14話 人智を超えたもの

 エンシェントリザードマン達の襲撃を受けたものの、なんとか焼け落ちなかった宿屋の最上級のスイート。

 勇者達3名はそこに居た。



 conan Mk-IIIが左腕の装甲のパネルを開けて、ヘルメットの則頭部の複数のキーを弾き、何かの操作をしている。


 そこから出ていた白と黒のチューブが腕に巻き取られていく。

 その全てが装甲の内側に収まり、パネルが閉じると、conan Mk-IIIのフェイスシェードの内側に文字列が走る。


 「ウム……このメディカルキットではこの辺りが限界か。

 やはり基地の医療センターでなければこれ以上の回復は見こめんな。」


 ベッドのムラマサは右手を振って

 「いや、2号が肩はめてくれたし、そのキットで腕の痛みはなくなったぜ。

 2号、コナン、あんがとよ」


 目の覚めるような美貌の剣士は、conan Mk-IIIの左腕のメディカルキットに興味津々であった。


 「それで短時間で痛みと腫れを取る事が出来るのか。

 驚いた。お前の国は俺の居た国よりずっと先を行っているようだな。

 どうだ?ムラマサ、起きれるか?」


 ムラマサは力んでみたが

 「いや、まだ無理だなー。クッソー!ガールのヤツー!ムチャクチャやりやがってよー!!

 はぁ……前に135を試しに撃った時もこうなったが、船の高性能メディカルキット使って一月で治したなー。

 ただ、この星の雰囲気だと高性能どころかまともなメデイカルキット自体きびしーだろーな。

 ま、地道に治すさ。」

 美しい顔に黒革のハットを被せる。


 conan Mk-IIIはフェイスシェードの内側の文字列をもう一度眺める。


 そこには先ほどと同じく

 [負傷者男性の状態。

 左腕骨折・軽度。

 脊髄損傷・レベル4。

 歩行能力の回復には医療センターによるオペレーションが必要です。

 時間経過による回復は見込めません]


 「ウム、そうだな。時間経過による自然回復を待つしかないな」

 感情のないロボットのように言った。


 ムラマサはうなずき

 「ま、そーゆーこった。この程度のケガ、十七歳の応援でもありゃ一発で治るんだけどよー」

 

 美剣士は柳眉をひそめ

 「そういうものか?」


 ムラマサは黒革のハットの下で

 「そういうもんだ」



 その時、スイートのオーク材のドアが鳴った。

 ムラマサがそちらを見て

 「開いてるぜ!」



 入ってきたのは、カルマとギルドの手練れ冒険者達の四人であった。


 

 女盗賊ハミルが室内を見回し、広い空間に口笛を響かせた。

 「へぇー!さっすが勇者様のお部屋!アタシ達の部屋とはランクが桁違いだよねー!」


 魔術師シェケムがその声に露骨に顔をしかめ

 「まぁこの業界は超実力社会ですからね。 結果を出した者は、評価もそれに伴って当然です。

 今回が特別なだけで、普段は私達が勇者さんたちの立場でしょ?」


 カルマが畏(かしこ)まり

 「いえ、断じてそういう訳ではなく……その……」

 そういう訳らしい。


 戦士ダイナスが大きな手を振り

 「いや気にしてはいない。ハミルは思ったことを直ぐに口に出す、一々真に受けていてはもたないぞ」

 若者は頼もしく、爽快だった。


 ハミルは「なによそれ?」

 頬を膨らませた。


 カルマが「すみません……」

 白髪の頭を垂れた。


 老僧侶エルダーが長い髭を撫でながらベッドに寄り

 「うむ、この寝ておるのがエンシェントリザードマンのリーダーを倒した怪我人か。

 どれ、ワシが唱えられる最大レベルの治療魔法を唱えてやろう」

 その嗄(しわが)れ声には字面とは異なり、ムラマサへの敬意が感じられた。


 カルマが礼節の行き届いたお辞儀を見せた

「僧侶様、宜しくお願い致します。」


 老僧侶はウムウムとうなずくと銀髪の美男に手をかざす。


 ムラマサは形の良い片眉を上げ

 「おいおいジーさん!何やろうってんだよ?!」


 カルマがエルダーを手で差し

 「失礼致しました。こちらエルダー様は高ランクの僧侶でいらっしゃいまして、今から瀕死の状態からの復帰も可能な、高度回復魔法を唱えて頂きます。

 ですからムラマサ様のお怪我も瞬時に癒される事と思います。」


 ムラマサは治療説明をポカンとしていたが

 「よせよせ!俺様はジーさんから何かされんは絶対イヤだ!

 大体なんだ?そのマホウっつーのはよ?  俺様は繊細だからよー、高ぇーオートメディカルキット使うってんならまだしも、農村のジジィの民間治療なんか死んでもいらねーぜ!

