決して越えられない日韓の壁に、小さな扉を作ることならできるかもしれない

例え国同士が対立していても、個人レベルでなら仲良くできる。
国家のあり方について何らかの特別な思想の持ち主でなければ、漠然とそう考える人は多いのではないでしょうか。
でも、物事はそんなに単純ではありません。
今もそこかしこに火種の蔓延る日韓関係の中で、日本人と韓国人は友情を結べるのか。
その問題をとてもリアルに、なおかつ読みやすいトラジコメディとして描いているのがこの作品です。

お話は、主に三つの視点から語られていきます。
日本の女子高生・司と、韓国人留学生の熾子。
熾子の元彼の韓国人アニヲタ・念仁と、激しい反韓感情を持つ日本人アニヲタ・誠。
そして左翼組織の長であり、今も水面下で活動を続ける猟人とその仲間たち。
この三つが入れ替わりで展開することで「日韓の対立」の問題点を様々な方向から見ることができるという、巧みな構成になっています。

互いに仲良くしたいのに、文化的背景が障壁となり行き違ってしまう司と熾子。
互いに日韓断交を強く望みながらも、意気投合して何だか仲良くなっている念仁と誠。
この二視点は好対照的に、私たちの身近なところから日韓問題に切り込んでいます。

対して猟人たちの視点では、血生臭い武力斗争の記憶と機運がリアルに綴られていきます。
こうした問題を語る上で、切っても切れない政治的思想。その歴史の延長線上にある現在の状況。
どうあっても越えられない壁が存在するのだという事実を、否が応でも突き付けられるのです。

様々な思いが交錯する中での日韓断交デモ。起こるべくして起こった悲劇。
それぞれの登場人物が行き着いた、自分の中にある「真の想い」とは。

日韓の壁は、決してなくなることはないのだと思います。
個人同士で交流するのであっても、文化の違いや歴史的背景を完全に排除して付き合うことは不可能です。
でも、同じ食べ物を美味しいと感じるかもしれない。同じアニメを楽しめるかもしれない。
「嫌い」ではなくて「好き」の気持ちであれば、共にできるかもしれない。
この作品を拝読して、そんな希望を感じました。

とても素晴らしい物語でした。クライマックスでは泣けました。本当に面白かったです。
もっと多くの方に読まれますように。

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