第03話 2号機の休日

 2号機はガラスケースに顔をくっつけていた。

 中では、小型犬が2号機を見上げて、ぱたぱたと尻尾を振っている。

 2号機はほんの少しだけ目尻を下げた。

「かぁわいい」

 小さな声で2号機は言った。

 硝子が息で白く曇った。

「旨そうな犬だ」

 真横で声がした。

 2号機はばっと隣を振り向いた。

 阿具が、ポケットに手を突っ込んで横に立っていた。

 2号機は唇を噛んで、すぐに無表情に戻った。

「冗談だよ」

「そうですか」

 短く2号機は答えた。


 休日のショッピングモールには多くの人達が溢れていた。

 中央の広場のベンチに2号機と阿具が並んで座っている。

 阿具は軍服のジャケットを脱いでいた。2号機は学校の制服で、遠目にはやさぐれたサラリーマンと、援助交際をしている高校生の取り合わせに見える。

「どうしてここに?」

 2号機は阿具の買ったソフトクリームを手に持っている。

「あの近接戦闘型」

「4号機」

「4号機が、パンチングマシーン破壊して、係員に捕まった。って3号機に電話で起こされた」

「それで?」

「謝って、弁償して。今は二人ともまたゲームセンターで遊んでる」

 阿具は缶コーヒーをまずそうに飲み干した。

「休日も5人一緒か。仲が良いんだな」

「仲が良いとか、よくわかりません」

 2号機は銀色の瞳で、人の流れを見つめていた。

「生まれてきて、周りは上官と、姉妹だけです。良いも悪いも、選ぶ余地有りませんから」

「嫌いなのか?」

 阿具は缶をゴミ箱に投げ入れた。

「同じ遺伝子を分けた姉妹と、命令される上官」

「2種類じゃ、スキもキライもねぇってか」

「そうです」

 阿具は無表情な2号機を目を細めて、見た。

「じゃあ、好きなモノと嫌いなモノっていうのは?」

「阿具少尉」

 2号機は真っ直ぐに阿具を見返した。

「なんだ」

「隊員との親睦を深める、という目的でしたらやめて下さい。私はそんな真似をしなくても、命令には従います」

 突き放す様な調子で、2号機は言った。

「まだ、お前を使うとは決めてねえよ」

「私は、明らかにこの国で最高級の通信担当です。勿論、決定権は少尉に有りますが」

 阿具はにやりと笑みを浮かべた。2号機は阿具を睨んでいる。

「信用出来ませんか?」

「兵隊に最も重要なコトがひとつ有る」

 阿具は試すように2号機を見た。2号機はじっと黙っている。

「殺されるかもしれない状況でも、楽しく、だ」

「それは」

「お前みたいに張り詰めてたらな、実戦やってけねぇよ?」

 2号機は唇を噛んで俯いた。

「ほら、マジに考えすぎだ」

 阿具はからかう様に言った。

「少尉」

「怒るなよ、それから非番の時には少尉って呼ぶな」

 阿具は周りを指差した。

 周りに腰掛けている人間たちが、ちらちらと二人の方を伺っている。

「…じゃあ、何とお呼びしたらいいんですか?」

「あぁ?まぁ阿具さん、とか京一郎さんとか、お兄ちゃんでも。好きでいいぞ」

「阿具は」

「さすがに呼び捨てはどうかな」

「冗談ですよ」

 仕返しに、2号機がにやりと笑った。

 だが、すぐに無表情に戻る。

「阿具さんは私を使わないんですか」

「その前に、もうひとつ」

「なんですか?」

「アイスが溶けそうだ」

 2号機は手元を見た。

 ソフトクリームは今にも2号機の手に垂れてそうになっていた。

 2号機はぺろりとソフトクリームを舐めた。

「旨いか?」

「甘いです」

「それだけ?」

「カロリーが高い」

「特機も、太るのを心配するか」

 阿具は笑った。

「別に心配している訳ではありませんが」

 言い訳くさく2号機は言った。


 その店は主に電子制御の魚を扱う店だった。

