第07話 クーデター
阿具が跳んだ。
中央基地の最も長い廊下で、対峙する兵士と自動戦車の間を、信じられない距離阿具は跳躍した。
直後、銃声が殆ど連なって響いた。
阿具はバリケードの内側に着地すると、両脇に抱えた2号と3号を下ろした。
「回線遮断されてます。都市全域に妨害電波。首都は陥落している可能性が有ります」
すぐに2号機が報告した。阿具は返事もせずにヘルメットと軽装のボディアーマーを2組取った。
「敵全数不明、最低でもこの基地内に5000以上。所属は第三方面隊と推測されます。人間は確認できませんでした。拠点制圧用の自動機械のみです」
3号機がヘルメットとボディアーマーを受け取りながら言った。
由梨がほふく前進で近づいてくると、無言で血を流した阿具の肩の手当てを始めた。
その間も、銃撃は止むことなく続いていた。
特機たちと、普通の兵士が入り混じって、廊下の向こうに向かって銃を撃ち続けていた。
1号機と4号機はアサルトライフルを抱えてずっと撃ち続けていた。5号機は自分の体ほどの長さの有る対戦車ライフルを抱えて、侵攻してくる四本足の自動戦車の接合部を吹き飛ばしていた。
バリケード内には伊崎も居て、伝令に来た通信兵に命令を伝えていた。
「戦闘続行が不能になったら防衛シェルターに退却しろ。無用な死人を出すことは許さん。行け!」
伊崎が怒鳴ると、通信兵は頭を低くして小走りにかけていった。
「第三通路、第七通路も制圧された。このままでは後ろに回りこまれる」
伊崎は阿具に言った。
阿具は剣銃に弾を込めて、重いボディアーマーを外した。
「俺らがケツ持ちます」
「わかった。最後尾は阿具隊で、小橋隊から降順で、順次撤退せよ!」
伊崎が叫んだ。
「全弾撃ち尽せ!後のことは考えんな!俺がどうにかしてやる!」
阿具が怒鳴った。兵士達が一斉にバリケードから銃を撃ちながら後退し始めた。
「2号機!電子妖精射出!」
「了解、射出開始。有効妨害時間2,3秒」
2号機の言葉と同時に自動戦車の攻撃が一瞬緩やかになった。
特機隊以外の全兵士が一斉に走り出した。
「後は、頼んだ!」
伊崎が他の兵士達の最後尾について、走った。
角を曲がった先からは激しい銃撃が始まっていた。
廊下の向こうの自動戦車たちも制御を取り戻して、また激しい銃撃を始めた。
「隊長!他通路の自動機械に回り込まれます!」
3号機が悲鳴をあげた。
「3号機!資料室までの経路を上げろ!」
「資料室ですか!?」
「俺らは別の経路から脱出する!」
「了解!」
3号機は阿具に負けないくらいの声で叫んだ。
「1号機!後どれくらいだ!」
「このままだと17秒ほどで銃弾無くなります!」
1号機は抱えたライフルの引き金を引きっぱなしながら叫んだ。ライフルから物凄い勢いで、長い薬莢が廊下に転がり落ちていた。
「由梨!なんでテメェがいんだ!」
「ウルサイわね!アンタの肩の手当てしてたせいよ!」
「撃たれんなよ!」
「資料室までは、この廊下の中腹の回廊を通過するのが最短距離です!」
3号機が叫んだ。
銃撃を行いながら、全員が阿具の指示を待っていた。
背後の廊下のすぐそこまで、自動戦車の駆動音が近づいてきていた。
阿具は、風を切って剣銃を振った。
「突破する!俺が先頭で抑える、その間に全員回廊に突っ込め!」
「了解!」
全員が叫んだ。
「俺に弾当てんのは気にすんな!致命傷じゃなきゃ、許してやる!」
阿具が言うが早いか剣銃を握ってバリケードから飛び出した。
阿具は前と後ろ双方から降り注ぐ銃弾の中を、信じられない速度で突き進んでいった。
