アドラメレク

作者 霧野

23

8人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

アドラメレクとはあまり聞きなれない悪魔の名前です(個人的には)。
それをタイトルにしているこの作品、オカルトめいた話になるのかな、なんて思いつつ読んでいるといい意味で裏切られます。
この話の中で展開されるのは『大月陽』という天才的な画家の、天真爛漫にして壮絶な生き様の軌跡です。
同時に彼という人間に魅せられた人々の悲喜こもごもの骨太のドラマです。

読了したばかりですが、読み終えた後も様々な感情、思索がまだ胸の中に残っています。
彼の天才を引き出したのが、このアドラメレクという悪魔の力なのか、そもそも彼が持っていた才能だったのか。
どうして主人公はあんなにも人を惹きつけて離さなかったのか。
まさに大作を読んだ後にしか味わえない独特の余韻があります。

物語前半では主人公・大月陽その人の魅力と彼の生み出す絵画の魅力が存分に語られています。
彼の絵に最初に惹かれた兄貴分にして親友の優馬、恋人の恵流、陽の運命の人になる夏蓮、その他さまざまなキャラクターが群像劇のように陽の世界を彩ります。
周りの助けもあって才能を開花させていく主人公、その説得力と迫力はすさまじいものがあります。

この前半部分がコメディータッチも交えながら実に楽しい物語になっています。
とにかく読みやすい文章につられて、自分自身も物語の世界に溶け込んでいくような雰囲気があります。
そして天才の凄みをキャラクターともどもに味わい、いつしか主人公に惹かれていくことに気付くと思います。

そして後半部分ではこの幸福な世界全てを叩き壊すような展開が待ち受けています。
この落差が激しすぎて、本当の悪魔は作者なのかな、と思わせるほど強烈です。
ですが、この物語の本当の凄みはやっぱりここにあると思いました。
過酷な運命だからこそ引き出されるキャラクターたちの本質、そこを正面から堂々と書ききっているのが圧巻なのです。

絵画に… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

若き天才画家・大月陽と、彼をとりまく人々の物語です。
始めは趣味で細々と絵を描くだけだった陽。
やがて、絵を気に入ってくれた人々との間に少しずつ縁ができ始め…
職場の仲間や、兄貴分の青年、さらに彼女まで。かけがえのない大切な人々との輪が陽を包み込み、幸せにしてくれます。

そんなささやかな日常が、大きく変化し始めます。
どこまでも尽きることのない集中力。周りのすべてを絵として自分の中に取り込み、筆から吐き出さずにはいられなくなる、身を焦がすような渇望。
休む間もなく作品が生み出され、そこに周囲の協力・尽力も加わって、彼の画家としての名声は瞬く間に高みへと駆け上がっていきます。

それは彼自身がもともと持っていた、類まれなる才能と、人を惹きつけてやまない魅力の結果。
――だった、はずなのに。
もしもそこに、人智を超えた何者かの力が加わっていたとしたら――。

あまりに急激な変容、陽の周りの人々を次々に翻弄する、大きすぎる運命の渦。
読者もかなり揺さぶられます。心臓の弱い方はご注意を。
序盤、とっても平和で日常的な青春ラブコメ小説だと思ったのに、気がつくととんでもない災厄に巻き込まれていた!
高低差が激しすぎますー。読みながら、何度画面の前で叫んだことか。
読了した今は、もっと広い目で落ち着いて見られるようになりました。今では、こう書くべきものだった、と納得しています。
読んでる最中は、ドキハラが止まらなくて大変でしたけど(笑)。

長々と書いてしまいましたが、文章自体はとても読みやすいです。長編ですが、どんどんさくっと読めるので字数の多さは感じません。
それでいて、これだけ濃い内容がぎゅぎゅっと詰まっているとか…。
読了して満足しました、なんてもんじゃないです。
圧倒、圧巻。そんな言葉が浮かびます。

私が最も惹かれたのは、芸術的表現の多彩さ。美の中から迫りくるパワー。
陽… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

創作に関わる者として「天才がどのように作られるのか、そしてその悲哀とは?」という点に着目して読ませていただきました。
個人的に主人公はたとえ悪魔の力を借りずとも、そして周りの影響を受けずとも、最終的には天才と呼ばれる存在になり得たのではないかという気がします。ここまで個性の強さ、意志の強さが際立つキャラクターは現代日本ではなかなかお目にかかれないので。
ストーリーの中で印象的だったのは、中盤以降、力を手に入れた彼と力を借りずして頂点に達した存在との対比、アクシデント後の二人の関係など、天から才能が与えられた者にしかわからない葛藤がまざまざと描かれていたところで、どんな現実に直面してもブレずに自分を貫こうとする姿勢に胸を打たれました。
そしてそんな天才たちから影響を受ける側がまた、良いリアクションを示しつつ成長していくのですが、そんな王道っぽさと未完成っぽさが見事に同居する展開が良かったです。字数の多さは全く感じないまま読み終えましたが、本当はもっと続くんじゃないかと期待する自分がいました。

★★★ Excellent!!!

若き芸術家のサクセスストーリーがある時から怒濤の展開に。
精密なカメラワークで、主人公の描く絵、登場人物たちの服や表情、細かい心情が丁寧に描かれることで物語が浮かび上がり、才能のキラメキとそれぞれの心情が深く突き刺さる、美しい作品です。

★★★ Excellent!!!

凄まじい才能を持つ画家・大月陽の半生を、彼の周囲の人々の視点で綴っていく群像劇です。

初めは勤め先の木工工場のシャッターに絵を描いたり、公園の片隅で似顔絵を売ったりしていただけの陽でしたが、友人の勧めでメディアに出るようになり……
広い世界で開花した陽の才能は、あらゆるものを惹き付けていきます。
良いものも、悪いものも。

陽自身は、とても穏やかで純朴な性格の人です。相手に何かを強く望むこともなく、ただそこにいる。
多視点の構成が象徴するように、彼の周囲の人々が、その才能の巻き起こす運命の波に巻き込まれていくのです。
そしてある時を境に、悲劇の連鎖が始まる……

40万字を超える大作ですが、1話ずつが短く、また文章も軽妙で読みやすいです。
決して少なくない登場人物の性格や生き様がしっかりと掘り下げられ、大月陽という人が彼らに与えた影響をリアルに感じました。

哀しい運命の物語です。
ですが、最後には希望の光が見えました。
始まりと同じく、陽の描いたシャッターの絵のシーンで締められるラストも素敵です。人生の原点がそこにあったのだと。

彼らの生きた証がずっと心に残るような、素晴らしい作品でした!