第5話 彼女
公園には既に彼女が待っていた。
夏も終わり、今は秋だが夜はやはり肌寒い。
後ろ姿だが、凍えている様に見え、抱き締めたくなる。
そんな事、許される訳も無いのに。
キザな事ばかり頭で描いてしまう。
男という幼稚な生き物だから仕方ないのか、僕が大馬鹿野郎だからなのか。
どっちにしろ答えはない。
「 前田さん 」
公園の入口で彼女の名を呼ぶ。
彼女は聞こえている筈なのに振り返らない。
いや、振り返れないのかもしれない。
僕は彼女に近付き、それが確信に変わった。
凍えている様に見えた後ろ姿は、凍えている訳ではなく、泣いていた。
泣いていたのだ。
長い髪で顔を隠している前田さん。
泣いているのは直ぐにわかった。
髪の間から見える、白い頬が濡れてた。
涙が溢れて、流れていた。
こんな時、ハンカチでも出せれば良いのだけど流れる涙を止めれないなら意味が無い。
ハンカチを渡すだけ罪が重なるだけ。
「 前田さん、コロッケ食べる? もう冷えちゃったけど 」
「 ・・・ 」
前田さんは無言だった。
けれど、手がヌッと差し出されたのでコロッケは食べるらしい。
嫌いなのに食べる。
彼女はやはり変わらないらしい。
僕は彼女にコロッケの入った紙袋を渡した。
油が薄っすら紙袋に染みて、手に付きそうだったけど前田さんはお構いなく食べていた。
食べてる時も髪で顔を隠しながら、草むらで動物が隠れて食べている様だった。
「 美味しい? 」
彼女はコクリと頷く。
嘘だと分かっていても可愛いと不覚にも思ってしまった。
今から別れを切り出すのに、僕は自分を呪った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます