扉よ扉
御剣ひかる
扉の中は不思議の部屋
ようこそ、不思議の部屋へ
いつものように、扉を開ける。
玄関、自室、オフィス、店舗。
カーテンや、テントの天幕などというのも、内と外を分けるという意味では、強引に扉の部類に入れてもいいのかもしれない。
当人にとっては生活空間であり、その扉の先には見慣れた風景が広がっている、はずだった。
「なんだ、ここ?」
「部屋間違えた?」
ある日突然、扉の先が見慣れたはずの風景が、見知らぬ部屋になっていたら?
そして同じように、見知らぬ人達がやってきたら?
初めは警戒し、ぎこちないやりとりをする彼らも、何度かそのような体験をすると不思議と慣れてくる。
その、ふいに繋がる見知らぬ空間が、やがて彼らの日常の一部になる。
部屋に迷い込む人達は、そこを「不思議の部屋」「例の部屋」と名付け、慣れ親しんだ。
本来なら会うこともない異世界、異次元、過去、未来の人達との、ひと時のコミュニケーションを楽しむようになる。
時として、不思議の部屋はちょっとしたイタズラをする。
部屋の広さが、様子が、変わっていたり。
時には部屋ではなく洞窟であったり、だだっ広い空間であったり。
それでも常連となった者達は、いつものあの部屋だと気付く。
そしてすっかり順応した彼らは、親しくなった相手の世界にも行き来するようになっていく。
「あれ? なに? ここ」
部屋に入るなり驚き顔で辺りを見回す新入りに、彼らは挨拶する。
「よぅ、おはつ」
「まぁそんなに警戒してないで、こっちきてお茶でもいかが?」
――ようこそ、不思議の部屋へ。
しかし、彼らも気付いていないことがある。
部屋を通じて行き来を繰り返し、親睦を深めることで、ゆっくりと時間や空間をゆがめ、彼らの世界をより密接に結びつけていっていることに。
本来、自分達がたどるであろう道筋にも、影響があらわれるかもしれないことに。
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