凸凹の道だって、優しい光が照らしてくれるなら、迷いながらも進んでいける

どんな平凡な人生だって、時に荒波やつまづきがあるもの。
本作は23歳のカフェ店員と38歳のトラック運転手という、全く接点のない二人の人生が寄り添っていく様を描いた、心に沁みるヒューマンドラマです。

タイトルにもある『自動販売機』が、物語の要所要所で象徴的に描かれており、視覚イメージとしても印象的です。
身に覚えのない不倫疑惑に悩む主人公・穂花が、偶然出会った出島という男性に相談を持ちかけるランドマークとして。
お気に入りの飲み物と共におしゃべりをする大事な場所として。
作中で例えられたように、真夜中に光を発する自販機はまさしく灯台でした。

生きていくため、居場所を確保するため、どんな歩み方をするのか。
決して器用とは言いがたい二人が、一つ一つ歩みを進めながら、優しい時間を過ごす。
穂花ちゃんが何を大切に思っているのか、出島さんがどんな人生を辿ってきたのか、断片的な描写からでも奥行きの見える筆致で、リアリティと説得力を感じました。

没頭から言及されていた不倫問題に関しては、クズキャラを描くことに定評のあるゆきはさんの筆が今作でも冴え渡っていました。
丁寧に積み上げられたヘイトを一掃するクライマックスは、伏線回収とも相まって見事なカタルシス。
おっとりした二人が手を取るに相応しい衝撃的な出来事から、温かなラストシーンへと繋がる流れが素晴らしかったです。

目指すべきところだったり、中継地だったり、そして背中を押してくれる出発点にもなり得る灯台の光。
行く道を照らしてくれる存在を見つけられたら、凸凹の道も怖くないかもしれません。
自分の人生の大切なものを見つめ直したくなるような、素晴らしい作品でした!