物語を読み終えたとき、タイトルがじんわりと胸にしみこんでくる

生きることに不器用な二人が織りなすヒューマンドラマ、ひとこと紹介ならばそんな物語でしょうか。
しかし、ひとことでは語りつくせない密度のこもったドラマでした。

主人公の穂花(ほのか)は特にもやりたいことも目的も見いだせなかったカフェ店員。
もちろんカフェの雰囲気が大好きで、そこでまじめに働くことが彼女のすべて、といった具合。
しかしある日、彼女にあらぬ疑いがかけられたところから、彼女が大事にしていた小さな平穏はあっけなく崩れていきます。

そんな彼女と知り合うのが、もう一人の不器用な男。トラックドライバーの出島さんです。
この二人、普通であれば接点がないはずなのですが、導かれるように出会います。

しかしいかんせん不器用な二人、この距離が縮まらないのはもちろん、手探りで少しづつしか話せません。
この雰囲気が実にリアルで、その心中描写は誰しも心当たりがあることで、二人のキャラクターが等身大に身近に感じられます。
そんな二人の間に巻き起こった一連の騒動、もがく中で出てくる出島さんの不器用で言葉少ないながらも、どこか芯をとらえた援護と応援の数々が胸に迫ります。
じっくりと読んでいるうちにすっかり作品世界に引き込まれました。

なんというか突飛なドラマではないし、手に汗握る事件が起こるわけでもありません。
そこにあるのはあり得そうなエピソードと、周りにもいそうなキャラクターたちが織りなすドラマです。
それでもついつい続きが気になるのはキャラクターの魅力と、文章の巧みさ、ちょっとした表現も印象的な作品の雰囲気のせいです。
そしてラストに現れる読後感のすがすがしさ。
タイトルとも相まって感動的でした。

物語を書くことを愛している、そんな気持ちがにじみ出ている素晴らしい作品でした!