1話 銀の男

 銀河を駆け巡り、悪辣な星の支配者達を狩る、大義賊団「シルバーチップ」のアジト。


 その空母内。

大食堂は嬌声と笑い、強烈なビートの音楽に満ちていた。


 雑然とソファが並び、100名ほどの屈強な男達が皆一人に付き、二人は若い女を脇にはべらせている。



 女の香水、シャンパンの薫り、タバコのどギツい臭いが渾然一体。

正しく、狂乱の場と化していた。



 天井の巨大な黄金鏡の照明が眩しく輝き、銃創まみれの壁に弾けている。



 群衆の中央には、階段付きの直径5メートルほどの円形の台座、そこの真ん中に玉座が置かれていた。


 その玉座傍ら、左目が人工的な赤に光る、傷面の男が鉛色の右手を上げると、潮が退くように音楽、群衆が静まった。



 傷男は一息吸い込むと

「よーし!てめぇら!今日はよくやった!

ガルダーのヤツの間抜け顔は最高だったぜ!


 これで俺達シルバーチップの、銀河奴隷商人狩りは、丁度100だぁ!


 てめーら!こーいう時ぁ!ヤッパ、お頭からのお褒めの言葉と、ア レ が欲しいだろ?」


 問いかけに爆発音じみた、男達の叫ぶ声が応える。



 傷面は玉座に一礼する。


 

 深々と座っていた銀髪のロングコートの美男子は、よせよせと軽く手を上げ

「はぁー。お前、ホントそーゆの好きなのな?」


 言いながらウンザリ顔で、よっこらしょっと立ち上がる。


 そして革のハットを押さえ、シャンパングラスを傷面に向ける。


 それは空であった。



 傷面は「すいやせん、気付かねーで。」

そこへ金色のシャンパンを溢れるように注ぐ。



 銀髪は軽くうなずき

「よーし!てめぇら!今日はホントよくやったな!

首100だからって訳じゃねーが、たまにゃーアレ、やっとくか?!」



 また男達は熱狂、雄叫びを上げる。

男100人が、傍らの女達へ耳打ちする。


 えっ?という顔の女は少ない。



 銀髪は首をならし、人差し指を立て

「俺達が許せねえのはー?!」


 男達「悪党!!」


 銀髪「女の熟れ頃はー?!」


 男達「17!!」


 銀髪「宇宙最強の男は誰だー?!」



 男達「ムラマサー!!」



 銀髪のお頭、ムラマサは満足気にうなずき

「よーし!立て!!」


 言われる前に立ち上がる男達。


 女達もお互いに顔を見合わせ、シャンパン片手に、お祭り気分で立ち上がる。



 ムラマサはグラスを掲げ

「よし!飲め!!」



 一斉にシャンパンを飲み干す400人。



 これはパーティーでよくある、ただのイッキ飲み、ではなかった。


 何故か全員がゲップしながら、空のグラスを掲げ続けている。


 そう、400人全員が全員だ。


 そしてグラスを掲げた二の腕と、空いた方の手の指で、それぞれ左右、耳栓をする。


 その大集団の、不思議な立ち姿は異様であった。


 静まり返る大食堂……。



 ムラマサは台座から部下等を見下ろし

「入んねーよーにはするが、一応、目ぇ閉じとけ……。」


 いつの間にか魔法のように、ムラマサの両手には、長大な銀のオートマチック拳銃が握られていた。



 突然、銀髪の美男は何を思ったか、舞うように右回転!

そして何と、両の手の銃を乱射する!


 すわ大量殺戮か?!


 違う。


 何と、その二丁の銀のオートマチックは、部下、女達の手先の400器のシャンパングラスだけを、それだけを精確に撃ち抜いてゆく!


 何という神業か!


 黒いロングコートを翻し、踊るように撃ちまくる銀髪は、ろくに標的も見ていない!

 

 身体を捻り、のけ反り、正に撃ちまくった。

床に跳ねる薬莢の雨。


 金属音が美しい。


 銀の銃身は、瞬く間に先から灼熱し、焼けた鉄の赤に変わる。


 正に炎のバレットダンスである。



 十数秒後、ムラマサは煙が上る拳銃を、片方を天井へ、もう片方を床へと、大見得を切って美しい舞を終了させた。



 何とこの男、無駄な弾は一発も撃っていなかった……。


 恐るべき銃の腕であった。


 しかし、マガジンの交換もなく、400もの弾は、一体どこから……?


 

 シャンパングラスを貫通した弾丸は、壁に飾ってあった、額入りの賞金首ガルダーの絵の額(ひたい)も見事に撃ち抜いていた。


 それがガタン!と傾くや、カーンと床に落ちた。



 それを合図に大義賊団は拍手喝采。

男達は叫び、女達は嬌声を爆発させた。



 ムラマサが黒のハットを押さえ、手を上げると、再び群衆はシンとなる。



 「以上。後は、死ぬまで飲め。」



 また熱狂し、騒ぐ男と女達。


 大食堂には、大音響で新たな曲が流れ、400人の声と合わさり、大きな渦となってゆく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る