SF作品というものは、書く側にとっても読む側にとってもハードルが高いもの……だと、個人的に思っています。
読者を納得させる世界観を作る技術だったり、作り込まれた世界観に入り込む集中力だったり……。
私自身があまりSFに触れてこなかったというのもあって、初めは緊張しながら読んだ記憶があります。
読んでみてまず思ったことは、凄く丁寧に描かれているということでした。
情景が浮かびやすく、まるで映画を観ているような気分になりました。
気が付けば主人公のサイカや植物くんに感情移入できるほど物語に入り込めている自分がいて……。
作者さん自身がたくさん模索しながら執筆している結果なのだとしみじみ思います。
考えさせられるストーリーに、圧倒的な世界観。
皆さんも入り込んでみませんか?
もし、人が自分の身体で酸素を作れるようになったら?
温暖化は解消されるかもしれない。
でも、倫理的な問題は?
世の中は単純じゃない。
こっちが引っ込めばあっちが出てしまう。
この作品を読んでいると、そんな思いが湧いてきて、深く考えさせられてしまいます。
たとえば、光合成ができるようになっても、必要以上に植物化が進んでしまう人がいます。
主人公のサイカは「緑化抑制剤」を開発しますが、まだまだ臨床試験中。
薬の被験者との交流が丁寧に書かれていくなか、「あなたはどう思う?」と作者様に問われているような気分になってしまいました。
こんな重厚な作品、なかなかないのではないでしょうか?
重いテーマにしっかりとした科学的な知識。
読み応えばっちりの、とても面白い作品です!
環境問題が解決の兆しを見せている世界で、新たに生まれた問題に挑む科学者達の研究を描いたSF作品です。
温暖化に対抗するため、とある科学者は植物の光合成を人間に取り入れる研究を発表しました。
その行いは疑いようもなく肉体改造であり、倫理、宗教、医学の面で大きな論争を巻き起こしました。
しかし、結果としては大成功。酸素の放出量が増えたおかげで、地球の環境は大きく改善を迎えます。
けれども、肉体改造の裏目か。肉体の機能が植物へと傾きすぎてしまう人々が現れます。
主人公達の目的は、そんな人々を救済すること。
大功の影に埋もれてしまった人々に、主人公達は新たな光を与えられるのか。
ぜひ読んでみてください。
ほとんど、九九パーセントの動物は、息をせずにはいられない。少しくらいなら止めていられるが、植物のようにはいかない。
動物の中で、科学技術を産み出し、実行するのは人間だけである。猿が道具を使うことはあるが、それは手段であって技術ではないだろう。
で、酸素を消費する人間が、より酸素を消費する科学技術を使う。かくて二酸化炭素は指数関数的に増え続ける。
そんな下り坂に、本作で描かれる科学技術はつっかい棒をかける。ただし、『善意かつ自発的な志願者』の協力において。
軍縮条約から環境保全まで、およそ人間の業……『あなたが先にやれば私もやりましょう』は無数に存在する。それをゼニカネの力だけで解決しようとすると、必ず破綻する。
破綻を免れる唯一の手段は、冷徹な計算と熱烈な人類愛の合致のみである。
必読本作。
温室効果ガスとしてやり玉にあがる二酸化炭素。
現実でも国際的に排出量に関する取り決めが行われています。
この小説は「緑化手術」によって人間が光合成できるようになった未来の物語。
緑化手術を受けた人間は太陽が出ている昼の間、二酸化炭素から酸素を作り出せるのです。
しかし違法の緑化促進剤が出回ったことで、一部の人々において植物化が進みすぎる病が現れるようになってしまった。
物語の主人公サイカは、その病の特効薬「緑化抑制剤」を開発した若き天才科学者。
ただし緑化抑制剤はまだ臨床試験中。
緑化手術を受けた人に被験者となってもらって、効果を実証しているところ。
その被験者となった青年と、サイカが反発しあいながら心の交流を積み重ねてゆく姿が描かれます。
光合成について学んだ子供時代に、動物や人間も光合成ができたら便利なのになーなんて考えたことのある人は多いと思います。
それを科学的な根拠と共に上質なSFに昇華している本作は、読み応えバッチリ。
また、緑化手術の副作用として病が設定されていたり、違法薬物が出てきたりと、気になる要素がたくさんあって惹きつけられます。
病が進行した先で、人間はどうなってしまうのか?
そもそも、人間が光合成をおこなう倫理的問題は?
など、リアルな物語が繰り広げられます。
不穏でありながら目を離せないテーマに、釘付けになってしまうはず。
SF的な理屈もしっかり描かれていて面白いので、ぜひ読んでみてください!