 チューブ状の通路の全方位に青い水槽が広がっている。

 銀色の魚が群れを成して泳ぎ、硝子の表面に魚の情報が表示されている。

 2号機は上を見上げた。

 大きなエイが尻尾をのたくらせて、勇壮に水中を進んでいく。

「動物が好きか?」

 阿具は右手の魚の群れを見ている。

「別に」

「かぁわいい…、ってな」

「聞いてたんですか」

「まぁ、耳は良い方で」

 阿具は肩をすくめた。

「飼ったコト有りませんから、好きかわかりません」

「道理だな」

「阿具さんは、休日とか何をしているんですか?」

 阿具は少し意外そうな顔をした。

「こっちに来てから初めての休日だが、もう既にやることねえよ」

「お友達とかは」

「居ない。いや、由梨とは一応友達か」

「由梨先生。同じ部隊だったんですよね」

「良く知ってるな」

 阿具は目を細めた。

「耳は良い方で」

 2号機は阿具の真似をして言った。

「物心ついたら軍に居た。仲間と敵しかいなかった」

 2号機は黙って阿具の顔を見ていた。

「聞いても良いですか?」

「何を?」

「阿具少尉の軍籍は、少尉が18の時からです。でも、その前の経歴が有りません」

「よっぽど良い耳をしてるらしいな」

「調べたんです。自分たちの隊長になる人ですから」

 2号機は率直に言った。

「18歳の前は、何をしていたんですか?」

「まぁ今と変わらねえよ。国は違ったけど、毎日戦って、敵を殺していた」

「ずっと軍隊に」

「そうだ。お前と同じだな」

「私と」

 阿具は歩き出した。

 2号機が後ろから着いていく。

「ただ、俺は軍隊から抜けた後のコトも知ってる。無くした後で気付くなんて本当にバカな話だけど、軍隊は家族だった。今も、そのつもりだけどな」

 阿具は振り返った。

 2号機は無表情だが、すこし困った様な顔をしていた。

「別にお前にそうなれって話しじゃあない。俺がそう思ってるだけだ」

「私には、わかりません」

「嫌か?」

「嫌では有りません。ただ、わからないだけです」

 阿具は溜め息を吐いた。

「難しい奴だな、てめぇは」

「そうですか?」

 白い5mほどの鯨が、足元を泳ぎ去っていった。

「きっと、他の姉妹たちも、実際に家族だとは思ってないはずです」

「そうかな」

 阿具は鯨を目で追っている。

「違うと?」

「俺は、血の繋がってる家族が居ない。だから、家族っていっても想像してるだけさ。実際の家族とは全然違うかもしれない」

「じゃあ、阿具さんの家族の基準って何なんですか?」

 阿具は鯨が見えなくなると2号機に目を戻した。

「さぁな」

「さぁ、って」

「無くすまで気付かないくらいだからな。そんなにしっかりしたもんじゃないんだよ。ただ、もう無くしちゃあイケナイ、とは思う位か」

 2号機は黙っている。

「納得がいかないか?」

「命を失っても守る、とかそういうコトだと思ってました」

「俺の命はそんなに重くない」

「軽い命?」

「だ。でも家族っていうのはそういうのに並ぶものじゃないんだ。重いとか軽いじゃなく」

 阿具は照れくさそうに頬を掻いた。

「…わかりません」

 2号機は俯いた。

「俺もわからねえよ」

 阿具は笑った。

『阿具京一郎さま。ダブルRさまより、恒星間通信が入っております。最寄りの端末よりお受け下さい』

 館内放送が、完璧な抑揚で喋った。

「アァル?すまんな2号機、ちょっと待っててくれ」

 阿具は言うと歩き去っていった。

 2号機は壁面に寄りかかった。

 ぼこぼこと水泡が上に向かって沸き上がっていく。

 2号機は上を見上げた。銀色の魚群のが、太陽の光をキラキラと反射させて輝いていた。2号機は細く息を吐き出して、目を閉じた。目を閉じても、暖かな太陽の存在を感じられた。

