11話 殉職

 赤い鱗のリーダーに倣(なら)うように、芝生のエンシェントリザードマン達も立ち上がり、戦闘体制に入る。


 「ちょっとさっきの四人とは違うみたいだな」


 「そーか?ガーバの奴が間抜けだっただけじゃねーの?」


 「でも、あの剣は何でも切れそーだぜ!

お、おっかねぇ……」


 「そ、そーだな。でもやっかいなスゲー剣の奴は、ずーっと立ちんぼだぜ。

 後の二人は俺達全員で掛かりゃ、大したこたぁねぇんじゃねーか?」


 「よし!あの赤いのからやっちまおうぜ。

黒い痩せっぽちは後回しでいーやな」


 「よし!」


 エンシェントリザードマン達は油断なく武器を構える。

 元々強力な戦士の集まりなのだ。

 油断という不純物の消えた彼等は、純粋に手強いと言えるだろう。


 30匹の戦士達は、どうやらconan Mk-IIIへ総攻撃を仕掛けようという腹である。



 ムラマサは60個の爬虫類の目が、揃ってメタリックレッドを射抜いているのを見てとり

 「ハイハイ、どうやらご指名を頂いたのはコナンちゃんみてーだな。

 じゃ、コナンちゃんお願いしまーす!


 おーい。一人で大丈夫か?手ぇ貸してやろーか?」



 conan Mk-IIIは腕組みから天地上下に構え

 「それには及ばん。

 それより、あの男を見てやれ」

 数メートル先の美剣士にヘルメットを振る。



 ムラマサもそっちに黒革のハットを向け  「あー、2号か。

 あのハンサムヤロー、まーだキマッてんのか?

 アリャ並みの変態じゃねーな」

 スタスタとそっちへ歩き。


 「おーい2号。大丈夫かー?舌噛むなよー?

 これ何本に見えるー?いや黒目がねーから見えねぇか」

 黒革のブイサインを美しい眼前に振る。



 鏡二郎は白眼を剥いたまま

 「うぐぐぐぐぅ……」

 歯軋りで天を仰いでいた。



 ムラマサはタメ息で肩をすくめ

 「ダメだ、完全にキマッてるぜ!

 コイツよっぽど戦うのが好きなんだなぁ。

 ヌハハハハ!中々に面白れーヤローだよ」

 美剣士の黒い着流しの肩に肘を置き、仰け反って笑う。



 エンシェントリザードマン達は、conan Mk-IIIが単独になったこの瞬間を見逃さなかった。


 「やっちまえ!!」

 緑の脚の黒い鉤爪が、芝生を抉(えぐ)って土と一緒に跳ね散った。


 先ずは三匹がメタリックレッドの装甲に向かって跳躍、上空から襲い掛かった。


 手斧、蛮刀、手槍が唸る。


 自分よりも一メートルほども大きな、冒険者ランク50越えを手玉にとったアロンとダイトを含む、油断なしのトカゲ戦士達の猛襲。


 単身のconan Mk-IIIよ、どう戦う?



 三匹に続き、更に五匹が、更に四匹が跳び付く。

 

 都合(つごう)十二匹のエンシェントリザードマン達が代わる代わる無骨な武器を振るう。


 ギンッ!ガンッ!ゴゴンッ!ガギリリリッ!!

 ドガドンッ!!ガンガンッ!!

 

 刺し、突き、斬り、そして蹴り引っ掻く。


 巨大な緑鱗に囲まれ、土煙がもうもうと立ち込め、真紅のスーツアーマーはたちまち見えなくなった。



 ムラマサは銀狼の先で黒革のハットを押し上げて

 「アララララ……コナンちゃん囲まれちったかー。

 あいつノロそうだったからなー。

 ま、これでやっと俺様も晴れて自由の身だー。

 超銀河捜査官コナン、ここに殉職す。みたいな?」

 黒革の手袋で敬礼した。



 その直後。


 ボカーン!


 三メートルのエンシェントリザードマンが二匹、ロケットのように空へ打ち上げられた。

 

 次いで更に二匹が垂直に、くの字になって飛翔する。

 それがブンッ!と迫るのを、ムラマサが黒革のハットを押さえてかわす。


 もう一匹は、風を切って唸りを上げつつ、快感に打ち震えていた鏡二郎に迫る。


 が、美剣士は白眼を剥いたまま、逆袈裟にその緑の巨躯を見事一刀両断。

 それは左右に分かれ、後ろの闇に消えた。


 ムラマサは

 「チッ!やっぱ、あれぐれーじゃーくたばんねーかぁ」

 ウンザリ顔で黒革のハットを押さえる。



 conan Mk-IIIに襲い掛からなかったエンシェントリザードマン達に戦慄が走る。


 ドガッ!


 更にまた一匹が、錐(きり)もみに回転しながら宙を舞った。


 やっとconan Mk-IIIの姿が見えた。


 残りのエンシェントリザードマン達は一瞬躊躇(ちゅうちょ)したが、一斉にその隙間に雪崩(なだ)れ込む。


 またもや土の煙幕。


 ゴッ!ガッ!バギッ!!


 だが、そこから次々と吹き飛ぶのはトカゲ人間達だけ。


 一体何が起きているのか?


 conan Mk-IIIを取り囲む者は、遂に残り三匹となった。



 「てめぇ一体何なんだ?!」


 エンシェントリザードマン達に睨み下ろされるconan Mk-IIIのメタリックレッドの装甲には、何と傷1つ付いていなかった。


 代わり映えと言えば、その拳がメタリックでない赤に染まっているだけである。



 「螺旋(らせん)運動もないその程度の攻撃、俺には効かん」

 装甲の掌底(しょうてい)を前にかざす。



 エンシェントリザードマン達は当惑、困惑していた。


 この二メートルちょっとのチビは、どんなに斬り付けても、引っ掻いても、蹴飛ばしても倒れないのだ。


 それどころか、このチビのスローなパンチがヒットした仲間は千切れながら飛んで行く。


 こんな変わった光沢の鎧も見たこともはなかったし、素手で自分達の鋼のような強靭な鱗肌を突き破る人間がいるなど聞いたこともなかった。


 「こ、コイツ強いぞ?!ちっこいのにバカみてーに強ぇー!」


 そう声を漏らしたエンシェントリザードマンにconan Mk-IIIの猛烈なショルダーチャージがヒット。


 「グペェッ!!」


 血の糸を引きながら、ダンプカーにはねられたみたいに、信じられないスピードで後方の闇夜に姿を消した。



 メタリックレッドを前後に挟(はさ)む、残りの二匹はそれを目で追った。


 「オイ、こりゃ敵わねぇわ。マジの歯が立たねぇってやつだよ」


 「た、確かに硬ぇな。だけどよ!硬ぇのの中身はどうだかな?」

 長い舌で目玉を舐め、滑るように動き、後ろからconan Mk-IIIにしがみつき、羽交(はが)い締めにした。

 更に全体重を掛けながら、長い尾を装甲の脚に巻き付ける。


 「ギャハハハハッ!よーし!首、引っこ抜いてやる!」

 エンシェントリザードマンの息がヘルメットに掛かる。

 緑の筋肉が盛り上がった。


 conan Mk-IIIはゆったりとした動きで後ろに右手を回し、鱗の首を掴み、もう一方の手を下にやると、装甲の脚を締め付けるエンシェントリザードマンの太ももを掴んだ。


 エンシェントリザードマンは一瞬、おっ?という顔になったが

 「へっ!密着すりゃあこっちのもんよ!

 何をしても離すもんか!中身を捻(ひね)り千切ってや」


 「ぐあっ!」


 ビリッ!!

 分厚いものが破れる音。



 ムラマサは額に黒革の手をやり

 「あーあ」



 何と、エンシェントリザードマンのたてがみのような背鰭(せびれ)の直下(そそり)たつ鱗の腰が真横に裂け、ピンクの赤身が見えた。


 そのままビリッバリッっと上下に引っ張られ、遂にその裂け目からは白い背骨が見えた。


 鮮血が噴き出す。


 何と、組み付いたエンシェントリザードマンは、そのまま腰を中心に上下に引き千切られたのである。


 「うぐあー!」

 一声叫び、ガクリ。


 組み付いたエンシェントリザードマンはメタリックレッドのヘルメットを抱くようにして絶命した。



 conan Mk-IIIは、ゆっくりと尚も巻き付き、痙攣する尻尾をほどき、ドサッ。

 エンシェントリザードマンの骸(むくろ)を芝生に放った。


 何と言う怪力か。


 残った一匹は目をカッと見開き、喉を鳴らすや後方に跳ね、街の入り口方向へ振り返りもせず遁走した。



 アミトは驚愕していた。


 「お、俺は……悪い夢でも見ているのか?

 何という強さだ。

 貴様、本当に人間か?」



 conan Mk-IIIはフェイスシェードを逃走者からアミトへ向け

 「俺は人間じゃない。バイオニックコマンドーだ」

 装甲の親指で自らを差した。



 conan Mk-IIIのヘルメット内に女の声が響く。

 「心拍数が安定しました為、トレーニングモードから通常モードに移行します。

 

 ただ今のトレーニングモードにおける  スーツ損傷 なし。生体損傷 なし。


 ウロボロスMk-III稼働率 約2%


 生体への負荷が低過ぎるため、通常モード時の筋繊維の破壊、肥大、圧縮を越えるレベルでの活動は認められませんでした。


 続いて消費カロリーと二酸化炭素排出量」


 conan Mk-IIIは僅かにうなずき、フェイスシェードの表面を外からタッチし、それを黙らせた。



 アミトは倒されたエンシェントリザードマン達のリーダーであり、強く体も大きい。

 だか、それでもその30匹には敵わない。

 一瞬で負けを認めた。


 「だがな……」

 アミトは尚も不敵に笑い、足元に倒れた少女達の手近な一人に、その真っ黒い鉤爪の手を伸ばした。

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