最後の一歩の跳躍で、阿具は自動戦車の隊列のど真ん中に飛び込んだ。
「走れ!」
阿具が怒鳴った。
自動戦車の制御装置は、突如、近距離に現れた目標に一瞬反応が遅れた。
方向転換しようとした二機が叩き潰されて、照準を合せかけた一機が真っ二つにされた。
阿具は全員が回廊に駆け込んだのを確認しながら、更にもう一機を斬り捨てた。
「手応えのねぇ…」
阿具は呟きながら、銃撃を逃れて廊下を転がった。
そして、回廊に飛び込んだ。
特機達は、倉庫の中に走り込むと、ぜいぜいと息を吐いた。
最後に、由梨をお姫様抱っこした阿具が入って来ると、1号機が扉を閉めた。
「体力ねぇぞお前ら。特にテメェ!」
阿具は腕の中の由梨に怒鳴った。
由梨は汗だくで眼鏡が曇っていた。由梨は何か言おうとしてぱくぱくと口を動かしたが、上がった息の中でそれは声にならなかった。
阿具はため息を吐くと、由梨を傍のダンボール箱の上に下ろした。
「あと半分くらいだ。1分休憩したら行くぞ」
了解。とそれぞれが、小さな声で言った。
「聞こえねえぞ!」
「了解!」
やけくそで全員が答えた。
「良し!」
阿具は言うと煙草をくわえた。
「これって、クーデターなんでしょうか?」
1号機がぽつりと言った。
1号機は特機たちの中では、もっとも体力を温存しているようだった。
「かもな。機械虫の仕業じゃあねえだろう。テロか、クーデターか、どっちかだ」
阿具は倉庫の壁の収納の鍵を剣銃で壊した。
「第三方面隊が、クーデターを起こした…?」
1号機は呟いた。
「かもな。5号機、対戦車ライフルは俺が持つ」
阿具は戸棚からアサルトライフルを1挺取り出した。
それから各部を点検すると、酷く疲れた様子の5号機に手渡した。
「クーデターです。間違い無く」
2号機が言った。
「なんでわかる?」
「国営放送のラインだけ生きてたんです。それで、今しがた声明が発表されました」
2号機は携帯端末と自分の首の後ろの端子を繋いだ。
『…我々は全ての都市機能と、行政機関を制圧した。我々の目的は唯一つ、ゼロポイントへの派兵だ。過ぎたテクノロジーの脅威を叫ぶ前に、我々は自らの現状を知るべきだ。このままでは人類は滅びる。我々は早急に、ゼロポイントへの派兵を行う』
音声のみの放送は、後は繰り返されるのみだった。
阿具は無言で、壁を叩いた。
「ゼロポイント、過ぎたテクノロジー…?」
3号機は阿具に向かって言った。
「ゼロポイントってのは、銀河の輪の中心にある何も無い地帯の中心のこった」
阿具は静かに言った。
「でも、それって。ただのオカルトでしょう?ゼロポイントには人工衛星が有って、太古に栄えた人類の作った、莫大なテクノロジーの遺産が残っている」
由梨が起き上がって言った。
「有るんだよ」
阿具は大きく煙を吐き出すと、壁に寄りかかった。
「前の戦争の原因だからな」
「何か知っているの?」
由梨は目つきを鋭くした。
阿具は受け流すように、そっぽを向いた。
「おかしいだろ?辺境の小さな国でしかなかった蓬莱が、何で連合国を相手に出来る程度の軍事力を付けれた?」
阿具は煙草を落として、足で踏み消した。
「…その遺産を手に入れたってコトですか」
2号機が言った。
「その後、戦争がはじまって、蓬莱は更にテクノロジーを手に入れるため、ゼロポイントに2度目の探索隊を差し向けた。もっとも、探索隊が出て直ぐ戦争は終わった。そして探索隊は戻ってこなかった。かわりに、機械虫が襲来した」
「…まさか機械虫って!」
由梨が大きな声を上げた。
