13話 剣より論破
カルマは呆然としていたが、アミトの下半身が、ドサンッ!と倒れる音でハッとし、一時は玉砕すら覚悟した絶望のドン底から、今奇跡のように救い出された事を理解した。
「あ、あの強敵エンシェントリザードマン達を……倒した?
な、何という強さ!!これぞ正しく勇者様!」
思わず駆け出し、芝生の上に倒れたムラマサへ膝間付き、その黒革の手を握る。
ムラマサが目を剥く
「うがあーーー!止めろー!!
俺が悪かった!許してくれーー!!」
老執事が感激のあまり握り、強く揺さぶったのは、長大な銀のオートマチックの消えた左手であった。
「も、申し訳ございません!つい……」
そっと黒革の手袋を芝生に下ろそうとしたのを隣のconan Mk-IIIがグワシッと掴む。
ムラマサ「ギャーーーー!!」
メタリックレッドの戦士は、それを大根を選ぶようにグリグリ回し、その付け根、肩をしげしげと見詰め
「ウム、肩が外れているな。腕は、折れている。
ウム、今こそ絶好の処刑の好機と見た」
ボトッ、と伸びたその左手を無造作に芝生へ落とした。
ムラマサは仰け反り
「あぎゃーーー!!
テメーー勝者に鞭打つ気かよ?
痛だだだだだ!」
conan Mk-IIIはフェイスシェードの奥で目を細め
「先程のお前の戦闘力、目を見張るものがあった。
それだけに、この力が野放しであるという事実、やはり危険過ぎる。
お前には既に連盟政府から判決が下りている。どのみち処刑は免れられん。覚悟しろ」
横たわるムラマサは超弩級の射撃の反動で、左腕のみならず脊髄等も損傷しているようだ。
conan Mk-IIIの処刑宣告に上半身を起こす事も出来なかった。
膝立ちのconan Mk-IIIが弓を引くように、必殺の右拳を振りかぶる。
ムラマサがぎょっとし
「テ、テメー怪我人相手に卑怯だぞ?!」
カルマがそれに飛び付いた。
「コナン様!お待ち下さい!!処刑とは本気ですか?!」
メタリックレッドの装甲の腕は太く大きく、まるで丸太のようであった。
conan Mk-IIIはフェイスシェードは目標に下ろしたまま
「カルマとやら、その手を放せ。
俺がこのまま拳を下ろせばお前もただでは済まん。
俺は立場上、民間人を傷付けてはならんのだ」
その声には何の感情もこもっていなかった。
それだけに有言実行の重い響きがある。
カルマに恐怖はないのか、逃げるどころかエンシェントリザードマン達を粉砕した、このバイオコマンドーの剛腕に体ごとしがみつく。
「コナン様!ムラマサ様も、この街とお嬢様をお守り下さった立派な勇者様でございます!
