扉がつなぐ縁
「今日はもう寝るぞー」
自室の部屋を開けると同時にレッシュは思い切り自分に宣言した。
つもりだった。
「まぁそう言わないでー。せっかくきたんだからさ」
扉の向こうは例の部屋で、ミハイラがにこにこと笑いながらレッシュを出迎えていた。彼女は十代の快活な女性で、ヴァンパイアハンターだという。
彼女の後ろではソファに座って数名が談笑していたところのようで、皆レッシュを見て笑っている。
「あー、来ちまったか。ま、いいや」
レッシュも笑ってソファに座った。
「お仕事帰り? お疲れ様ー」
ミハイラがテーブルの上のワインを新しいグラスについでレッシュの前に置く。
「そ。今日もこき使われたぞ」
うなずいて、レッシュはグラスの中身をぐいとあおる。
「レッシュの上司ってリカルドよね」
「あぁ。仕事好きの社長のおかげで秘書は大変だ」
「レッシュって秘書? ボディガードかと思ってた」
「ボディガードも兼ねてるよ」
「ボディガードがメインで秘書も兼ねてるんじゃないの?」
「おいおい。あんたおれをどれだけ肉体派にしたいんだよ」
「実際肉体派じゃない。スーツ着てたって体のラインがガチ肉体派のくせに」
ミハイラの指摘に笑いが起こる。
レッシュもスーツよりラフな格好の方があっているし動きやすくていい、とは思っている。頭を掻いて「まぁそうだな」とうなずいた。
「そういうあんただって――」
改めてミハイラを見る。
均整の取れた体だというのが第一印象だ。それと共に、豊満な胸に目が行く。
戦いに携わる女性の胸が大きいのって邪魔にならないのかなと時々疑問に思うこともあるがさすがにそれを本人に尋ねるのははばかられる。
「肉体派以外の何物でもないだろ」
「だってわたしはヴァンパイアハンターだもん」
えっへんといわんばかりにミハイラは胸を張った。
「吸血鬼って危険なヤツなんだろう? よく戦えるよなぁ」
「そりゃ危ないけど、誰かが戦わないとあっという間にヴァンパだらけになっちゃうし」
それからミハイラはヴァンパイアについて話し始めた。
きっと生涯現役なんだろうなぁ。
いきいきと話すミハイラに、レッシュはそう思っていた。
そう思っていた次の日に、またこの部屋につながった。
が、レッシュの前にいるのは二十代のミハイラだった。
「おー、昨日ぶりなんだけど、なんか成長したな」
「あら、レッシュは昨日わたしに会ったの? わたしとしては久しぶりなんだけど」
顔が大人びたのはもちろんだが、体つきに少し丸みを帯びたな、とレッシュはミハイラを見て驚いていた。
「うん? なに?」
「あー、いや。そっちは元気してんのか? ヴァンパイアハンター、まだやってんの?」
もしまだ続けているとするなら、何か新しい武器が開発されて、さほど体を鍛えなくとも務まるものなのかなとレッシュは考えていた。
が、ミハイラの返答はレッシュの想定の斜め上をいっていた。
「引退したのよ。だってこっちの世界にヴァンパいないんだもん」
「……へ?」
一気に頭の上にクエスチョンマークが飛び交った。
「あははっ、みんなと同じ反応ね。わたし、異世界に行って結婚したのよ」
「……はっ?」
「レッシュ驚きすぎ」
大笑いされた。
「いや、そりゃ驚くだろ。昨日のあんたは十代でヴァンパイアハンターだったんだぞ。しかも異世界って。もしかしてこの部屋経由?」
「そうなのー。素敵な部屋ね、ここ」
ミハイラはウィンクしてみせた。
「いろいろと不思議な部屋だけど、ついに、カップルまで生み出しやがった」
もう笑うしかない。
「レッシュももしかしたらこの部屋でいい
レッシュにはリサというカノジョがいるが、最近はすれ違いが多い。
この部屋で知り合ってレッシュの素性を知りつつも付き合ってくれる、などという物好きな女性がいるなら、まぁそういうのもありなのかもな、とレッシュはぼんやりと考えていた。
(了)
お借りしたキャラ:ミハイラ
出典作品:ぱらいそ・ヴァンパイア
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884102677
作者様:千石綾子 様
お借りしたキャラ:ミハイラ
出展作品:「LION HEART ソラノシシ」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893365241
作者様:INGEN 様
※ 「LION HEART ソラノシシ」に登場するミハイラは「不思議の部屋」経由ではありません(笑)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます