9話 勇者合体

 ムラマサはconan Mk-IIIと未だ問答を続けていたが

 「あっ?何だ?キャーキャーうるせぇ女だな!」

 カルマに支えられたリムを見下ろす。



 アイネが女領主を覗(のぞ)き込み

 「そりゃ怖いよー!あれ多分リザードマンじゃないねー!リザードマンがあんなに強いのおかしーもん。

 でもリザードマンだなー。

 うーんうーん……あー分かったー!あれすーぱーリザードマンだ!

 おー!新種はっけーん!

 ギルドに報告だー!しょうきんだよー!奨金!しょう!きーん!!」


 木靴でバタバタするトンガリ帽子の首元に、明後日(あさって)の方を向いたムラマサが黒革のチョップを見舞った。


 トスッ!

「うぐぅっ!!」


 倒れる小さな召喚師の襟首をconan Mk-IIIが摘まみ、そっと隅にやった。



 カルマはリムの顔色を見ていたのでそれに気付かず

 「勇者様方!ご覧の通り、ギルドに依頼した冒険者ランク50以上の猛者(もさ)達が負かされてしました。

 この上は、どうか勇者様方だけでもお逃げ下さい!この様な事に巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません……。

 このカルマ、最後の血の一滴までリム様をお守りするために戦い、この地に果てようと思います!」

 無念、涙の溜まった真剣な目で勇者達を見上げる。


 ムラマサは黒革のハットを押さえ

 「はっ?逃げろってか?ちょっと意味が分かんねぇんだけど?」


 conan Mk-IIIはその老執事を見下ろし

 「あの大型のトカゲタイプのヒューマノイドの事だ。

 民間人には強大な戦闘力に映ったのだろう。」



 鏡二郎は思うところがある顔。

 すっとしゃがみ、老執事と同じ高さになった。

 「かるまとやら、お前に聞きたいことがある。」



 カルマはリムの額に手を当てながら

 「え?な、何でしょう?」

 至近距離の美の結晶にたじろいた。



 鏡二郎「今倒された、ぼうけんしゃとやら、奴等は何者だ?何を生業(なりわい)にしている?」


 カルマは唐突な質問に困惑したが

 「生業?あぁ仕事の事ですね。

 冒険者とは、その……色んな地方に出向き、隠された宝を探したり、モンスターを討伐したり……でしょうか?」


 鏡二郎うなずき

 「ふむ、のぶせりと変わらんな。

 では、この女領主は何をしたので妖怪に命を狙われている?」

 ぐったりしている単眼鏡(モノクル)を顎でしゃくる。


 カルマは、まだこの煌(きら)めくような美しい剣士の発言の意図が掴めない。


 それでもその目に、何か一筋の光明の様なものを感じ、応えた

 「な、何もしておりません。お嬢様はこの地方を治めているというだけで、断じて無理な税を課したり、圧政を強いたりはしていません。

 あのリザードマン達はただの気紛れ、いや娯楽の延長でお嬢様を襲うのです。」


 鏡二郎はうなずき

 「そうか。ではこうか、お前は主君の為に戦う家臣。

 そして、あの妖怪共は、勝手気ままに刃を振るう悪党共、これに相違ないな?」

 

 カルマは聞き慣れない美剣士の表現の一つ一つを噛みしめ

 「はい、そうなります。ま、間違いありません。」


 鏡二郎はすっくと立ち上がり、着流しの膝を払うと

 「然(しか)らば。」

 糸目で銀狐の柄(つか)を撫で、目をカッと見開くや、こう言った。


 「斬る!」


 やり取りを聞いていたムラマサは唖然とし 「はっ?なにそれ?!お前やるの?!お前正義の味方やっちゃうの?

 ヌハハハハ!!ダッセー!

 そんなことより早く帰りてーとか思わねーのかよ?」

 理解できないとばかりに、頭を振って肩をすくめた。


 ここでconan Mk-IIIも一歩踏み出す。


 ムラマサが眉を上げ

 「おいコナン!正かテメーもヒーローやろうってのか?!」


 conan Mk-III

 「うむ。お前を処刑するのも、民間人を護るのも俺の仕事だ。

 今しがた見たトカゲタイプのヒューマノイドの戦闘力、それ自体は全く大したことはない。

 だが、それがこれ以上民間人に振るわれるのを黙って見過ごせん。」

 メタリックレッドの腕を天地上下に構えた。


 カルマはconan Mk-IIIの不可解な発言に当惑し、思わず声にした。 

 「?……全く大したことは、ない?」


 ムラマサはそれを聞かずタメ息

 「あのな?前にも言ったが、俺様も悪党をバラすのにはバリバリの大賛成だ。

 なにしろ俺様、義賊だからよ。


 だが、あの化け物共、そんなバラすほどのこたぁやって」


 無言で赤い装甲の指で、アミトの足下を差すconan Mk-III。


 そこには縛られ、煤にまみれた少女達が呻き、すすり泣いていた。


 ムラマサは黒革のグローブでひさしを作り、目上にかざし

 「ん?女か。ま、かわいそうとは思うけどよー。

 そんだけじゃーなー。

 大体さ、話聞いてりゃよー、コイツらだけじゃなく、この星にはモンスターとかいう化け物が割かしウヨウヨしてるみてーだせ?

 正かお前等、そいつらが人を襲うの片っ端から全部助けるつもりか?

 ムリムリ!そんなの身が持たねーよ!」



 conan Mk-IIIはヘルメットを傾げ

 「身が、持たない?

