第12話 小さな勇気

冬休みになる前、前田さんは休みがちになった。

周囲はその事も無視している。

何も変わらない日々。

居なくなった人の事は知らないと言わんばかりに

クリスマスや正月の話で盛り上がっていた。


何ヶ月も空気扱いを受けて、これまで登校していた事が奇跡なのかもしれない。


彼女は頑張ったのだ。

頑張り抜いたのだ。


自分を納得させる言葉を探してしまう。

情けない。

ずっと後悔をしていた。

でも前田さんは休みがちだったけど、学校には来ていた。


結局、空気扱いをされているのは変わらない。


その日、担任が休みになった。

風邪を引いたらしく、授業が1時間自習となった。

自習で大人しくする中学生はいない。

僕のクラスも例外無く、騒いでいた。

僕は大人しく、教科書に目を向けていたが、前田さんをチラチラ見ているのはいつも通りだった。


「寒いから空気入れ替え出来ないね」


山本が静かな声で言う。


「今度、先生に空気清浄機を買ってもらおうよ」


周囲の仲間が答える。

この会話だけでは、何も分からない。

先生が居ても、前田さんがいじめられている事に気付けない。


僕は知っているのに。

何も出来ない。

何故?

出来る事は?


気付いたら立ち上げ、前田さんの席まで歩いていた。


「こんな空気の悪い所は、居なくていいんだ」


僕は前田さんの手を取り、教室を抜け出した。

後ろから冷やかす声がした。

構うものか!

こんな空気が悪い所、呼吸をするだけ苦しい。

苦しいんだ。

前田さんはもっと苦しかった筈。

辛かった筈。


僕らは上履きのまま、外に出た。

冷たい空気が肺に入り、白い息が出た。

空を見上げると雪が降り出していた。








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