「止めねぇと。今の事態より、最悪のコトが起きる前にな」
阿具が言うと、全員が頷いて、立ち上がった。
「でも、何で少尉殿がそんなこと知ってるんでありますか?」
1号機がいった。
阿具の表情が一瞬曇ったのを、由梨は見逃さなかった。
「言っただろ?俺は旧蓬莱の軍人だったって」
「あ、なるほど」
1号機が頷いた。
「とにかく、基地を脱出して、都市機能を回復させる」
阿具が剣銃を振った。
「了解!」
全員が敬礼して言った。
由梨だけが、じっと阿具に遠い視線を投げかけていた。
5号機は対戦車ライフルを扉に向けた。
ドン、と低く鈍い音が響いた。資料室の扉が吹き飛んだ。
「開きましたわ!」
5号機が、背後で自動戦車と応戦している阿具達に叫んだ。
「全員中に入れ!」
最前列で剣銃を振り回していた阿具が怒鳴った。
5号機が駆け込み、他のものも銃を撃ちながら扉に向かった。
「由梨!」
阿具は背中にしがみついている由梨に言った。
「なに!」
「テメェに副長を任せる!資料室の左奥の床を外すと、地下に続く通路が有る!」
「はぁ!?何言ってんのよ!」
「真っ直ぐだ。ひたすら真っ直ぐ言って、他の通路や部屋に入るんじゃねえぞ!」
阿具がかがむのと同時に、戦車砲が火を噴いた。
壁が一瞬で吹き飛んで、埃が舞い上がった。
「扉の認証コードは、”天使の舞う空”だ!」
「アンタ置いていけって訳!?」
「この基地ほっといたら、孤立した部隊が全滅すんだろうが!」
阿具が剣銃を振り下ろした。自動戦車の脚部が吹き飛んだ。
「…わかった。京一郎、死なないでよ!」
「死ぬかよ!降りてとっとと行け!」
由梨が阿具の背中から飛び降りて、扉に走った。
阿具は由梨が降りると同時に、猛烈な勢いで剣を振り回し、銃弾を撒き散らした。
鉄のひしゃげる音と、銃声と戦車砲の音、爆発音が廊下に響き渡った。
阿具は戦いながら、由梨が資料室に駆け込むのを見て、ニヤリと笑った。
「久々に、楽しく戦争できそうだ」
呟いて、阿具は上段から剣銃を振り下ろした。
すさまじい衝撃音がして、廊下にヒビが入り、自動戦車が叩き潰された。
ただ、絶えることのない自動戦車の駆動音が、次々と聞こえてきていた。
「隊長殿、大丈夫でしょうか?」
1号機が心配そうに言った。
「大丈夫よ。京一郎は、今まで何度だってキツイ死地を切り抜けてるもん」
由梨は自分に言い聞かせるように言った。
由梨は眼前の、ぽっかりと口を開けている闇を睨みつけた。
地下道は果てしなく続いていた。
早足で移動していく少女らの、遥か上の天井で、ぼんやり灯りがゆれていた。無風で、地の底であるにも関わらず、空気は非常に清浄だった。
少女たちは、先頭の由梨にぴったりとついて歩いて行った。
大きな地下道からは、幾つも小さなわき道が生えていた。幾つもの扉がもう何年も開けるものも居ずに、閉じきられたまま、沈黙を守っていたようだった。
「…帝国時代の地下施設か何かなのかしらね」
由梨は、ひたすら前に続く闇に向って言った。
「かなり高い技術力です。電源が供給されていないのに、ここの設備、皆生きてます」
2号機は目を細めて言った。一瞬立ち止まって、隊列から遅れそうになって、2号機は慌てて早足に戻った。
「たいちょが言ってた、過ぎたるテクノロジーってのが本当だってワケか?」
4号機が薄気味悪そうにして言った。
「理論的には、出来ない技術じゃないと思う。でも実用化されてないと思う」
3号機が言った。
「その理論さえ、もしかしたら、他の人類の作ったものなのかもしれないわ」
