主人公の少女末葉に訪れた悲しい出来事。
パワフルかつちょっぴり強引な母の死から、怪しげなおっさんとの遭遇、母の遺した秘密、オカルト的な謎の組織との関わり……。
あれよあれよと言う間に、予想を超えた展開に、ぐいぐい引っ張られて行きます!
主人公末葉とおっさんのキャラクターがすごくいいんです!
アウトロー的な中年と年少者との組み合わせは、『シェーン』や『グロリア』といった往年の名作映画を彷彿とさせます。
その一方、下ネタを平気で口にするおっさんの適度な下品さと、現代っ子らしくどこかクールで、緊迫感溢れるシーンでも心のツッコミ入れまくるヒロインのやり取りがいい具合に脱力感を生み、独特の味わいとなっています。
そして、死してなお存在感抜群の母の遺したメッセージとは……?
「死者であれ生者であれ、誰かがあなたを見守っている」。そんなテーマは、若い読者の心の支えになるに違いありません。
女子高生の主人公の前に突然現れたのが、知らないおっさん。母親がなくなって傷心中のところに、いきなり襲撃事件があって、そこに登場したのがこのおっさんこと『吾妻』さん。
このおっさんがいい人なんだか悪い人なんだか、カッコいいのかガサツなのか、とにかくとらえどころがなくて魅力的です。作者さんはアウトローな男の書き方が特にうまいと思いますが、今回の吾妻さんも大人の男からにじみ出る変なエロスを醸し出してくれてます。
しかも今回のおっさんはとにかく会話に下ネタを巧みに混ぜ込んできます。その連射に主人公も辟易してますが、そんなこともお構いなし。そんなところがまた妙にかっこいいんです。
という二人が謎の宗教組織に追われて、逃げて、戦って、……というアクション満載な感じで物語は進んでいきます。最初はこの組織に追われる理由もわからなかったのですが、このおっさんが重い口を徐々に開いて、物語の核心へと近づいていきます。そこには亡くなった母親にまつわる秘密・過去もあって、それらが明かされるたびに不思議なワクワクを感じます。この母親といい、その娘である主人公といい、なんというか女性のしたたかさ、強さみたいなものが本当に痛快です。
アクションを交えつつ、二人の心境も丁寧に追いながら、物語が転がっていく様は見事です。先が気になると同時に、期待感もどんどん膨らんでいきます。また物語の敵役がラストで吐露する心情、歴史にもグッとくるものがありました。そしてラストにはあっと驚く仕掛けもあって……とこの辺で。
作者さんのほかのレビューでも書いたかもしれませんが、この物語もまさにこの人にしか書けない作品です。それをしっかりと書き上げるってことが本当にすごい。プロもアマチュアも関係なく、物語を書く人にとってそれが一番大事なことだなと、改めて思わせる素晴らしい作品でした!
ぜひ読んでみてください!
シリアス&ハードボイルド、にどこか成りきらない、程よい抜け感のある作品です。
主人公・末葉(うれは)の前には、ストレートに解かせてはもらえない回りくどい難題が……後のことは心配いらないと言い残し、死してなお存在感抜群の母の面影と、おっさんの頑なな謎の行動原理。そしてフリーメイソンとは。
世代の違いというよりも、生きた時代の違いを偲ぶ機会は、この先の未来にもちゃんとあるだろうか、と個人的には祖父や恩師を思い出す回想もありました。
母の仕込みも、物語の設計も、もちろん読み応えも抜群です。終始一貫、シリアスには成りきらないけれど……答えに辿り着くまでの過程の絶妙なところに山場があり、ストンと綺麗に着地します。