若き天才画家の運命の奔流に翻弄された、彼が愛した者たちの人生の行方は

凄まじい才能を持つ画家・大月陽の半生を、彼の周囲の人々の視点で綴っていく群像劇です。

初めは勤め先の木工工場のシャッターに絵を描いたり、公園の片隅で似顔絵を売ったりしていただけの陽でしたが、友人の勧めでメディアに出るようになり……
広い世界で開花した陽の才能は、あらゆるものを惹き付けていきます。
良いものも、悪いものも。

陽自身は、とても穏やかで純朴な性格の人です。相手に何かを強く望むこともなく、ただそこにいる。
多視点の構成が象徴するように、彼の周囲の人々が、その才能の巻き起こす運命の波に巻き込まれていくのです。
そしてある時を境に、悲劇の連鎖が始まる……

40万字を超える大作ですが、1話ずつが短く、また文章も軽妙で読みやすいです。
決して少なくない登場人物の性格や生き様がしっかりと掘り下げられ、大月陽という人が彼らに与えた影響をリアルに感じました。

哀しい運命の物語です。
ですが、最後には希望の光が見えました。
始まりと同じく、陽の描いたシャッターの絵のシーンで締められるラストも素敵です。人生の原点がそこにあったのだと。

彼らの生きた証がずっと心に残るような、素晴らしい作品でした!

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