才能と渇望の果てに。内から噴上がる焔は、筆を通してその身を灼き尽くす

若き天才画家・大月陽と、彼をとりまく人々の物語です。
始めは趣味で細々と絵を描くだけだった陽。
やがて、絵を気に入ってくれた人々との間に少しずつ縁ができ始め…
職場の仲間や、兄貴分の青年、さらに彼女まで。かけがえのない大切な人々との輪が陽を包み込み、幸せにしてくれます。

そんなささやかな日常が、大きく変化し始めます。
どこまでも尽きることのない集中力。周りのすべてを絵として自分の中に取り込み、筆から吐き出さずにはいられなくなる、身を焦がすような渇望。
休む間もなく作品が生み出され、そこに周囲の協力・尽力も加わって、彼の画家としての名声は瞬く間に高みへと駆け上がっていきます。

それは彼自身がもともと持っていた、類まれなる才能と、人を惹きつけてやまない魅力の結果。
――だった、はずなのに。
もしもそこに、人智を超えた何者かの力が加わっていたとしたら――。

あまりに急激な変容、陽の周りの人々を次々に翻弄する、大きすぎる運命の渦。
読者もかなり揺さぶられます。心臓の弱い方はご注意を。
序盤、とっても平和で日常的な青春ラブコメ小説だと思ったのに、気がつくととんでもない災厄に巻き込まれていた!
高低差が激しすぎますー。読みながら、何度画面の前で叫んだことか。
読了した今は、もっと広い目で落ち着いて見られるようになりました。今では、こう書くべきものだった、と納得しています。
読んでる最中は、ドキハラが止まらなくて大変でしたけど(笑)。

長々と書いてしまいましたが、文章自体はとても読みやすいです。長編ですが、どんどんさくっと読めるので字数の多さは感じません。
それでいて、これだけ濃い内容がぎゅぎゅっと詰まっているとか…。
読了して満足しました、なんてもんじゃないです。
圧倒、圧巻。そんな言葉が浮かびます。

私が最も惹かれたのは、芸術的表現の多彩さ。美の中から迫りくるパワー。
陽が描く絵画と、あと重要人物として夏蓮というダンサーが出てきますが、彼女の踊るステージに表れます。
ちょっと絵や舞台を見たことがあるだけじゃ、ここまで書けません。作者の造詣、経験の深さを思わせます。
文面からほとばしる、飛び抜けた若い才能と努力が生み出す圧倒的な芸術の存在感。これだけでも読む価値があります。

もちろんキャラクターも、しっかりと地に足を着けている、人間的な魅力にあふれた人物ばかり。
楽しいかけあいの中にも、それぞれの背景、葛藤などが見えてきます。人間の紡ぎ出すドラマとして、自然と惹きつけられていきます。

長くなってしまったので、最後に一言。
ぜひ、読んでください。
得るものが必ず、たくさんあります。

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