只者ではないと思われたくない

 秘書兼護衛のレッシュを伴って、リカルドが社長室のドアを開けると、例の部屋だった。


 例の部屋。扉のていを成したものをくぐると時々つながる不思議の部屋だ。

 二人とも何度か訪れているし、部屋で交流を温めている異世界の人達もいる。


「おや、二人そろってとはめずらしいな」


 部屋にいたのは王子の教育係にして護衛のアビと、軍人のキルギバートだ。


 アビの燃えるような赤髪と対照的に、キルギバートは鮮やかな銀髪で、こちらも目を引く。

 二人が並んでいることで互いに引き立て合っているようだなとリカルドは感じた。


「邪魔するぞー」

「邪魔などということはない」


 レッシュの軽い挨拶にキルギバートは穏やかに笑った。


 リカルド達もソファに座って、短い憩いの時を過ごすことにした。


 キルギバートと話していて、この青年はいわゆる堅物だなとリカルドは思う。端正な顔つきがますますそのイメージを膨らませているのもあるだろうが、軍の厳しい規律を守っているとみな彼のように「お堅い」人物になるのだろうか、などと考えた。


 そして、人を見る目があるとも思う。


 ここではリカルドは「貿易会社の社長」という肩書で通している。裏の顔であるマフィアの幹部ということは一切口にしていない。

 だがキルギバートはどうやらリカルドを「ただの社長ではない」と思っているようなのだ。


 職のこともだが、リカルドが異能者であることも武術を少しなりともたしなんでいることも一切口にしていないのに、そういった方面でも「只者ではない」と思われているらしい。


 リカルドが武力に訴える場面など訪れていないのになぜそう思うのだろうと興味はあったが、わざわざ自分から聞く気にもなれず少しだけ居心地が悪かった。


 コーヒーを飲みつつ、互いの近況を話すレッシュ達の楽しそうな言葉に耳を傾けて、リカルドはゆったりとソファに身を預けていた。


 だが。


 扉の方から嫌な気配がした。

 幾度となくこの雰囲気にさらされてきたので判る。よくないことが起ころうとしている。


 緊張の面持ちで扉を見る。


 レッシュ達も気配を感じ取ったらしく話を中断して腰を浮かせた。


 扉が勢いよく開き、どこの国かも判らないが軍服であろう服に身を包んだ三人の男が銃を手に部屋になだれ込んできた。


「おいおい、この部屋ってこういうのも来るのかよ」


 レッシュが悪態をつきながら男達とリカルドの間に立って身構える。

 キルギバートとアビも臨戦態勢だ。


「リカルドは隣のキッチンに」


 レッシュの言葉にうなずいて身を縮めながら移動する。もちろんレッシュはリカルドを守るようについてきた。


 二人がキッチンへと移動し終えた頃には、キルギとアビが男達を取り押さえたようだ。さすが戦うことを生業としている猛者だ。


「終わったぞ」


 呼ばれて、レッシュと共に部屋に戻る。


 襲撃者は二人も知らないそうだ。皆と同じようにたまたま作戦中にこの部屋につながったのかもしれない。だとしたらとんでもない不幸だ。


「よりによってキルギやアビがいるところに飛び込んできたんだもんな」


 レッシュが笑うのにリカルドもうなずいた。


「二人の退避も鮮やかなものだったな。彼らが入ってくる前に気づいていたようだし」


 キルギバートがレッシュと、リカルドを見て意味深に笑う。

 襲撃に気づいていたのはリカルドもだろう、と言いたげな目だ。


 なるほど、こういった些細な言動で「ただの社長ではない」と察せられていたのか。


 リカルドは納得して、苦笑と共に息をついた。


 彼のような優秀な男ならば、たとえ戦況が思わしくなくとも危機を乗り切るのだろうなとリカルドは思った。


 只者ではないと思われたくはない。


 だが彼となら死線を潜り抜けた話をするのも、悪くはなさそうだ。


 いつかそういう流れになったらもっと踏み込んだ話をしてみるのもいいかもしれないなと、リカルドは再びソファに座ってコーヒーを飲みながら、微笑した。



(了)



 お借りしたキャラ:U・W・キルギバート

 出展作品:「LION HEART ソラノシシ」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893365241

 作者様:INGEN 様


 お借りしたキャラ:アビ・ルーン

 出典作品:トゥーティリア王子の宿題

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885688485

 作者様:千石綾子 様

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