優しい味で満たされていく、少女の心。

高校へ通うことができないユキノ。ある日彼女はタバコ屋さんのお家で不思議な「魔女」に出会います。そして、それをきっかけにユキノの中で少しずつ何かが変わっていくのですが──。

ちゃんと愛されているのに、こんなに沢山心配をかけているのに、当たり前のことが当たり前にできない自分。彼女の胸は締めつけられ、心の毛糸玉をどんどん絡ませてしまいます。それは、周りの大人のふとしたひと言だったり、視線だったり、そしてなにより、お母さんの「愛情」が、本当にユキノにとって相応しいものとはズレてしまっているから。そのもどかしさやるせなさ。主人公の母に対する複雑な感情が、まっすぐで正直な一人称によってこちらの胸にぎゅっと迫って来ます。

精神的に娘と融合してしまっている母の姿は、ともすれば批判的な視線で読んでしまいがちです。でもそこには母という役目を果たそうと努力するがゆえに神経をすり減らす一人の女性の姿もあるのです。誰かが悪いのではなく、父や弟も含め、それぞれの思いがすれ違ったり、交差したりして、家族を作っているのだと気づかされます。

オトコの魔女が作り出す、絡まった心を温めるように解きほぐしてくれるレシピの数々も素敵です。そして主人公と同じく、どこか隅っこで生きている魔女たち。その優しさは押しつける類のものではなく、まるで伝い歩きの子どもを見守るような温かさに満ちています。

一人で歩こうともがく子どもを抱っこしてしまうのではなく、信じて見守ってみること。もしかしたらそれはむしろ親にとって一番難しい過程なのかも知れません。

主人公と同じ気持ちで苦しんでいる少年少女はもちろんですが、そんな子どもを見守る立場にある大人にこそ、おすすめしたい物語だと思いました。

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