「カゾク」

 通路に、幾つも声が反響して、2号機を包んでいた。


「京一郎だ」

 端末に向かって阿具は言った。

「れ?キョウさん、家じゃねーんすかぁ。せっかく休みだから呑みに行こうと思ったのに」

 リッチマンは既に褐色の肌を少し赤黒く染めて居る。

 大柄なリッチマンは抱き締めるように酒瓶を持っている。

「お前なあ、もう呑んでるんじゃねえか。俺はイザナギに居るんだぞ?」

「首都なんかで何やってんすかあ…。明日までに戻ってこれるんすか!」

 少し怒ってリッチマンが言った。

「落ち着け。もう一週間半前に、俺は突撃隊長を解任されてるだろ?」

 リッチマンは驚いた顔をして考え込んでいた。

「ああ!」

「先に気付け!恒星間通信してんだろうが」

「きょ、キョウさぁん…」

 リッチマンは突然涙目になっている。

「何だよ、気色悪いな」

「寂しーっすよぉ、何で俺たちを捨てて、出世するんすかあ!」

「たち?」

「うぃっすたいちょー」

「元気そうですね隊長」

「副隊、今は隊長すけど、こんな有様で申し訳ないっす」

 突撃隊のA班のメンバーが次々に画面に顔を出す。

「お前らも、元気そうだな」

 嬉しそうに阿具が言った。

「どけテメェら!俺がキョウさんと話してんだよドチクショウ!」

「ぐぁ!」

 リッチマンがメンバーを持ち上げると画面の外に投げた。

「おいおい」

 阿具は肩をすくめて、でも嬉しそうに笑っていた。


 2号機はきゅっと唇を噛んだ。靴のカカトが壁面にあたってカチンと音を立てた。

 どん、と2号機の顔の横を塞ぐように、男は手を突き出した。

「別に、いいじゃん。ちょっと楽しいコトするだけだよ?」

 髪の長い男は囁く様に言った。

 男の後ろには、髪の長い奴より大柄な男が二人立って、へらへらと笑っている。

「お断りします」

 2号機は突き放すように言った。

「つれないなぁ」

 髪の長い男は2号機の髪に顔を押しつけた。

 2号機は足を踏ん張って、掌底を思いっきり男のみぞおちに叩きつけた。

 男は衝撃で半歩後退した。

「触らないで」

 2号機は基本的な護身術の型に構えた。

「何か、したか?」

 長い髪の男はのけぞった体をそのまま起こした。

 男の目は、黒目の部分に薄紫の光が宿っている。

「薬物中毒…?」

 2号機は素早く踏み出して、右手を一直線に男の顔につきだした。

 男の顔が歪んで、のけぞり、そのまま倒れるかに見えた。

 だが、男はまた、そのまま体を起こした。鼻からはダラダラと血が流れている。

 男は手を挙げた。

 すっと、両側の男が一歩踏み出す。

 間髪入れずに、2号機は右側の男の腹を思いっきり蹴った。重い感触が有り、確実に有効な打撃を入れられた感触が有った。だが男は2号機の足を掴んだ。

 2号機が突き飛ばされて壁面に叩きつけられた。

 2号機は苦しそうに顔を歪めながら、携行している拳銃に手を伸ばした。

 しかし、銃を抜くより早く、大柄な男二人に両手を壁に付けて押さえ込まれた。

「離して!」

 2号機が叫んだ。

 長い髪の男がゆっくりと腰から実弾銃を抜くと、2号機の額に押し当てた。

「死にながらセックスしたコト有る? あ、無いかぁ」

 男は低く笑うと2号機の服の胸元を掴むと、一気に引き下ろした。

