第四週お題「おに」
あかつきらいる「きぃちゃんの冒険」
おにの子きぃちゃん、今日はどこへ行く?
「あら、きぃちゃん、おはよー」
なぜか妖怪が
「ここちゃん、おはよー」
きぃちゃんは頭に小さなツノがある。全体的に黄色で、オレンジ色の布に黒い斑点模様のズボンを履いている。背中にちっちゃな太鼓を背負い、腰には小さな棒が二本。目はくりくりしている黒い瞳で、二重まぶた。
「今日はどこへ行こう?」
恭子が帰省してからほぼ毎日、彼女が運転するミニバイクでのドライブが、きぃちゃんの楽しみの一つになっていた。
「龍神様のところ―。今年も台風が暴れないように、お願いしにいこうよ」
「そうね」
田舎の一本道、周りは田んぼだらけである。龍神様を
「龍神様。お見守り、ありがとうございます」
その時、一粒の水のしずくが恭子の頬にかかる。恭子が驚いて見上げると、きぃちゃんを連れた龍神様がいた。
「この者に聞いた。お主は視えて会話もできるそうじゃのう」
龍神様の姿は大陸に伝わる、あの四つ足の、いわゆるドラゴンとは違っている。どちらかというと、タツノオトシゴのようなかわいさがあった。
「ちょっと頼まれてくれんかのう?」
「何をすればいいの?」
ちぎれかけた
注連縄は帰ってばあちゃんに相談しないといけないなぁ、と思いつつも、草取りをする恭子。その近くで、きぃちゃんは龍神様の背中に登って、あちこちを
二時間ぐらい経っただろうか。目立つ草は取り除かれ、井戸がここにあるよ、と少しは分かるようになってきた。
「龍神様。注連縄は、新しいものを持ってきますねー。とりあえず今日は、これで」
「きぃちゃん、帰るよー」
翌日。
恭子は祖母と一緒に昨夜遅くまでかかって、長い注連縄をよって作り上げた。七夕の短冊をつるす
そうやって作り上げた注連縄を束ねて、ミニバイクの荷台に乗せる。掃除道具も載せて、出発する。
その途中で見かけた
ちぎれかけた注連縄を取り除き、持ってきた新しいものを掛けなおす。その時「しゃらららん」という澄んだ音色が恭子の耳に入った。龍神様が気持ちよさそうに背伸びしたときに音がするようだった。
井戸水をくみ上げて、オケを洗い、布で拭き上げたりと、一通りの掃除をしおわると、きぃちゃんが小さめの龍の背中から降りてくる。
龍神様からもくもくと白い煙のようなものが上がったかと思うと、白いひげを生やした小さなおじいさんが井戸の縁に立っていた。
「感謝じゃよ。おかげで楽になったわい」
「どういたしまして」
恭子は清々しい気持ちで祖母の家へ帰路につく。
別れ際、龍神様が約束してくれた。
「嵐が来ようとも、わしの目が届く範囲の田畑は守る」
その年は台風の当たり年だったが、この地区一帯の田畑は水につかる事もなく、作物は豊作だったという。
<終わり>
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