第一週お題「ゆきおんな」
仁志隆生「ゆきおんな」
昔々、北国のある所に猟師の親子が住んでいました。
父親は茂助、息子は卯之吉といい、とても仲良く暮らしていました。
ある寒い日のこと、二人が山へ猟へ出かけましたが、次第に吹雪が強くなって来ました。
こりゃいかん、と思った二人は近くにあった山小屋に入り、雪が止むまで休むことにしました。
その夜、いつの間にか疲れて寝ていた卯之吉が目を覚ますと、戸の前に誰かが立っていました。
よく見ると真っ白な肌、真っ白な着物を来た若い女のようです。
そしてその女は父親の茂助に近づき、屈んでその顔に息をフウッと吹きかけると、あっという間に茂助が凍りついてしまいました。
「え? も、もしかして雪女」
すると
「あなたも凍らせようかと思ったけど、まだ若いし可哀想だからやめます。でも今夜の事を誰かに言ったらその時は・・・・・・」
女はそう言った後、姿を消しました。
気がつくともう朝になっていました。
その後卯之吉はあの夜の事は誰にも言いませんでした。
それから一年が過ぎたある日の事です。
卯之吉が猟から戻ると、家の前で若い女が蹲っていました。
「もし、どうかしましたか?」
卯之吉が話しかけると
「ええ、少し疲れたのでここで休ませてもらっていました。すみません」
女は顔を上げて言いました。
その顔はたいそう美しく、思わず見惚れてしまう程でした。
「そうだったのか。それなら外は寒いし、中に入って休んだらいい」
卯之吉はそう言って女を家に招き入れました。
女はお雪といい、親を亡くして遠くの親類を頼りに行く旅の途中だったと、他にも色々と話しました。
そして聴き終わった卯之吉が言いました。
「今の時期に旅は辛いだろう。よければしばらくここにいて、暖かくなってからにすればどうだ?」
「はい、ではお言葉に甘えて」
そして二人は一緒に暮らしていくうちに心を寄せ合い、暖かくなった頃に夫婦となりました。
それから何年か経ったある吹雪の夜。
卯之吉は針仕事をしていたお雪の横顔を見つめながら言いました。
「こうして見ると、よく似ているな」
「え、似ているって?」
「いやな」
卯之吉は昔見た雪女の事を話しました。
すると
「とうとう喋ってしまったのですね」
お雪の姿があの時の雪女になりました。
「あの時言ったでしょう。話し」
「オヤジの仇!」
卯之吉はすかさず側に置いてあった猟銃を取り、お雪の胸を撃ちました。
「え? ど、どうして?」
お雪は苦しそうに胸を押さえながら卯之吉に尋ねます。
「俺は最初からお前が雪女だとわかってた。そしてお前と夫婦になったフリをして、いつか仇討ちを、とな」
「そ、それならこれまでも機会はあったはずじゃ?」
「いや、ただの鉄砲の弾で雪女を殺せるはずがねえと思って、お寺の和尚様に妖怪退治の弾をこしらえて貰ってたんだよ。雪女に会ったという事は伏せて。それが今日やっと出来たから」
「そ、そうだったのですか・・・・・・あなたのあの優しさ、楽しかった日々、あれは全て嘘だったのですね」
お雪が尋ねますが、卯之吉は何も言いませんでした。
「でも・・・・・・たとえ嘘だったとしても私は・・・・・・幸せでした」
そう言った後、お雪の体は雪のように溶けてなくなりました。
「・・・・・・俺だってそうだよ。たとえ嘘でも」
卯之吉の目には涙が浮かんでいました。
終
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