戦場と化す秋葉原。その「時」に向かう人々のドラマを描く

戦艦を美少女化したり、都道府県を萌え化したり……とどまるところを知らない萌えキャラ化ブーム。そんな中、この作品でキャラ化しているのは「寿司女」と「キムチ女」――日本人と韓国人の女の子のイメージを誇張したネットスラング(の概念)です。

あるサイトで人気を博した「寿司女やキムチ女を萌えキャラクター化しよう」という企画から誕生した「寿司女PROJECT」。通称「すしプロ」が作品タイトルの由来になっています(寿司女は日本人女性を揶揄する言葉のように誤解されることがありますが、それはむしろ美化されたイメージであることが、この作品を読むと分かります)。

精緻な文章によって描かれる、リアルな都市の情景。

その中にひょっこり、頭に海老を載せた女子高生・寿司(ことぶき・つかさ)や韓紅の髪を持つ留学生・金熾子(キム・チヂャ)が混じっているのが、何とも可愛らしく、おかしいんですが……描かれているのは、リアルで、繊細な人間関係でもあります。

個人としては友達になりたいのに、仲良くできない。

そこに横たわっている民族の問題。メディアを通して歪むお互いのイメージ。

司と熾子だけでなく、この作品に登場するキャラクターたちは皆、何か悩みや心の傷を抱えています。厭だ、悲しい、自分の人生は価値あるものだと信じたい。誰もが共感しうるそうした個人的な感情が、ナショナリズムと結びつくことで、事態がこじれていく。

失おうとしている友達、別れた恋人たち。彼らはそれぞれの思いを胸に、ある日、ある時の秋葉原に向かうのですが。そこでは群衆を標的とするテロが計画されていて――。

作者さんは、ある「時」を設定し、そこに向かう人々のドラマを描くのが上手です。

リアルに書こうとすれば、笑えないことも多い日韓関係。それを大きな知性とユーモアで包み、コミカルに、丁寧にカリカチュアしている、異色の名作だと思います。

ぜひ先入観抜きで読んでみてください。

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