンゴハンー!!」

とパジャマのズボンの裾を掴まれ、ピーちゃんに愚図られてしまった。

「鬼……」

再びボクは呟き、ピーちゃんのゴハンを用意してあげた。

「ありがと直樹!いっただきまぁす!!」

とわしゃわしゃゴハンを食むピーちゃんの台詞に(デジャヴ?)と思いながらも、気を取り直して

「じゃ寝るわ。お休み」

と声を掛け、再びベッドに向かおうとすると、

「やだやだやだぁ!直樹遊んで遊んでー!!」

またまた愚図り出すピーちゃんがいた。

そうこうしていると、物音に気づいたのか、母が起きてきて

「おはよう。随分早いわね直樹」

と、目を擦りながらボクに声を掛けた。

「またピーちゃんに起こされたんだよ」

ボクは母に答えた。

「ピーちゃん、あんた好きだもんね」

「でも寝かせてほしいよー。今日中間テストだよー」

「あら。折角早く起きたんだから、勉強したらどう?」

母の返しに

「鬼……」

と呟いた。

よく見ると、母の足許には、もう1匹の鬼のカンがくっついていた。

カンは母を見ながら

「にゃーん」

と猫なで声を出し、母のトイレまでついていった。

一方ボクの足許では、ゴハンを食べ終わったピーちゃんが、

「にゃっにゃっ」

と甘えた声で裾で遊んでいた。

ボクはピーちゃんのお気に入りの猫じゃらしを持って、試験勉強そっちのけで遊び相手を全うした。


お陰で今回の中間テストは散々な目に遭った。

ボクは思わず

「鬼……」

と呟かずにはいられなかった。

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