宇宙最強の三人が異世界で暴れます。
有角弾正
プロローグ
父親の急死からまだ1年。
若冠25歳の女領主リムは、文字通り頭を抱えていた。
頭痛の原因はここ最近、この領地カバンネにも、魔王の勢力拡大が押し寄せており、もはや自警団では、まともに対抗出来なくなってきていたからだ。
そこへ執事の老カルマが、温かい茶と良い知らせを持ってきた。
「リム様、喜んで下さい。
今しがた、我等が待ちかねた王都よりの召喚師が参りました。
直ぐにお会いになりますか?」
リムはハッと顔を上げ
「もちろんよカルマ!待たせては失礼です!直ぐにここへ!」
10分後。
領主の館、客間。
正装に着替えたリム
「あのー……」
単眼鏡を押さえ、女領主は遠慮がちに、目の前のアップルパイに夢中の、5、6歳にしか見えない、大きな帽子の美しい少女に話しかけた。
トンガリ帽子の美少女
「うあー、美味しー!
エヘヘー、こんなの都では食べたことないなー。
やっぱり田舎はリンゴが良いのかなー?」
頬までベタベタにしている。
リムが咳払い
「ゴホン、あのー召喚師、様?
ご堪能のところ、申し訳ありませんけど……」
トンガリ帽子の美少女は、何かを思い出した
「あーこれー!お師匠様の手紙ー!」
ジャムでベタベタの小さな手で、革の肩掛け鞄から封書を摘まみ出し、渡す。
リムが怪訝な顔をしているので、カルマが受け取り、開いた。
「あぁ、では失礼して、お読みしますね。
えー、王立魔法研究室、九つの瞳会、正式召喚師アイネ……と、ありますね。
ふむ、印は確かに王庁のものですな。
しかし、なぜ正式、の箇所に、二重丸が?……」
汚れていない中身をリムに手渡した。
トンガリ帽子の美少女は胸を張り
「えへへー。私アイネ。召喚術だけは才能の塊らしいよー!
あのねー、お師匠様がガツンとやっちゃえーって言ってたよー。
てやー!ってね!」
杖をリムに向ける。
リムは杖から顔をそらしながら
「や、止めて下さい!ほ、本当にこの街を守りに来たのですか?」
カルマも白い頭を抱え
「これは……あれですな。
魔王との戦いで、王都は慢性的に人手不足分。
しかし、田舎の地方領ではあっても、税も滞りなく納めておられます、領主リム様の正式な要請、流石に誰も送らぬ訳にもいかず、魔術師の見習いを送りました、という訳ですな」
リムは目頭を押さえ
「カルマ……。何事も、はっきり言えば良いというわけではありませんよ……」
アイネは頬を膨らませ
「なにー?私がダメみたいなこと言ってるなー!
もいっかい言うけどー私、召喚魔法だけは才能の塊だよー!
あー!もう怒った!スンゴいの喚んでやるからー!」
ピョン、と椅子から飛び降り、突然、杖の先で客間の床に、円形の紋様を描き始めた。
どうやら杖の先には、赤いチョークが仕込んであったようだ。
リムは慌てて
「えっ?ここで?ここで今から勇者様を喚ぶのですか?」
アイネは小さい鼻で、フンスと息巻きながら
「そーだよー!アイネが才能の塊なの見せたげるんだからねー!
とりゃー!」
必死で紋様を描いている。
カルマ「どうやら怒らせてしまいましたようですな。
召喚師様、どうか無礼をお許し下さい。
あの……召喚師様があまりにお若く、愛らしく有られるもで、つい……」
頭を深く下げ謝罪した。
アイネは聞いているのか
「よーし!できたー!じゃあ早速、召喚ワードをどーぞー!」
額の汗を拭い、女領主に聞いた。
リムは「しょうかん、わーど?」
困惑した。
アイネ「そーだよー!どんな勇者様を喚ぶのか決めてないのー?」
リム「え?どんな勇者様って……。あ、あの、選べるんですか?そういうのって……」
単眼鏡が落ちそうになる。
その時、メイド服が客間に飛び込んできた。
「リム様!またリザードマンの一団が攻めて来ました!
そ、それで……自警団がみんな……酷い大怪我を……」
顔を押さえ、その場にしゃがむや、声を上げ泣き出した。
リムとカルマの顔から血の気が引く。
リム「あぁ、何て事に!!」
よろめき、思わずテーブルに寄り掛かる。
カルマ「リム様!もう一刻の猶予もありません!今すぐ勇者様を!」
アイネを見る。
アイネはキョトンとしていたが
「そーそー!早くしなきゃー!
早く早くー!召喚ワードだよー!」
木靴を踏み鳴らす。
カルマは日々重圧に耐えている、歳若い領主を急かしては悪い、と思ったが
「お嬢様!」
声にした。
リムは頭を抱え、自分の無力さ、弱さに無念を感じていた。
だからこう言った。
「つ、強い……。そう、強ければ良いわ。 ……さ、最強の勇者様を!
召喚師様!お願い!最強の勇者を喚んで!」
涙が弾けた。
アイネは「オーケー!じゃあ行くよー!
召喚ワード!強い勇者様!
強ければ良い!強ければ何でもありありー!!三人くらいこいー!!
ふん!てやー!」
呪文の詠唱が始まった。
直ぐに客間が、円形の紋様が放つ、桃色の輝きで満たされた。
カルマは目を眩(くら)ませながら
「何でも、あり あり?」
勇者への期待より、不安しかなかった。
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