由梨が言った。
全員が、得体の知れない、闇の中に潜む何かに怯えるように沈黙した。
「阿具京一郎とは一体何者なのか」
由梨が呟いた。
「由梨先生?」
1号機は由梨の背中を見た。由梨は止まらずに歩いて行く。
「おかしいじゃない。帝国時代の軍人が皆そんなコト知っているなら、どうして今まで公にならなかったの?」
「皆、口が固い、とか」
1号機が力の無い笑みを浮かべていった。
だが、誰もそれに反応せずに、1号機はしょんぼりして俯いた。
「或いは、阿具少尉が帝国時代、非常に重要なポジションに付いていた」
2号機は1号機を少し気にかけて静かに言った。
「当時、京一郎は16歳よ。新兵か、良くても二等兵。重要なポジションに付けるかしら?なにより、本当に京一郎は帝国時代に軍人だったのかしら…」
由梨は自分で言って、自分の言葉について考えた。
「由梨せんせぇ」
5号機が唐突に言って、立ち止まった。
「どうしたの?」
「あそこ、扉開いてますの」
5号機が指差した先の扉は、ぽっかりと口をあけていた。
「…行軍を重視すべきよね」
「そうですね」
1号機と由梨が互いに頷きあった。
「そうです。例えば、あそこに旧帝国やこの技術を解き明かす秘密が会っても」
2号機が目を鋭く輝かせながら言った。
”第一回探索隊の持ち帰った天使生体(以下ANG00)の蘇生は不可能。当研究班は、生体の軍事利用目的を視野に入れた天使生体の制作を開始した。23体の試作の後、ANG00の組成に極めて近い生体機械兵の作成に成功する”
由梨はそこまで読んで、ごくりと唾を飲んだ。
「由梨先生、何か有りました?」
1号機が後ろから声をかけた。
由梨は慌てて、端末をポケットに押し込んで、振り向いた。
「何も無いみたいね」
由梨は素っ気なく言った。
「そっちはどう?」
「えっと、人一人がちょうど入るくらいの大きなガラスの筒が有っただけであります」
「そう」
奥の部屋から、ぞろぞろと他の特機達も出て来た。
「たまたま開いていた部屋に入って何か有るというのも都合の良い話です」
2号機が明らかにがっかりして言った。
「行きましょう。これ以上時間を浪費できないもの」
由梨が言った。
「大丈夫?先生なんか顔色悪いけど」
4号機が行った。
由梨は答えずにつかつかと部屋を出て行った。
特機たちは、顔を見合わせた後、すぐにその後ろに従った。
地下道は遥かに真っ直ぐに続いていた。そして、1時間ほど行軍した所で、大きな隔壁にたどり着いた。幾つかの隔壁を越えると、下水道に出た。
「接続要求が来てます」
2号機が突然と言った。
「なに?」
由梨は首をかしげた。
「どうも、さっきの地下道は電波を遮断していたみたいですね」
「じゃなくて、接続要求?」
「妨害波が取り払われたみたいです。AFNが復旧したようですね」
「全軍ネットワークです」
2号機の言葉を3号機が補足した。
由梨はまだ怪訝そうな顔をしていた。
「通信兵は、通信デバイスが肉体内に埋め込んでありますから」
2号機は素っ気なく言った。
由梨は、なんとなく頷いた。
「わかった。繋いでちょうだい」
「はい。接続しました」
2号機は暫く黙ったまま見ていて、それからこつこつとこめかみをたたいた。
「どうやら、中央基地の駐屯部隊によって、首都中央が解放されたみたいです」
2号機が言うと、由梨は目を細めた。
「解放って。おもいっきり劣勢だったのに」
「わかりませんけど。阿具少尉が居ればどうにかなるような気もします」
「あなたにしては、随分と曖昧な判断じゃない?」
