青年画家の栄光と苦悩、それを取り巻く人々の人間模様

成功へとのぼりつめていく一人の天才画家と、その魅力に惹かれてしまったがゆえに自分の人生まで翻弄されていく人々。

彼らの辿る運命、それぞれの抱く思いが絡み合い交錯してどんどん形を変え、物語全体が生きもののようにうねり、核心へ向けて突き進んでいきます。読みやすくテンポの良い文章でコミカルに始まるストーリーが、後半になり次第に不穏な空気をはらんで膨れ上がっていくのは鳥肌もの。そこへ至るまでの巧妙な伏線もふくめ、すべてが繋がっている構成が見事です。

本能のままに描き出される絵の数々や、躍動感あふれるダンサーの動きなど、目の前にありありと浮かぶような描写には圧倒されます。芸術に身を投じた者が作り上げる世界を文章でここまで表現されることにも感動しました。

主人公だけでなく、彼を取り巻くすべての人物に個性と魅力があります。単なる脇役では収まらない人間らしい匂いを放つのは、ひとりひとりにかけた筆者の深い愛情によるものでしょう。

アドラメレクというタイトルが意味するものとは。怒涛の展開の末に見えてくる境地は。
非常に読み応えのある大作です。ひとりでも多くの方にこの世界を体験していただきたいと思います。

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