キャラクターたちの想いが胸をうつ大作でした。

アドラメレクとはあまり聞きなれない悪魔の名前です(個人的には)。
それをタイトルにしているこの作品、オカルトめいた話になるのかな、なんて思いつつ読んでいるといい意味で裏切られます。
この話の中で展開されるのは『大月陽』という天才的な画家の、天真爛漫にして壮絶な生き様の軌跡です。
同時に彼という人間に魅せられた人々の悲喜こもごもの骨太のドラマです。

読了したばかりですが、読み終えた後も様々な感情、思索がまだ胸の中に残っています。
彼の天才を引き出したのが、このアドラメレクという悪魔の力なのか、そもそも彼が持っていた才能だったのか。
どうして主人公はあんなにも人を惹きつけて離さなかったのか。
まさに大作を読んだ後にしか味わえない独特の余韻があります。

物語前半では主人公・大月陽その人の魅力と彼の生み出す絵画の魅力が存分に語られています。
彼の絵に最初に惹かれた兄貴分にして親友の優馬、恋人の恵流、陽の運命の人になる夏蓮、その他さまざまなキャラクターが群像劇のように陽の世界を彩ります。
周りの助けもあって才能を開花させていく主人公、その説得力と迫力はすさまじいものがあります。

この前半部分がコメディータッチも交えながら実に楽しい物語になっています。
とにかく読みやすい文章につられて、自分自身も物語の世界に溶け込んでいくような雰囲気があります。
そして天才の凄みをキャラクターともどもに味わい、いつしか主人公に惹かれていくことに気付くと思います。

そして後半部分ではこの幸福な世界全てを叩き壊すような展開が待ち受けています。
この落差が激しすぎて、本当の悪魔は作者なのかな、と思わせるほど強烈です。
ですが、この物語の本当の凄みはやっぱりここにあると思いました。
過酷な運命だからこそ引き出されるキャラクターたちの本質、そこを正面から堂々と書ききっているのが圧巻なのです。

絵画に関する描写がまた素晴らしく、文章だけなのに説得力をもって陽の描く世界が展開されます。
キャラクターの個性も魅力的で、作者様の知識や洞察力のすごさが感じられます。
それらが絡み合って物語世界を濃密に鮮やかに彩っています。

とにかく作者の魂がこもったような、それを存分に発揮したような大作でした。
是非読んでみてください!

その他のおすすめレビュー

関川 二尋さんの他のおすすめレビュー1,513