これは2018年に書かれた作品である。
若者たちから見たリアルな日韓関係のお話です。
実は私は日韓のことはSNSで知る知識のみ、特に歴史に詳しいわけではないし、なんとなく韓国の反日教育のせいで嫌われているな。そして嫌韓も存在する。その程度で韓国に対してこれ以上考えたくなくて思考停止状態でした。だからこの手のお話は正直苦手なのですが、思いがけず読むことになり、千石杏香さんの、視点、文章力、構成力に引き込まれ、仕事の合間ですがゆっくり最後まで読み進めることができました☆最後にわかる題名「すしプロ」なるほどね!
この物語は、デリケートな部分をどちらにも偏ることなくリアルに、時にはユーモアに淡々と物語は進んでいきます。
女子高生の司
韓国女性
嫌韓の日本人の誠
アニオタの韓国人
左翼組織
途中から、一体私たちは誰に怒り、闘っているのか、とわからなくなり。最後は、感動しました☆
何も変わらないかもしれないが、変わるかもしれない。そんな蛍のような温かい光が灯るといいなと思える作品です☆
この物語は決して日韓問題を解決しようと言う物語でもなければ、どちらかの国を擁護した物語でもありません。ただ、作者様の知り得る限りピースを集め、それを物語として落とし込んだ作品です。
決して押しつけがましい教科書ではなく、あくまでエンターテイメント作品です。
なのでこの物語が日韓問題のすべてではありません。
韓国人の方が読んでも、日本人の方が読んでも、この物語ですべてを理解する事は出来ません。何故なら、育った国も、育った年代も、育った環境も、すべてが違うのですから。
ならばこの物語は日韓関係に関係のない、意味のない物語なのか?
それも違います。
物語を読み進めれば、日韓関係の一側面を知る事が出来ます。
それが大切なんです。
違う国だからではなく、たとえ同じ国であっても、人と人とがわかり合うにはまず知る事が必要です。
意気投合する所もあるでしょう。イヤな所もあるでしょう。それが、人と人との付き合い方です。
正直、私も韓国を好きではありません。
しかし、日本人の考えも韓国人の考えも興味があります。
それはとても多角的です。日本人でも考え方が違うように、韓国人だって考え方は千差万別です。
そんな千差万別の思想の元で繰り広げられるこの作品は、日韓関係に客観的なメスを入れる物語なのではないでしょうか?
世間を騒がせる日韓問題。
果たしてこの問題を私たちはどの程度理解しているのだろうか?
その問題をきっと私たちと同程度の知識しかない女子高生、司の視点で語ってくれるので大変読みやすくわかりやすい。
この物語はそんな疑問に一定の解答を見せ、かつ無際限に広がる問題を提示してくれます。
物語は重めのテーマを多分に含んだものです。しかし当作品は問題だけを取り扱ったものではありません。エンターテイメントとしても一級品です。
まず喜怒哀楽の感情に、温度を乗せるのがとても上手いなと感じました。
序盤にブッ込んできた誠と念仁の出会いは強烈です。互いの偏見や嫌悪を交えての罵り合いから、アニメを通じて一定の理解を見せるシーンはシビれました。
どうにもうまく立ち行かない友人との関係、衝突。ふっと現れたタイトル回収のタイミングも秀逸。一見なんともないように見えるタイトルですが、この悩みが表出した時の司の胸中を思うと「ああ、本当に司はどうしようもなくてネットに助けを求めたんだな……」と感じられて涙がこみ上げてきます。
当テーマが扱う問題は我々は日本という国に住む以上、他人ごとではいられません。ぜひとも皆さんにお手に取っていただきたい物語です。
正直に言ってしまうと、私は最初この作品を読むことにやや抵抗がありました。デリケートな問題ゆえ一体どのように扱っているのか……しかし読みもしないで離れるのはいやで、拝読させて頂いた上で苦手ならそっと離れようと決めました。
読ませて頂き、大変感服しました。
とても読み手側のことを考えながら試行錯誤をしてくださったのでしょう。難しい問題をいかに分かりやすく伝えるか。でも現実問題として軽くなりすぎはせず、真剣に。そこを丁寧に、言い回しや言葉遣いをしっかりと考えながら書いておられる作品で、本当に感動します。なによりデリケートな話題に真正面から向き合ってくださり、こうして様々な方に少しでも伝えようと努力してくださるその強さに心から感謝します。
きっと私のようにタイトルだけで苦手意識を抱いてしまう方が少なからずいるのではないでしょうか?
