天才の人生を生きた一人の青年の物語、アドラメレクとは……

天才としての人生を生きたという方はそんなに多くないでしょうけれど、この物語はその数少ない天才としての人生を生きた一人の若き画家『大月 陽』の人生の物語です。
元来、陽は絵を愛する素朴な青年でした。彼の描いた一枚のシャッターの絵、そこからこの物語は始まっていきます。そして絵を通じて彼は様々な人と出会い、描き続けることで彼自身人生を切り開いてきますが……

たくさんの魅力にあふれた作品ですが、まず一番初めに触れたいのがキャラクター造形の深さです。キャラクターに赤い血がこんこんと通って、まさにそこにリアルに生きているのですね。どうしてそのようなことが可能か。それはおそらく作者さまがキャラクターひとり一人へ深い愛情を注ぎ、一番の理解者として接していたからだと思われます。そのキャラクター同士で編み上げられる物語は実に奥深く重厚、まるでドラマを見ているかのような臨場感があります。

次にわたし、好きなキャラクターもできまして、夏連さんという天才ダンサーなのですけれど。
始めは周りを焼き尽くすほどの情熱を迸らせる女性でして、この時は正直わたし自身、彼女って少し苦手だなと感じていたのです。ところが陽と出会うことで彼女は変わっていく。わたしはその変化した彼女をとても好きになったんです。実に人間らしさにあふれ、でもその志は変わらず力強く。陽に不死鳥といわしめるほどに魂の輝きを放つのですね。なんと強く美しい女性なのだろうと感銘しています。

物語全体を通しての仕掛けも素晴らしく、上りつめた陽の人生にある悲劇が訪れるのですね。それがもうなんともいえなかった。人生には人生が変わる瞬間があったのです。それに乗るか反るか。運命という二文字では片づけられないほどのものが作品には込められています。
やっぱりこの設定を思いつくのがすごい、『アドラメレク』は悪魔なんですね。
ものすごく面白かった!

最後にとても読み応えある作品ですので、ぜひお手に取っていただきたく思います。
おススメいたします!

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