 ふむ。大丈夫だ、問題ない。


 俺に搭載のシルバーウロボロスMk-IIIの負荷100%での予想限界駆動時間は、下限で700垓15京9989兆56億8500万9859日だ。

 どんなにその有害なモンスターが存在しようとも、最後の一匹とまでも闘い続けられるだろう。

 これはほぼ、無限と言える。

 そう、お前の持つ超古代人のオーバーテクノロジー三種の神器、双頭の銀狼の弾薬と同じ、だな。」


 ムラマサはポカンと口を開け

 「コナーン、取りあえず説明長ぇーよ!!てか、そーゆーことをいってんじゃねぇから!

 テメー頭が回るのかバカなのかよく分かんねぇヤツだな?

 俺様が言いたいのはなー」



 カルマは理解できない部分も多分にあったが、どうやらこの三人がリザードマンと戦うかどうかを相談しているらしいと察したので、ハッとし

 「勇者様方、お話し中失礼します。

 あの……先ほどの戦いをご覧にならなかったのですか?

 ギルドの高ランクの冒険者達が瞬く間に倒されたのですよ?

 きっとあのリザードマン達はただのリザードマンではありません!一秒でも早くお逃げ下さい!」

 

 ムラマサは会話を遮(さえぎ)られたので

中っ腹で

 「あぁ?いいからテメーはちょっと黙ってろ!

 あのなーコナン、2号、よく聞け?

 超古代の本にジーザスクライストっつーチートキャラがいてな。

 そいつが出来の悪りぃ舎弟共と旅をしていた時のことだ。

 大事に育ててたガキがおっ死(ち)んだババアと出会ったのよ。

 そんときさ、そのジーザスってーのが、なんと……」


 フムフムと頭を寄せる、メタリックレッドのヘルメットと狂おしき美剣士。



 アミトはそのやり取りを見ていたが、パン!と手を打ち

 「もう良いか?今日はアロンとダイトの成長が見れて満足した。

 今俺は大変気分が良い、その領主を差し出せば貴様等は許してやろう。

 フフフ……余りに弱い者を捻(ひね)り潰してもつまらんのでな。

 特別に屑(くず)召喚戦士等は逃げる事を許す。」

 サッサと行けと手を振った。


 「ギャハハハハ!」

 

 「良かったなー?」


 「いわゆるひとつの恩赦(おんしゃ)ってやつー?」


 リザードマン達が嘲笑(わら)う。



 ムラマサは話し込んでいたが、両手を広げ、黒革のハットを取って胸元にやり、目一杯キザなお辞儀をやってみせ

 「そりゃ温情あるお言葉を頂きどー、も。それよりさ、ちょっと聞いて良いか?

 その女達さ、どーすんの?やっぱ喰っちゃうわけ?」


 嫌味の意味も分からぬアミトは、足下へワニ頭を下ろし

 「ん?あぁこれか。俺達は肉なら何でも喰うが、いつぞやか俺の父親が、人間は女の17歳から19歳までが最も肉の味が良く、その質も良いと言っていたのを思い出してな。

 この街にはそれに該当する肉が多かったので、いい機会だから何でも喰うでなく、それを試してみようかと思ってな。


 まぁ何だ、折角の味比べだ、40を越えた女と食べ比べてみようと、巣にはそれらも捕らえてみてある。

 で、貴様、こんなことを聞いてどうする?」



 ムラマサが黒革のハットの下で着火した  「テメーという悪党は……。」


 conan Mk-III

 「40を越えた……だと?」



 ムラマサは狂気の笑顔全開で、景気よくパーン!と美剣士の肩を叩き

 「よーし2号!!俺様も手伝ってやる!!」


 銀髪の美男子は、いつの間に出したのか銀狼を上下に大見得を切り

 「銀河を股にかける大義賊団、シルバーチップのボスたぁー俺のことよ!


 花の命が短かけりゃ、愛でてやるのが漢道(おとこみち)!

 不粋(ぶすい)な奴等を蹴散らして、咲かせてみましょう十七歳!


 テメーらぁー!覚悟しろー!残らずバラ肉してやるぜーー!!ヌハハハハー!!!ヌハハハハーーー!!」



 conan Mk-IIIもフェイスシェードの奥で眼光を輝かせ

 「ウム!!超銀河団司法連盟ギャラクシークリストを代表して、宇宙最強戦士conan Mk-III!

 これより民間人救出を超最優先に、ここに正義を執行する!!」

 フシューッ!!

 スーツアーマーの背中の排気孔から熱気を噴いて見せた。


 目も眩むような美剣士は二人を眺めていたが

 「うちゅう?それには聞き覚えがあるな。後でそれが何か教えてくれ。

 あぁ。にごう、というのもな。」

 


 ムラマサが狂気の炎に燃えた目で美剣士に寄り、銀狼の長い鼻面でその肩を叩(はた)く

 「オイ!ハンサムヤロー!テメーも何か言いやがれ!」


 見る者に寒気を起こさせるような美剣士は

 「ん?何かとは、歌舞伎役者の様に口上を言えば良いのか?

 んー……では即席ですまんが……。

 ゴホン!


 京に狐の神が降り、俺に示すは邪(じゃ)を滅っせ、滅してくれよう不条理を!

 なれば今こそ悪、即、斬!!」

 銀狐を抜き、大見得を切る鏡二郎は卒倒するほどに美しく、画になっていた。

 

 ムラマサは再びパーンと鏡二郎の肩を叩き

「そーそー!そんな感じ!テメイカすじゃねーか!」


 鏡二郎は笑い「そうか?」



 これぞ見事に利害が一致した瞬間であった。

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