確かに心にくる部分もあります。実際に、読ませて頂いた私も多々あります。
けれど、休憩しながらでも良いので目を通してみてください。物語の中に、現実はあります。
私はこの作品に出会えて視野が広がりました。元々苦手意識があった話題ゆえに気持ちの整理をしながらゆっくりと読ませて頂いたのですが、丁寧に考えて構成してくださった文章のお陰で最後まできちんと向き合わせて頂けました。そして改めてこの作品の深さ、真剣さ、ひたむきさに感服致しました。出会えて良かった作品です!本当にありがとうございます!
日本と韓国。
近いけど遠い両国の間には未だ埋められない溝があります。
これには過去の問題だけでなく、この関係を利用している政治問題も深く絡んでいます。
テレビやネットでは今でもお互いの国を罵る動画や記事が上がってきている。
Youtubeやツイッターといった、同じサイトを使っていても、
日韓が別れただけで情報の内容は天と地ほどの差ができます。
そんな激流の中に、私たちは生きてます。
情報が混在し、国を挙げて情報の波を誘導している。
お互いの国は、国民たちを確証バイアスの思考に誘導しているのです。
ただ、この作品は違う。
様々な問題が混在する中、今を生きようとする私たちの物語です。
日韓関係に対してもう一度考えさせる作品とも言えるでしょう。
まだ読んでる途中ですが、
この小さな光が、希望の灯火になれることを期待します。
나라가 아닌 사람으로써, 서로가 서로를 이해할 수 있는 그때를 기다리며
国ではなく人として、互いが互いを理解できるその時を待ちながら
日々険悪になっているように報道される日韓関係ーー
韓国の女子大学生・金熾子(キムチジャ)は、日本留学を控えていた。向こうには、インターネットを通じて知り合った女子高校生・司(つかさ)がいる。熾子は会えるのを楽しみにしていた。出国直前、熾子は、韓国でも「嫌われもの」の極右サイト・イルぺで、コスプレをしているアニオタ男性の写真を目にする。それは彼女の恋人・朴念仁(パクヨミン)だった。激怒した熾子は、念仁のアパートに怒鳴り込む。喧嘩別れをした彼女は、念仁から「キムチ女!」と罵声を浴びせられる。
その日から、熾子は赤毛、赤眼となり、身体からはキムチの匂いがするようになった。
リアルで司と会った熾子だが、司には、玉子という「韓国嫌い」な友人がいた。
自分の好きなアニメ『まほつゆ』の聖地・秋葉原へやって来た念仁は、「朝鮮人は日本から出て行け」という右川誠と出会う。反発し合う二人だが、同じアニメの大ファンだと分かり、意気投合する。「日韓国交断絶」を掲げる二人は、やがて『嫌韓デモ』へと参加する。
かつて革命を目指した過激組織「日本労農紅軍」だが、六十年が経過して組織は高齢化していた。崇高な理想社会の実現はおろか、社会から全く顧みられなくなっていることに、幹部・澤猟人は口惜しい思いを抱えていた。「退却戦」を考える猟人は、ネット上で『嫌韓デモ』の計画を知る。
産まれも育った文化も年齢性別も違う人々が、一つの舞台で衝突するとき、どんな事件が起こるのかーー。
◇◆◇
当初は、登場人物たちの名前や奇抜なファッション、やや過激な言動を、笑いながら拝読していました。読み進めるうちに私の顔からは笑みが消え、真剣に考え込むようになっていました。
「この人達は、いったい何に腹を立てているのだろう?」と思ったからです。
本作品には、他人をカテゴライズする用語が多数登場します。日本人、韓国人、極右、極左、ネトウヨ、キムチ女、寿司女、在日、共産主義、レイシスト、嫌韓……。良い意味も悪い意味もあります。相手をカテゴライズして警戒したり罵ったりする場面を読むうちに、それらの語が正確に何をあらわしているのか、私には分からなくなりました。使う人物によって微妙に意味が異なり、各個人に都合よく解釈されている概念だからです。
また、ある人物の極右思想が、元を正せば人格に問題のある教師に迫害された恨みであったり(要するに八つ当たり)、熾子が嫌われた理由も彼女個人にはなく、単なる嫉妬だったりします。
『怒りは麻薬』という言葉が登場しますが、登場人物の多くが、まさに〈怒り〉に酩酊している印象をうけました。この状況は改善するのか、皆が怒りから醒めることはあるのか……ハラハラしながら拝読しましたので、結末には心から安堵させていただきました。
