アドラメレク
霧野
第1話 序
先ず、月が在った。
星の無い空にぽっかりと浮かぶその満月は、曖昧な陰影をたたえ煌々と闇を照らしていた。
次に、雲が流れた。
うっすらとたなびくすじ雲は、月の光を遮ることをしない。気高く光る月を護るように、もしくは支えるように夜空を横切っている。
そして、樹が現れた。
空中から突如として伸びだした枝は、はじめ、夜空を割るひびの様に見えた。
しかしそれは次第に大きく育ち、夜空の多くの部分を覆うまでになった。幹を太くし根を生やした。
大樹の傍らに、泉が湧いた。
清らかな水には暗い空と明るい月、薄い雲と枝葉の影が上下を反転して映っている。控えめに輝く静かな波紋によって少し歪んだ逆さまの世界が、風景に神秘性を添えていた。
大樹の傍には、花が咲いた。
力強く伸びた茎の先に、燃えるような紅の花。泉の際に咲くその大輪の花は、暗闇に踊る炎を思わせた。
とある夜の、とある場所。
全ては、ここから始まった。
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