仁志隆生「おに」
むかしむかし、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
二人はたいそう仲良しですが、子供がいなくて少し寂しいと思っていました。
そんなある日の事、おじいさんが山へ柴刈りに行くと、木の下に赤ん坊が寝かされていました。
「おや、こんなとこに何故?」
と思い赤ん坊を抱き上げ、その顔を見ると、その子の頭には小さな角がありました。
それを見たおじいさんは驚いて叫んでしまいました。
すると赤ん坊が目を覚まし、おぎゃーおぎゃーと泣き出しました。
「え、ああよしよし。すまんかったのう」
おじいさんが謝りながらあやすと、赤ん坊はすぐに泣き止んでキャッキャと笑いました。
「さて、どうしたもんかの? 角があるって事は鬼の子かの? でものう、よく見ると可愛いのう。よし」
おじいさんは赤ん坊を家に連れて帰りました。
赤ん坊を見たおばあさんも初めは驚きましたが、抱っこしてあやしているうちに赤ん坊が可愛いくなって
「おじいさん、この子うちで育てませんか」
「そうじゃの。角は上手く隠せばいいじゃろし」
「ええ。ところで名前をつけてあげないと」
「
「いい名前ですね。そうしましょう」
こうして喜助と名付けられた赤ん坊はすくすくと育ち、やがて体の大きな立派な若者になりました。
そんなある日の事、喜助はおじいさんとおばあさんに言いました。
「おら、旅に出たいんだ」
「何故じゃ?」
おじいさんとおばあさんは驚きながら聞きました。
すると喜助はこう言いました。
「おら聞いたんだ。いずれこの国によその国が攻めてくるって。だからおら、皆を守る為に強くなりたいんだ」
「そんな事せんでもええ。お前はずっとここにいてくれればええんじゃ」
おばあさんは泣きながら喜助を止めますが
「ううん。おらもう決めたんだ。なあ、頼むよ」
その後も喜助は頭を下げ、何度も何度も二人にお願いしました。
やがて二人は根負けし
「・・・・・・わかった。だが決して死ぬでないぞ」
「うん、ありがとう」
こうして喜助は旅に出ました。
それから何年かしたある日の事です。
喜助が言ったとおり、よその国から大勢の侍が攻め込んできました。
ですがその侍達は突然現れた大きな鬼が追い払った、という話が伝わってきました。
おじいさんとおばあさんは、その鬼は喜助ではないかと思いました。
そして鬼が何度も侍を追い払ってくれましたが、ある日悪い噂が聞こえてきました。
鬼が金銀財宝を奪い、若い娘を攫ったりと悪事を働いていると。
そんな噂ばかり聞こえてくるうちに、英雄のように崇められていた鬼もいつの間にか悪者と思われるようになりました。
やがて鬼はとある強者に退治されたと聞いた多くの人々は喜びましたが、おじいさんとおばあさんは喜助が悪者な訳がない、と泣き暮らしていました。
それから何十年かが過ぎ、おじいさんとおばあさんも亡くなり、鬼の事は人々から忘れられた頃
小さなお墓にお参りしている一人のおじいさんがいました。
「だいぶ後になって知りました・・・・・・あれは都の者達が流した嘘だったという事を。若い頃の私は鬼こそが悪者、と思っていました。ですが・・・・・・」
おじいさんは泣きながらお墓に向かって話しています。
「この村では鬼、いえ喜助さんこそが英雄と伝わっています。私も老い先短いですので、いずれあの世でお叱りを受けます。それと」
おじいさんは懐から小さな袋を取り出し
「これは喜助さんの角です。・・・・・・これがかつて喜助さんを討った私に出来る、せめてもの」
おじいさんはそれをお墓の前に埋めた後、その場を離れました。
そして
「世間では私の事を「桃太郎」と呼んで英雄のように言ってくれるが、私は真実を知らなかった、ただの愚か者だ」
そう言ってどこかへ歩いて行きました。
終
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