由梨は少し驚いて、2号機に言った。
「ふふ」
2号機は少し笑って、恥ずかしそうにその笑みを消した。
「でも、阿具さんなら、やってくれそう、そう思いませんか」
2号機が言った、他の特機たちも笑みを浮かべて頷いた。
「まあね。アイツ、なら」
由梨は小さな声で呟いた。
「とにかく、首都中央まで下水を通って行きましょう。3号機経路を出して」
「あそこです」
3号機はすぐに答えた。
3号機が指差した先には、上に続くはしごが有った。
「脱出地点が、中央公園の真下だったみたいです」
「そっか。中央基地から真っ直ぐに脱出してきたんだもんね」
1号機が行った。
「行きましょう。情報がどれだけ正確かわからないし、まだ基地を出てから1時間程度しか過ぎてないもの。上はきっとまだ戦場よ。各自警戒を怠らないこと!」
「了解!」
特機たちは銃に弾を装填しなおすと、ゆっくりとはしごに向かい始めた。
「ふぁあ」
阿具は眠たそうにあくびをすると、煙草をくわえなおした。
「阿具少尉、眠たそうっすね」
隣に装甲を脱いだばかりの香坂が座った。
香坂は顔中汗だくで、大きな頭から、湯気が立ち上っていた。
「暴れ足りねえんだよ」
阿具は言って、公園内をぐるりと見回した。
公園内は、待機中の軍人たちで溢れかえっていた。
「良く言いますよ。俺らの小隊が孤軍奮闘してるってのに、少尉一人で殆ど片付けちまうんすから」
「あのなぁ、俺ら人間だぞ。機械に負けるわきゃねえだろうがよ」
香坂は肩をすくめた。
「もう岩神隊長が、面目潰されたって面白くねえのなんのって」
「あのお嬢ちゃんが、そう言ってた?」
お嬢ちゃんという部分で香坂は恐ろしげに愛想笑いを浮かべた。
「言ってたわけじゃないんすけどね。もう少尉に助けられた後、岩神隊長顔真っ赤にして、ずっと口聞かないんすよ。あれはかなり怒ってたっすよ」
「軍隊内で、そういう競争意識は良くねえなぁ」
「そうっすよねえ」
香坂はため息混じりに呟いた。阿具は香坂に煙草をすすめて、香坂は煙草をくわえた。
「そういや、さっき通信兵に聞いたんすけど、結局クーデターに参加したのは第三方面隊の一部の連中だけみたいっすね」
「一部っていうと」
「第七特車隊と第六情報特隊らしいっす。そのニ隊も行方知れずらしいすけど」
香坂は豪快に煙を吐き出すと、答えない阿具の方を向いた。
「阿具少尉?」
阿具は答えずに空を指差した。香坂はその先に視線を向けた。
真っ直ぐ、空に向かって白い煙が5本延びていた。
「東草軍事宇宙港の方っすね」
「首謀者さえも、もう空の彼方に行っちまったかぁ」
阿具は立ち上がると、手をひさしにして目を細めた。
「って!あれクーデター起こした奴らっすか!?」
香坂は巨体を揺らして驚いた。
「軍事宇宙港からこのタイミングで他の誰が宇宙に行くんだよ」
「でも、宇宙行ってどうすんすか?」
「早急に、ゼロポイントに派兵したんだろうよ」
阿具は遠く消えていく飛行機雲を睨んでいた。
「なるほど、少数で一時的に首都機能を麻痺させてその間に宇宙へ」
香坂はやっと合点が行って頷いた。
「航宙海軍に連絡しねえと」
「無理です。OSC基地が破壊されたみたいですから」
「うぉ!」
香坂が大声を上げて、飛びのいた。
足元のマンホールから、2号機が顔だけを出していた。
「OSC?」
阿具が言った。
「惑星外通信基地です」
2号機の隣から3号機が顔を出した。
「必死に基地を脱出して、出てきたら戦闘終結は馬鹿っぽすぎます」
2号機が冷静に言った。
「いいから出て来いよ、不気味だから」