社会心理学的には、差別や妬みの感情は「自分により近いもの」に対して生じ、かけ離れた存在には生じません。ナチスがユダヤ人に『星』をつけさせたのは、そうしないと見分けがつかなかったからであり、日本人ー韓国人が互いを差別するのは、それだけ私たちが「近い」という証でもあります。
けれども、私たち個人は(同国人、同じ文化的基盤をもっていても)一人として同じではなく、その差異を認め尊重することなしに、良好な関係を築くことは難しいのです。
コメディであっても、現代社会の難しい問題に取り組まれた作者さまに、敬意を表します。
何より、この作品が日韓交流サイトに集う人々によって創作されたことに、希望を感じました。
例え国同士が対立していても、個人レベルでなら仲良くできる。
国家のあり方について何らかの特別な思想の持ち主でなければ、漠然とそう考える人は多いのではないでしょうか。
でも、物事はそんなに単純ではありません。
今もそこかしこに火種の蔓延る日韓関係の中で、日本人と韓国人は友情を結べるのか。
その問題をとてもリアルに、なおかつ読みやすいトラジコメディとして描いているのがこの作品です。
お話は、主に三つの視点から語られていきます。
日本の女子高生・司と、韓国人留学生の熾子。
熾子の元彼の韓国人アニヲタ・念仁と、激しい反韓感情を持つ日本人アニヲタ・誠。
そして左翼組織の長であり、今も水面下で活動を続ける猟人とその仲間たち。
この三つが入れ替わりで展開することで「日韓の対立」の問題点を様々な方向から見ることができるという、巧みな構成になっています。
互いに仲良くしたいのに、文化的背景が障壁となり行き違ってしまう司と熾子。
互いに日韓断交を強く望みながらも、意気投合して何だか仲良くなっている念仁と誠。
この二視点は好対照的に、私たちの身近なところから日韓問題に切り込んでいます。
対して猟人たちの視点では、血生臭い武力斗争の記憶と機運がリアルに綴られていきます。
こうした問題を語る上で、切っても切れない政治的思想。その歴史の延長線上にある現在の状況。
どうあっても越えられない壁が存在するのだという事実を、否が応でも突き付けられるのです。
様々な思いが交錯する中での日韓断交デモ。起こるべくして起こった悲劇。
それぞれの登場人物が行き着いた、自分の中にある「真の想い」とは。
日韓の壁は、決してなくなることはないのだと思います。
個人同士で交流するのであっても、文化の違いや歴史的背景を完全に排除して付き合うことは不可能です。
でも、同じ食べ物を美味しいと感じるかもしれない。同じアニメを楽しめるかもしれない。
「嫌い」ではなくて「好き」の気持ちであれば、共にできるかもしれない。
この作品を拝読して、そんな希望を感じました。
とても素晴らしい物語でした。クライマックスでは泣けました。本当に面白かったです。
もっと多くの方に読まれますように。
戦艦を美少女化したり、都道府県を萌え化したり……とどまるところを知らない萌えキャラ化ブーム。そんな中、この作品でキャラ化しているのは「寿司女」と「キムチ女」――日本人と韓国人の女の子のイメージを誇張したネットスラング(の概念)です。
あるサイトで人気を博した「寿司女やキムチ女を萌えキャラクター化しよう」という企画から誕生した「寿司女PROJECT」。通称「すしプロ」が作品タイトルの由来になっています(寿司女は日本人女性を揶揄する言葉のように誤解されることがありますが、それはむしろ美化されたイメージであることが、この作品を読むと分かります)。
精緻な文章によって描かれる、リアルな都市の情景。
その中にひょっこり、頭に海老を載せた女子高生・寿司(ことぶき・つかさ)や韓紅の髪を持つ留学生・金熾子(キム・チヂャ)が混じっているのが、何とも可愛らしく、おかしいんですが……描かれているのは、リアルで、繊細な人間関係でもあります。
個人としては友達になりたいのに、仲良くできない。
そこに横たわっている民族の問題。メディアを通して歪むお互いのイメージ。
司と熾子だけでなく、この作品に登場するキャラクターたちは皆、何か悩みや心の傷を抱えています。厭だ、悲しい、自分の人生は価値あるものだと信じたい。誰もが共感しうるそうした個人的な感情が、ナショナリズムと結びつくことで、事態がこじれていく。
失おうとしている友達、別れた恋人たち。彼らはそれぞれの思いを胸に、ある日、ある時の秋葉原に向かうのですが。そこでは群衆を標的とするテロが計画されていて――。