 気持ちはありがてぇけど帰ってくれ。

 全く、こんなのジッとしてりゃ直ぐ治るんだからよー、ほっといてくれよなー!」

 そう言って、あっち行けシッシまでやった。


 冒険者たちは固まった。


 魔術師シェケムが困惑の顔で金色のボブを掻き上げる

 「えーと……この方、何を言ってるんですかね?

 高ランクの僧侶の回復魔法、しかもそれをタダでかけてもらえるなんて、どんなにそれが有り難いことか分からないのですかね?」


 戦士ダイナスも短い金髪をガシガシやってタメ息

 「ま、それだけ田舎の出の者なんだろう。

 ムラマサとやら、よく聞けよ?

 俺達がエンシェントリザードマンから負った傷はどこにある?

 俺は全身打撲、ハミルは内蔵破裂、シェケムは頭蓋が陥没していたし、エルダーは背中から肺臓まで蛮刀が貫いていた。

 それが今は綺麗サッパリ、」


 conan Mk-IIIはフェイスシェードの内側に流れる文字列を読んでいたが、思わずといった感じで口を挟む。

 「ウム、興味深い。確かにオートメディカルキットもない未開の星で、一晩でこれほどの完全回復。

 ムウ、そのマホウとやら、単なるまやかしではないのかも知れんな。」


 女盗賊ハミルは

 「未開って、アハハハ!魔法も知らないクセに面白い事言うねー!」

 少しの揶揄(やゆ)。


 老僧侶はうむ、とうなずくと

 「こちらの赤いのの方が頭は良さそうだの。

 どれ、では始めるぞい」

 血管の目立つ老いた右手を僧服から突き出した。


 「だから帰れっつーの!」

 ムラマサが寝たまま枕を投げるとボフッと老僧侶の顔に命中。


 「ふが!」


 「何度も言わせんなよ!俺様は民間治療はいらねーっつーの!

 いーからみんな出てけー!俺様はのんびり治すって言ってんだろ!?」


 美貌の剣士が、回復魔法を見たいconan Mk-IIIと目配せを合わせて、うなずき

 「押さえ付けろ」


 麻痺した黒のロングコートはギョッとしたが、二人の勇者達から当然逃げられはしなかった。



 「ヤメロー!!俺様に触るんじゃねー!!

 テメ2号ホントヤメロ!!

 あだだだ!コナン!オメー力の加減てーのを知らねーのかよ?!あだだだだ!」


 女盗賊ハミルは肩をすくめ

 「ヤレヤレ、ホントにうるさい男だよね。 ただの回復魔法なのにさ」



 そこでまたドアが鳴った。


 遠慮しいしいドアが開く。

 その隙間から金髪の美少女が顔を覗かせ、部屋に入ってきた。

 

 アミトに人質にされた十七歳の少女だ。


 突然の来訪者は彼女一人だけではない。

 色とりどりの美少女達が数珠連なりで入ってきた。


 「あの……私達、勇者様方にお礼を言いに来ました。

 えと、私達学校で授業中にリザードマン達の襲撃を受けて、それで捕まってしまって……もうこれで終わり、死ぬかと思ってました。

 勇者様、本当にありが」


 ドン!バン!


 conan Mk-IIIと鏡二郎が左右に別れ飛び、広いスイートの離れた壁に背をぶつけた。



 影が滑るように黒革のロングコートはドアの前に立っていた。

 

 銀髪の美男は黒革のハットを押さえながら

「あの程度の雑魚、俺様にかかりゃー何でもねーよ!

 それよりさ、これから飲みに行くからよー!みんなで騒がねーか?

 あーでもでもお前達はアレな、酒はダメだからジュースな?」

 バチっとウィンクまで決めた。


 そして部屋へ向き直り、カルマへ

 「勇者筆頭ムラマサ様へ謹んで捧ぐ、大勝利の宴!みたいなの、やってくれんだろ?」


 カルマは目をしばたかせ

 「あっ、ハイ。勿論そのつもりですが……。

 あのー……ムラマサ様、お身体は?」


 老僧侶エルダーはヤギのような長い眉をしかめて

 「なんじゃあ?あの男、怪我は大したことはなかったか。

 そーかそーか、ふほほほ。無駄に魔力を消費せんで良かったわい」


 conan Mk-IIIはフェイスシェードの内側に流れる文字列を眺め

 「マホウとやらよりも、あいつの体の仕組みの方が不思議かもしれんな」


 美剣士も卒倒するほどの美しい笑顔を輝かせ

 「ふふふ……面白い男だな。うん、酒なら俺も付き合うぞ」

 ドアの方へ歩き出した。


 途端、数名の悲鳴と倒れる音がした。


 conan Mk-IIIの眼前にはオレンジ色の文字列が輝いていた。


 [errorNo.999 負傷者男性の先程計測された損傷が消失しました。

 再計測を行うか、この医療プログラムが最新のものであるかを確認して、]


 conan Mk-IIIは、無言でフェイスシェードの外側を装甲の指でタッチしてそれを消した。

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