 服がずたずたに破けて、2号機の胸が露わになる。

「いや…いやッ! 助けて!」

 2号機は悲鳴を上げた。


「ディグにガキが? そりゃめでたいなぁ!」

 阿具は嬉しそうに言った。

「ええ、だからディグの野郎、殊勲賞取ろうと無茶ばっかりなんすよぉ」

 金髪の男が端末の前で話している。今は彼がA班の班長らしい。

 リッチマンは後ろで、兵士四人と激しい戦いを繰り広げている。

「じゃあ一回ディグと話しないとな…」

 阿具が言った。

 と、その瞬間、通信に乱れが発生した。

『助けて!』

 雑音だらけで、声は叫んでいた。

 次の瞬間には、通信は平常を取り戻していた。

「どうしたんすか?」

 眉間に皺を寄せた阿具を見て、班長が言った。

「すまん。また連絡する。急用だ」

 阿具は物凄い勢いで駆け出していた。


 2号機は男に組み敷かれて床に倒されていた。

 口も大柄な男に押さえつけられて、悲鳴じみた声が口から漏れる。

 長い髪の男は、2号機に馬乗りになって自分のベルトを外そうとしていた。

 次の瞬間、足音が聞こえた。

 顔を上げようとした時には、阿具の跳び蹴りが男の腹に直撃していた。

 男は十メートルも向こうまで一瞬で運ばれていった。

「やべっ、死んだかも」

 阿具は空中で呟いた。それから着地と同時に、2号機の口を押さえて居た男の顎を、今度はだいぶ手加減して蹴り上げた。男の体が真上に吹き飛んでいく。

「阿具さんっ!」

 2号機の顔は真っ青に成っている。

 阿具は蹴り上げた足を転換させて、もう一人の男も蹴り倒す。

 2号機は胸を隠しもせずに、カタカタと小さく震えていた。

「あー。なんだ、よく育ったな、偉いぞ」

 阿具は親指をびしっと立てた。

 慌てて2号機は胸を隠すと、立ち上がった。

「軍人が一般人に負けてどうする」

「薬物中毒者です。痛みも感じない、気絶もしません」

 2号機は阿具に寄り添って言った。

 大柄な二人の男はゆっくりと立ち上がろうとしていた。

「銃を」

 2号機は胸を隠したまま、片手で腰に手を回した。

「大人しく見てろ、銃なんざ使っちゃ興が削がれる」

 2号機の方を向いていた阿具に、男がタックルで突っ込んだ。

 阿具の背中が壁に叩きつけられるのと同時に、バキ、と嫌な音が響いた。

 男はそのまま地面に倒れ込んだ。

「殺したんですか?」

「頸椎を外しただけだ。もっとも神経に傷がついてても知らないけどな」

 すっと、阿具はもう一人の目の前に迫った。

 男の大きな拳が阿具に迫る。

 派手な音で阿具の顔に拳が命中した。だが阿具は表情を変えず、殴ったはずの男の方が顔を歪めた。男の指は奇妙に捻れて、握ったままの形に折れていた。

「悪いな、突撃隊式なんだ。一発殴られたら殺しても良いってんだけど」

 とん、と阿具は手のひらで男を押した。それだけで男は体勢を崩して後退する。

 阿具は男が壁に付くまでに、五発の正拳を腹に叩き込んでいた。

 それから壁についてなおも動こうとする男を見て、阿具はあくびをした。それから容赦せずに両手で果てしなくパンチを撃ち込んだ。恐ろしく早いパンチなのに一発一発が命中する度に鈍い音が周囲に響いた。見る間に壁にヒビが入っていく。

