イトアカ

橋本一樹

第1話 電車

足取りは重く、胸は苦しい。

人身事故がどうして起こるのか、分かる気がした。


目の前を、鉄の塊が無表情に通り過ぎる。

殺人的な速度で。


急行という名の死刑執行者だ。

そして駄目押しの様な突風。

背中を押されている感覚は健常者でも精神疾患者でも関係無く、感じる筈だ。


「 駄目だなぁ 」


言葉が口から出る。

完全に弱っている証拠だ。

心に押さえ込む事が不可能みたいだ。


このままだと本当に線路に飛び込みそうなので、ホームの先まで歩く事にした。

もし、飛び込んでも電車は僕を轢く事なく止まる筈だ。


「 バカだ 」


また声が出てしまう。

そこまで考える人間は、自殺はしない。

生きたいから計算して、ホームの先まで行く訳だから。


案の定、僕は飛び込まず電車に乗り込んだ。


サラリーマンや学生。

乗車している人は様々。

皆、視線など合わさず自分の世界に生きている。

携帯を見たり、小説を読んだり。音楽を聴いたり。


電車は苦手だ。


移動する手段がたまたま一緒なだけで、皆が他の人を怪訝に思っている。

そんな空間。


息が詰まる。

逃げ出したい。

誰も話す事はしない。

無音より無音で。でも完全な無音ではなく、羽虫が飛び回る様な嫌らしさが

たまらく苦手だ。


早く目的地に着かないかな。

と考える僕は、どこまで卑怯な気がして死にたくなった。



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