その方をなぜ処刑などと言われるのです?!」
conan Mk-IIIは拳を掲げたまま老執事を見上げ
「この男は勇者等ではない。
この男とその一党は、人身売買の犯罪者達を、現在解っているだけで100名殺害している。
また、俺の前任の連盟捜査官を二体破壊し、それによって死傷者は出なかったものの、星間の環境に甚大な被害が生じた。」
メタリックレッドの戦士は、泡を吹いている黒革のロングコートを見下ろし
「なるほど、今は傷付いた英雄に見えるかも知れん。
だが、ある日突然この男は、それこそちょっとした気分でエンシェントリザードマン達と変わらぬ事を始めるかも知れんのだ。
司法に則(のっと)っていない、とはそういうことだ」
そう語るconan Mk-IIIのフェイスシェードに銀色の光が射した。
妖刀銀狐である。
鏡二郎は「お前は奉行方(ぶぎょうがた)の者だな。
この男、軽薄で狂気を感じさせる時もあるが、決して悪党ではないと思う。
俺は数々の悪党を倒してきたから分かる」
conan Mk-IIIが美しい太刀を見詰めると
、フェイスシェードの内側に文字の羅列が走る。
(ただの鋼だと?ではあの不可解な切れ味は一体……)
美しい剣士は続ける
「俺は物心ついたときから、他人(ひと)からは鬼の子のように疎(うと)まれ、奇異の目で見られてきた。
特に女達は俺を見て、気を絶するほどに忌み嫌う。
どこへ行ってもそんな扱いばかりで、ほとほと他人(ひと)というものに嫌気のさしていた俺だったが、この男はそんなことはなく、直ぐに俺に声をかけ、仲間のように扱ってくれた。
この男は無頼を装うことも多いが、俺には憎めんのだ。
だから、お前がどうあってもその拳を下ろす、というのなら……俺がお前を斬る。
ま、お前も悪党ではないから、それはそれで気が退ける。
出来れば考え直してもらいたいのだが」
conan Mk-IIIは美剣士を見上げ
「何度も言わせるな。その悪党ではないと思う、とか、俺には分かる、というのが危険だと言うのだ。
統制、制御されていない力は容易(たやす)く犯罪、無法な殺戮に繋がる。
お前はこれが解らんような馬鹿ではないと思ったが。
俺の鑑定違いか?」
鏡二郎は美しい瞳でconan Mk-IIIのフェイスシェードの奥を見ていたが
「では聞こう。
先ほどお前がやったことは司法に則った物なのか?
見かけは蜥蜴(とかげ)の妖怪かも知れんが、人語を解し、笑い、仲間と組んで戦う、そんな中身は極めて人に近い生き物を、お前は一片の慈悲なく討った。
奴等に奉行の審議は施されてはいない。
つまりお前は、お上の裁きを待たず、自らの裁量で妻子が有るやも知れん者共を勝手に咎人(とがびと)にありと独断し、裁いたということだ。
この人身売買を討ったムラマサという男とお前と何処がどう違うのか説明して貰おうか?」
鏡二郎の声には、飽くまで脅すような響きはなく、単に事実を相手の眼前に置いただけであった。
conan Mk-IIIは怒れる彫像の如く黙っていたが
「フム、お前は俺の鑑定の上を行っていたか。
よかろう。基地との通信がつながるまでは俺がこの男を見張ろう。
だが、もし善良な市民に危害を及ぼす事になれば」
鏡二郎はその剣の速さで
「悪党は俺が斬る」
conan Mk-III
「お前も危険過ぎる、という部類に入るな。
さて、消火と救助活動に入るか」
カルマはそれを聞いてホッとし、脱力感でその場に崩れた。
その足元のムラマサは、度胸があるのか、脳に深刻なダメージを負ったか、大分前から高イビキで失神していた。
その後、動ける者達で夜を徹しての消火、救命活動が行われた。
怪力と炎をものともしないスーツアーマーで的確な指示を出す、conan Mk-IIIの有能さに、街の住民は舌を巻いた。
リム、アイネも目を覚ました。
リム「勇者様方はやっぱり勇者であったでしょ?カルマ、あなたは心配性に過ぎますよ!」
カルマは「はい、誠に。返す言葉もございません」
こってりとしぼられた。
アイネは戦いの終結を知ると
「くそー!見たかったなー!どんな戦いだったんだろー?ざんねーん!
あれー?私何で寝てたんだろー?!」
鏡二郎が知らん顔で
「火事の煙を吸いすぎたのだろう」
アイネは納得のいかない顔で
「そーなのかなー?ぐわー下手こいたー!」
小さな手でトンガリ帽子を引っ張った。
ギルドの四人、手練れの冒険者達は正しく瀕死の状態ではあったが、流石は冒険者、日頃の鍛え方が違うのか、奇跡的に誰一人死んではいなかった。
街の僧侶が老僧侶エルダーに治療魔法を施すと、老僧侶エルダーが意識を取り戻し、それとは比べ物にならないほど強力な治療魔法で仲間を癒した。
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