「もういいか」

 阿具が離れると、男は糸が切れた人形のように、体を支えられずにぐにゃりと倒れた。

「人間殴るのはつまらんな。柔らかすぎる」

「阿具さんは人間離れし過ぎです」

 阿具が長い間、男を殴っているうちに2号機はだいぶ落ち着きを取り戻していた。

 にっと笑みを浮かべ、阿具は少しほっとした表情を浮かべた。

「無事だったか?」

 聞きにくそうに阿具は言った。

「無事に見えますか?」

 憤慨して2号機は言った。

「そうじゃなくて。なんていうか、ほら。結合っていうか、合体っていうかよ」

 2号機は顔を赤くして俯いた。

「めしべと、おしべが。いや、わかりにくいな。とにかく、純潔ってか、貞操ってか?」

「ええと……無事です」

 珍しくつかえるような、歯切れの悪い調子で2号機は言った。

「ならまあ、最低限良かったな」

 阿具はどうも気まずいような思いで2号機の肩をぽんぽんと叩いた。

 2号機は急に顔を上げた。そこにはよたよたと歩く長い髪の男が銃を持って経っていた。

「あひゃひゃ、なんだかよう、腹ん中がへんだぜぇ」

 薄ら笑いを浮かべたまま、男は銃口を阿具に向けていた。

「誰だあれは?知り合いか?」

 阿具は不思議そうに言った。

「阿具さんがさっき蹴っ飛ばした男です」

「俺が? ……ああ。お前死ななくてよかったなぁ」

「死ぬのは、アンタだからなあ!」

 微笑みかける阿具に対して、男は引き金を引いた。

 銃声が辺りに響き、直後にカチンと壁に何かが当たる音がした。

 阿具は蠅でも払うような動きで手を動かしていた。2号機は目を見張る。

「本当に死ぬのは俺か? お前じゃないのか、豆鉄砲じゃ身は守れねえぞ」

「弾が見えるんですか?」

「まさか、弾速と方向が分かれば目閉じてても当たらねえよ」

 男は続けざまに銃を撃った。阿具は全ての弾を手で払いのけた。

 最後に、銃のスライドが後ろに下がったまま止まった。

「さて俺の番だ。記録に挑戦すっかね、どれだけぶっ飛ぶか」

 阿具は軽やかに飛び上がると、回し蹴りを男にはなった。

 予告通りに、男は遙か廊下の隅まで吹き飛んでいく。

「ふぅ。とんだ目に遭ったな」

 手をひさしにして阿具は記録を確認している。

「割に、楽しそうでしたけど」

2号機はもはやすこし呆れて言うと、阿具は首を振った。

「やっぱ機械虫相手の方が、手応えが有っていい。殴り応えもずっとある」

「……戦闘狂」

「そうかもな、早いところ戦地に行かせないとここらのチンピラ皆殺しにしちまうぞ」

 屈託なく言う阿具に、2号機は肩をすくめた。

 やっと落ち着きかけた二人の間に、そのときピキッと硝子にヒビの入る音が響いた。

 二人は黙り込んだ。それが何の音なのかは、考えずともすぐに分かった。

「やばいな」

「そうですね」

 硝子が粉々になって、一瞬で通路に水が溢れていく。


 ばしゃばしゃと音を立てて、特機達は2号機の通信が発信された場所に向かっていた。

 1号機と5号機は買い物の袋を、3号機と4号機はUFOキャッチャーのプライズを両手一杯に抱えている。やがて、先頭を走っていた4号機が、ぴたりと足を止めた。

 4号機の手から、ぼろぼろとプライズがこぼれ落ちた。

 通路には、胸の大きくはだけた2号機と、覆い被さるように阿具が倒れていた。

「へ、変態野郎がっ!」

「……んん? 遅かったなお前ら」

 阿具が顔を上げて呟いた。

「遅かった、というコトはまさか2号機の貞操は……」

 5号機が静かな怒りを見せて言った。

「しょ……少尉が……」

 3号機がショックにふらふらしている。

「お、落ち着きましょう!きっと何らかの理由が有るはずだから!」

 1号機は必死に言った。

「理由は男性ホルモンが過剰なせいね。軍人には多いと聞いていたけれど」

 5号機は腰から二丁拳銃を抜いた。

「そーだ! ホルモン野郎!」

 4号機が阿具にも負けない、ダッシュ&跳び蹴りで阿具に迫った。

 阿具は素早く肘を突き出して、跳び蹴りを受け止めた。

「なんだコラァ! 俺と勝負か小娘!」

 やたらと嬉しそうに阿具が怒鳴った。

「ちょっと阿具さん、4号機落ち着いて」

 二人が2号機の方を向いた。

「……阿具さん?」

 4号機の瞳にじわりと涙が浮かんだ。

「かかか、体は奪えても! 心は奪えないんだぞクソ野郎!」

 4号機が阿具より速い拳を突き出した。

「ははは、良くわからんが、お前の攻撃は技術が低いぞ!」

 阿具は強さと速さに勝る4号機の攻撃を全てかわしていく。そして身を翻すと回避の動きから繋げて、裏拳を放った。4号機は素早く防御の態勢を取る。

 瞬間に阿具の拳の軌道が変わって、4号機はガードを弾かれる。

「修行し直せ!」

 阿具は手を伸ばして4号機の胸ぐらを掴むと、軽々と横に放った。

 途端に銃声が連続した。

「うぉ! 卑怯モンめ!」

 阿具は両手でびしびしと弾を弾いていく。だがさっきの蠅を払うような動きではなく、苛烈な銃撃に合わせて群がる虫を振り払うように凄まじい勢いで弾いている。

 5号機は弾が無くなると銃を投げ捨て、更に腰から二丁の拳銃を取り出した。

「待て! テメェの背中はどうなってやがる!」

「良くも姉を傷付けたわね、許さないのだから」

 5号機は更に銃を撃った。

「俺だって、許さねえんだぞ!」

 4号機が立ち上がって阿具に向かっていく。

 3号機は2号機にしがみついてわんわんと泣いていた。

 1号機は二人を優しく抱き締めた。

「大丈夫だからね」

 1号機は言った。

「うははははは! 掛かって来い阿呆! お前らなんかに負けねえぞ!」

 阿具は大喜びで、弾を避けて、4号機の拳を避けて大暴れしている。

「うっ」

 2号機は突然と声を上げた。

「うふ、あはははははは!あはは!」

 2号機は涙を流しながら大声で笑っていた。

「2号機が笑ってる?」

 5号機は銃を撃つ手止めて驚いて見入っていた。

 全員が同じように驚いた表情で2号機を見つめていた。

 そして、2号機はやっと笑い止むと、嬉しそうに微笑んだ。

「家族だ」

 2号機はしっかりと言った。

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