阿具が言うと、2号機がマンホールから這い出した。
それから3号機が出てきて、次々に特機達がマンホールから姿をあらわして、最後に由梨が1号機に引っ張られて出て来た。
「おかえり。遠足は楽しかったか?」
「遠足って」
1号機が苦笑を浮かべて言った。
「えっ!遠足だったのかよ!」
「ちがう」
2号機が4号機に冷静に言い返した。
「とにかく、引率の由梨先生にありがとうって言っておけ」
阿具がぜぇぜぇ言っている由梨を指差して言った。
「由梨せんせーありがとうございましたぁ!」
特機達が声を揃えて言った。
「はーい、皆、また行こうね!じゃねえ!」
由梨が声を上げた。
「こんなにあっさり終わって、何の意味が有って私たちはクソ長い地下道行軍してきたのよ!」
「いや、そう悲観すんなよ、由梨。意味は有った」
「なによ!」
「俺が思う存分暴れれた」
阿具はにやりと笑った。
全員が呆気にとられて、ぽかんと口を開けていた。
「阿具少尉一人で、4300撃破っす」
香坂が補足して言った。更に全員がぽかんと口を開けた。
「派手な市街戦が出来なかったのだけが悔いだな」
阿具が言った。かなりの長い沈黙が流れた。
「戦闘狂…」
由梨が呟いた。
「阿具少尉、OSC基地の残党狩りが始まるみたいっす」
香坂が自分の腕に付いた端末を見て言った。
香坂は頭を軽く下げると、自分の隊の走って行った。
「補給補助として、307輸送車にて移動しろと作戦指令が出てます」
2号機が言った。
「じゃ、お仕事すっかね。各員、307輸送車に搭乗せよ」
「了解!」
敬礼の後、特機たちは二列になって、307輸送車の方へ走って行った。
阿具は煙草を足元に投げ捨てると踏み消した。
「ねえ」
行こうとした阿具に由梨が言った。
「ん?」
「生体機械兵って、旧帝国の作ったものだったの?」
阿具は、ゆっくりと振り向いた。
「なんだって?」
「それさえも、過ぎたテクノロジーを模倣したものってこと?」
由梨は手元の端末を阿具に渡した。
「言っただろ、寄り道しねえで来いって」
「京一郎、やっぱり知ってたんだ」
「さあな」
阿具は妙に無表情に由梨を見据えた。
由梨はぐっと阿具を睨んだ。
「分からないことばっかりよ。知らないことが沢山有って、それらは複雑に絡み合ってる。でも、私に見えるのは表面ばっかりで、決定的な鍵が見付からない」
「知らなくたって、生きていけるさ。知らない方が、より上手く生きていける」
「京一郎」
由梨は言葉を失った。阿具の目は今までに見たことが無い程静かに、暗かった。
阿具は端末を握りつぶした。
「下手な好奇心なんて、悪い結果しか生まない」
阿具は言った。由梨は目を細めた。
「京一郎は、何処まで知ってるの?」
抑揚のつかない声で由梨は言った。
阿具は低く長いため息を吐いた。
「意に添わない死に方をしたくないなら、知るべきじゃない」
阿具は背を向けた。
「京一郎!教えてよ!」
「頼むよ、由梨」
阿具は急に静かに言った。
由梨は言葉を飲み込んだ。
「知らなかったことにしてくれ」
阿具は言うと、そのまま歩き去っていった。
由梨は、その背中が輸送車に消えるまで見つめていた。
由梨は、ポケットから、もう一つ端末を取り出した。
「一度知った以上、知らなかったことになんて、出来ないわよ」
由梨は呟いた。
由梨は移動が始まって、徐々に人の減り始めた公園の真ん中に立ち尽くしていた。
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