のば「おに」

「晴明のやつどこに隠れやがったんだ?」

壁にかけてある時計は10時半を指していた。

「時間がない、急がないと…」

オレはこの広い関東国際空港のなか、1人焦っていた。


「ゆき先輩!オレ、幸せっす!」

「こぉら、二人の時はゆきって呼んで」

「分かったっす、ゆき先輩!」

「もぉ…」

なんだろう、この辺りだけ気温が3度くらい高い気がする。

「あの、すいません。この辺で赤いTシャツを着た6歳くらいの男の子見ませんでしたか?」

「男の子?赤いTシャツを着てカープの帽子を被った子ならさっき見たわよ」

それだ!

「その子どっちに行きました?」

「どうだったかしら?」

「あっちに向かって走っていたっす!

オレ見たっす!間違いないっす!」 

うわ、また気温が上がった。妖怪?

男の方はアロハシャツに麦わら帽子、花の首輪に栄養ドリンクの首輪。

胸には『世界一の幸せ者』のタスキ(後ろには『裏切り者』と書いてあったけど。)

ハワイかの新婚旅行なんだろうな〜。

「しかしウチも入籍と同時にハワイへ出張だなんて粋な会社っすよね!

しかも夫婦揃って!」

「あらたまたまよ。

たまたま、パスポートを持ってて、

たまたま、大きなプロジェクトも抱えて無くて、

たまたま、結婚したばかりの二人がいたから選ばれただけ!

いいから思いっきり楽しみましょ」

「それがイイっす」

男の人のカバンにはハワイゴー、女の人のカバンにはハワイユキと書いてあった。

どんだけハワイ好きだよ!



『お客さまのお呼びだしを申し上げます。お客さまの野平奈子さま、野平奈子さま。

お伝えしたい事がございます。

一階総合受付までお願い致します。

繰り返します。

お客さまの、えと、あれ?

お客さまの…えぇ??

失礼しました』

???

何だったんだ、今の放送?


そうだ!隠れるならトイレだ。

トイレに6っつある個室の2つが塞がっている。

コンコン♪

俺は右端のドアをノックした。

「入ってるよ!」

オヤジの声だ、晴明じゃない。

次だ。コンコン♪

「うるさいわね!もう出るわよ!」

分厚い化粧をしたオバハンが出てきた。。。ここは百鬼夜行か!?


諦めて出ようとした時もう一つのトイレが見えた。

障害者用男女共用トイレ!

そこなら男女関係なく入れる。

俺はその扉を激しく叩いた。いかにも『もう漏れそう!他は空いてないです!お願いします』という雰囲気で。

中にいるのが晴明だとして、俺が叩いてるとは思わないだろう。


カチャと音がして鍵が開いた。

来たか?

中から出て来たのは…

中肉中背の髪の長い女の人だった。

顔は、顔を見た瞬間、俺はなぜここにいるのかを忘れた。



俺は受付に戻り吉岡里帆似のお姉さんに聞いてみた。

「ネエ、赤い服を着てカープの帽子被った男の子、見ませんでしたか?

6歳くらいの」

「ん~~、それっぽい子なら搭乗口の方にいたわよ」

今度こそ!

俺は搭乗口の方に戻った。

居ない。

こうなったら手当たり次第に探すしかない。オレは近くのゴミ箱を除き込んだり、柱や自販機の陰などを片っ端から見て回った。

「キミ、どうしたの?」

白いワンピースを着た麦わら帽子のお姉さんが声をかけてきた。

「ふーん、友達と鬼ごっこしてるんだ。あたしもむかしやったな~

キミが鬼なのね?」

「うん!」

お姉さんは懐かしそうに遠くを見ながら呟いた。

「ケンちゃん元気にしてるかな~。

5年ぶりだもんな~」


「そだ、あんまり時間がないけどあたしも一緒に探してあげよっか?」

「いいの?」

「うん、あたしね、むかし凄い物も見つけたことあるんだぞ♪」

お姉さんは子どものような目でオレを見てた。


「その人から手を離せ!」

振り返ると奴がいた。

「現れたか!」

オレはそいつを睨むと大きな気を吐いた。


「ふはははは!

目覚めたばかりの今のお前では本来の能力は出せまい、28代、安倍晴明!

つまらない鬼ごっこはここで終わりだ!」

俺は子どもの姿を捨て本来の姿に戻った。


・・・ここから先、お前たちは知る必要はない。

必要とあればまた語られる事もあるだろう。

ふはははは。

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