とにかくすごい! 重厚にして圧巻な歴史ファンタジー!

 カクヨムには読んでいて楽しいばかりでなく、優れた、ただただ凄い、と思わされる作品があります。この作品もそんな作品の一つです。
 物語の舞台は歴史ものなのですが、そこに謎めいて理不尽ともいえる不思議な神話世界が溶け込み、極上のファンタジー作品となっています。

 時代物らしく語り口が重厚ですが、その中身は時代を超えても変わらない人間たちの生きざまを丹念に描いたドラマになっています。そのドラマに神話要素がわずかに加わることにより、オリジナリティーあふれる素晴らしい物語が紡がれていきます。その様はまさに圧巻。語り口の語彙の豊富さにも驚きますが、歴史を丹念に追いかけるようにして、不思議な物語が圧倒的なリアリティをもって読者に迫ってきます。

 童女のまま姿の変わらない不思議な『ふみ』。明らかに見た目は年上なのにふみを「姉ちゃ」と慕う『狭依』と『伊吉』、そして彼らと不思議な縁で結ばれた才色兼備な『多佳姫』。キャラクターたちが年月とともに成長してゆくさま、ひそかに抱えていた過去、この時代ならではの時代の波に翻弄される様、すべてのエピソードが濃密で胸に迫ります。男女を問わず『人間の生きざま』、そんなものが読むにつれて立ち上ってくるのです。

 物語としての面白みはこの童女『ふみ』の存在にあります。謎めいた彼女の正体はなんなのか? 少しづつ明かされていく『ふみ』の秘密がまたたまらなく面白いのです。これはもう、読んで楽しんでもらうのが一番です。ただ、この秘密を追っていくうちにファンタジーと現実がまじりあい、ラストに向けて美しくもはかない、そんな光景が現れます。

 まぁなにはともあれ、波乱万丈の物語が好きというひとに読んでもらいたい。ファンタジーが好きな人、神話に興味がある人、濃密なドラマが好きな人、そして本を読むのが好きな人、そんな読者さまならきっと物語のすごさに感動することでしょう。

 この作者さんの作品はどれも完成度が高くて、設定が斜め上で、ストーリーが魅力的で、キャラクターに愛着がわく、そんな傑作ぞろいですが、こちらも期待を大きく上回る作品でした。
 おすすめです!

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