作者さんは、ある「時」を設定し、そこに向かう人々のドラマを描くのが上手です。
リアルに書こうとすれば、笑えないことも多い日韓関係。それを大きな知性とユーモアで包み、コミカルに、丁寧にカリカチュアしている、異色の名作だと思います。
ぜひ先入観抜きで読んでみてください。
タイトルは『すしプロ』
主人公は日本を知るために留学してきた韓国人大学生と、韓国にネガティブなイメージを持つ女子高生。
タイトルとあらすじを拝読し、仕事に関する小説か、青春ジャンルの作品だと思っていました。
韓国語で書かれているセリフも新鮮に感じました。
読み進めるうちに、日韓問題を含む日本の外交や、反日や政治に関することが詳細に描かれていて、これはじっくり拝読するべき作品だと思いました。
私は社会問題に疎いので、韓国に対して特別な感情は抱いていません。
正直、様々な民族問題も作品を通じて知ったほどです。
この作品を通じて著者様が読者に投げかけている問題。
果たして『対立』なのか『友好』なのか。
どうすれば双方が歩み寄れるのか。
個人的な意見とすれば、隣国との対立は望まない。友好を願いますね。
平和な世界であって欲しいと。
それだけを願います。
(XII よし――分かった まで拝読後のレビュー)
キムチ女と寿司女。韓国女性と日本女性のことらしいのですが……
彼氏と喧嘩別れしたことがきっかけかどうなのか、体からキムチ臭が漂うようになった熾子と、流行しているからという理由でエビを頭にのっけている女子高生・司(フルネームは寿司ことぶきつかさ)を中心に、友達は厚焼き卵を乗せた玉子と白身魚を乗せた代美に、カタコトの日本語をわざと使う中国人留学生が登場する。これに濃いアニメおたく二人と怪しい組織が加わって……
なぜ、頭に寿司ネタ……という、細かいことは気にしないとして。
自分だったら、サーモンかな……、いや、イクラか……、マグロはハードルが高いんだろうか……と、思うけれど。
差別や偏見、思い込みや無知が交錯するのだが、読みやすい文章でテンポよく、軽快な会話を中心に展開していく作品。ちょっと重くて難しい、ややこしい話は読みたくないなー、大丈夫かなー…と、躊躇してしまうのだが、読みだすと、するすると頭に入っていき、気づけば読了しているといった印象です。
果たして、国が嫌いなのか、政府が嫌いなのか、国民が、民族が、性別、年代……、いやもう、個人の問題でしょ……と思いながらのもやもやを抱えつつ、うやむやにせずに真剣に向き合おうとするが……、憑りつかれたような混乱に巻き込まれて……、と濃い内容をスピード感いっぱいで突き進むストーリー。
嫌う理由は多々あれど。仲良くする理由を言葉にするのは難しいのかもしれませんね。しかし、友情は芽生えるものです。気づけば仲良し。
ラスト、見事な伏線回収も面白い。
寿司が食べたくなる作品(キムチも食べたいけど)。あと、お酒には注意。
人は皆、理想を追い求め生きている。
友情、思想、男女関係・・・時にそれは他者との「対立」を生み出す。
本作は日韓2人の女の子の交流を中心とした理想を追い求める人々の「対立」を描いた群像劇である。
クライマックスで人々の想いはクラッシュする。ギリギリの状況で人々の心は自らに何を訴えかけ、何が生まれるのか。
自らの想いを抱き生きる人々の姿をコミカル且つアイロニカルに描き出し、ヘヴィなテーマをエンターテインメントとして纏め上げた本作は、作者の力量を充分に感じられる必読の価値がある作品である。
今、嫌韓本を買いに行こうと思っている貴方、まず先にこの作品を読んでみることをお薦めします。そんな事何も考えていないという貴方にも勿論お薦めします。
この作品、ちょっと変わった出だしから始まり、しかも日韓問題を扱っているので、はたして自分に読みこなせるのか、問題作だったりしないのか、ドキドキハラハラしつつ読み始めました。
合うか合わないか、読みこなせるかどうか、読んだ後にどんな感想を抱くかは、かなりばらつきがあるかも知れません。
でも私は、最後まで読んで良かったと思いました。
前作『神送りの夜』を読んだ方ならわかると思いますが、筆力は圧倒的です。今作も二十万字ありますが、まったく破綻なく、美しくラストに着地します。
どのキャラもとてもリアリティがあり、激しい会話の応酬で、それぞれの信条が絡み合うさまは見事。
力不足でこの作品の魅力をうまくまとめられませんが、興味のある方は是非! の一作です。